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婚約者に事故死させられるはずだった伯爵令嬢、死を偽装して公開断罪いたします[全5話]  作者: 白昼夢


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第一話 幸福という名の舞台



私は、自分の婚約者に殺される。

しかも――事故死として。


泣き崩れる暇はなかった。

怒り狂う価値もない。


なぜなら私は、その計画書を読んでしまったのだから。



伯爵家長女、クリスティーヌ・ヴァレンシュタイン。


家柄、容姿、教養。

すべてに恵まれた順風満帆な人生は、たった一通の書簡で崩壊した。


ある午後。

図書室で偶然手に取った封蝋付きの手紙。


差出人――婚約者アルフォンス・レイモンド。

宛名――見知らぬ男。


何気なく開いた、その瞬間。


私の世界は静かに終わった。


「事故に見せかけ、令嬢を排除する」


「……なるほど」


声は驚くほど冷静だった。


胸の奥で、何かが静かに壊れる音がする。


愛していると言いながら、

裏では私の死後の財産分配を相談していた男。


伯爵家の財産を丸ごと手に入れるための計画。


悲しみより先に浮かんだ感情は――


**利用してやりましょう**


だった。



その夜。


何事もなかったかのように食卓に着く。


父は政治の話をし、

母は穏やかに微笑み、

妹エミリアはデザートの順番に文句を言う。


そして。


「クリス、顔色が優れないね」


アルフォンスが優しく微笑んだ。


完璧な婚約者の仮面。


その笑顔の裏に、

“私の死”を織り込んでいるくせに。


「少し疲れただけですわ」


私も微笑み返す。


仮面同士の晩餐。


この瞬間、確信した。


あなたが私を舞台から退場させるつもりなら――

私は観客席から、あなたを奈落へ落として差し上げる。



食後。


「……お姉様」


私の部屋に入るなり、エミリアが真顔で言った。


「何かあったでしょ?」


「どうしてそう思うの?」


「本気で怒ってるとき、

右の指先だけ力が入るの」


……鋭すぎる。


私は一瞬だけ迷い、そして決めた。


「アルフォンス様が、私を殺すつもりらしいの」


沈黙。


次の瞬間。


「やっぱり」


即答だった。


「……驚かないのね」


「最近、変だったもの」


エミリアは淡々と言う。


「使用人に屋敷の構造を聞いたり、

庭の石段をじっと見てたり」


そして、小さく鼻で笑った。


「頭が悪いくせに、策士ぶってる顔して」


思わず苦笑が漏れる。


この子は――味方だ。



「どうするの?」


問われ、私は静かに答えた。


「彼の計画通りに、死にます」


「……は?」


「もちろん、本当に死ぬわけではないけれど」


エミリアの瞳が、ゆっくりと輝く。


「死んだふり……?」


「ええ。完璧に」


事故死を装うつもりなら、

望み通り“事故”を与えて差し上げる。


ただし――脚本は私が書く。


「でも、お姉様」


エミリアが真顔になる。


「失敗したら?」


「そのときは本当に死ぬだけですわ」


「軽く言わないで」


「命を賭ける価値がありますもの」


私は微笑んだ。


「裏切り者を破滅させるには」



こうして。


伯爵令嬢クリスティーヌ・ヴァレンシュタインの“死”と、

婚約者アルフォンス・レイモンドの破滅は、


同時に計画された。


エミリアが、悪戯っぽく笑う。


「……最高ね、お姉様」


私も微笑み返す。


**復讐劇の幕を上げましょう**


まだ誰も知らない。


幸福という名の舞台が、

すでに崩れ始めていることを。





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