表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に事故死させられるはずだった伯爵令嬢、死を偽装して公開断罪いたします[全5話]  作者: 白昼夢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

第ニ話 共犯者は可憐な妹



「でも、お姉様」


エミリアは先ほどまでの笑みを消し、真顔で言った。


「本気でやるの?」


「ええ」


「失敗したら……本当に死ぬのよ?」


「そのときは、その程度の運命だったというだけですわ」


「軽く言わないで」


ぴしゃりと遮られる。


妹の瞳は、冗談を許さない光を宿していた。



翌日。


伯爵家の古い医師を極秘に呼び出した。


重厚な診察室。

扉が閉まる音がやけに大きく響く。


「事情は理解しました」


医師は低く言った。


「ですが……仮死薬は危険です」


「成功率は?」


「高い。ですが――絶対ではありません」


沈黙。


「命を賭ける価値が?」


試すような視線。


私は即答した。


「あります」


「……理由をお聞きしても?」


「私の人生を奪おうとした男に」


私は静かに微笑む。


「代償を支払わせるためです」


医師はしばらく黙り込み、やがて深く息を吐いた。


「……ヴァレンシュタイン家に仕えて四十年」


そして頭を下げる。


「お嬢様の命、お預かりいたします」



計画は慎重に進められた。


・仮死薬の調合

・事故演出の準備

・協力する使用人の選別

・遺体確認を避ける手順


「本当にやるのね」


夜、エミリアが呟く。


「怖い?」


「少しだけ」


「安心なさい」


私は紅茶を置いた。


「私は負けませんわ」


「……言い切るのね」


「当然ですもの」



数日後。


アルフォンスの態度に変化が現れ始めた。


「クリス、東の庭園は危険だ」


唐突な忠告。


「足場が悪いんだ」


「まあ、そうですの?」


私は首を傾げる。


「星が綺麗と聞きましたのに」


一瞬。


彼の表情が固まった。


ほんのわずかな動揺。


見逃さない。


「君に怪我をしてほしくない」


取り繕う笑顔。


だが瞳の奥に滲むのは――焦り。


(予定を早めたいのね)


小物は、想定外に弱い。



その夜。


わざと父の前で言った。


「東の庭園、行ってみたいですわ」


「今か?」


父が怪訝そうに眉を寄せる。


「ええ。最近、気分転換がしたくて」


アルフォンスの指先が、ぴくりと震えた。


「……夜は危険だ」


「あら」


私は微笑む。


「婚約者様が守ってくださるのでしょう?」


逃げ場を塞ぐ。


「……もちろんだ」


引きつった返答。


追い詰められた顔。



さらに私は、彼にだけ聞こえる声で囁いた。


「怖いですわね」


「……何がだい?」


「事故って」


アルフォンスの瞳が揺れた。


確かな恐怖。


罪を抱えた者の反応。



そして。


ついにその瞬間が訪れる。


「クリス」


夜会の帰り道。


「今夜、少し散歩しないかい?」


来た。


「どちらへ?」


「東の庭園だ」


優しい声。


だが滲む緊張。


私は微笑んだ。


「喜んで」


背後で。


エミリアが、静かに頷いた。



夜。


東の庭園。


月光に濡れた石段。


アルフォンスが私の背に手を添える。


「足元に気をつけて」


その指先に、わずかな力。


私は知っている。


次に何が起きるのか。


――だから。


私は自ら足を滑らせた。


「きゃ……!」


視界が回転する。


夜空。


石。


衝撃。


赤。


「クリス!?」


悲鳴。


動揺。


そして。


私を見下ろす彼の顔に浮かんだ――


**安堵**



(ええ、その顔を待っていましたの)


私の意識は、ゆっくりと闇に沈んでいく。


だがこれは終わりではない。


始まりだ。



翌朝。


王都を駆け巡る報せ。


**伯爵令嬢クリスティーヌ・ヴァレンシュタイン、事故死。**


そしてアルフォンスは、


悲劇の婚約者を演じながら――


破滅への階段を踏み出した。


**――だが彼は、まだ知らない。**


本当の悪夢が、これから始まることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ