回収作戦 (3)
最初の奇襲を無事成功させたハデスは、ひとまず撤退し、再び敵を攻撃する準備を整える。
これで敵は我々の存在を認識し、次の同様な奇襲に備えるため、行軍速度を落とすだろう。
ただし、不安要素があるとすれば、襲撃の際に聖偉国の兵士とは異なる装束をした者たちがいたことだ。
『もしあいつらがあそこへ向かうとしたら、面倒なことになるな…』
陣地は構築したものの、時間をかければ攻略できないこともない。
ハデスの的確な援護がなければ、長くは持たないだろう。
そう考えて間もなく、二度目の奇襲が始まった。
「襲撃だ!」
今回は防備を整えていたため、深く突っ込まず、数名の兵士に傷を負わせて撤退する。
ハデスを追撃しようとする兵士たちは、骸骨の弓兵が放つ矢によって足を止められ、逃走の時間を稼ぐ。
『あいつらがいない…』
嫌な予感は的中した。
「残り三時間か。俺は陣地に戻る。お前たちは残って作業を続けろ。」
骸骨弓兵たちに命令を下すと、ハデスは彼らが向かっている方角を推測し、駆け出した。
――同じ頃、冒険者チームは震源地へと徐々に近づいていた。
チームは、剣士であるリーダーと、僧侶、弓兵、盗賊からなる構成。
彼らは慎重に隊列を整えながら、震源地へと進んでいく。
『妙だな…洗礼は受けたとはいえ…』
不思議なことに、森へ入った直後とは違い、震源地へ近づくにつれて汚染の影響が薄れていくのだ。
「リーダー、もしさっきのあの奴が現れたらどうします?」
「あの奴?」
「さっき俺たちと兵士たちを襲った奴ですよ。」
「……。」
今回の依頼は単なる調査であり、聖偉国の兵士と共に行動する簡単な任務だと思っていた。
しかし、森へ入った途端、我々を襲ったあの存在を確認してから、事態は狂い始めた。
予想以上に危険な依頼だと理解する。
「…単純に考えよう。俺たちの依頼は調査だ。何が起きているか確認すればいい。つまり、あの奴を捕らえなくても、戻って報告すれば任務は終わりだ。」
冒険者は依頼された目標のみを遂行する。
それ以下も、それ以上もない。目標を達成し、報酬を受け取れば、それで終わりだ。
「待て…あそこに何かある。」
先頭の盗賊が手を挙げると、後ろの者たちは一斉に足を止めた。
盗賊の指差す方へと視線を移すと、そこには骸骨の群れが構築した陣地と、その何かを守る姿があった。
「ここ、元は村じゃなかったか?」
「ああ。おそらく村を壊して作った陣地だが、思った以上によくできてるな。」
元兵士であったリーダーが言う。
「面倒なことになったな。俺が一人で中に入って確認してくるか?」
盗賊一人なら、何事もなく確認を済ませられるだろう。
だが問題は、あの存在だった。
訓練された兵士たちを相手に圧倒的な力量を見せた彼は、全員が揃っても勝てるかどうか分からない相手だ。
「後続部隊を待つか?」
「…いや、危険だが俺たちだけで攻略したほうがいい。」
「は? その間にあの奴が現れたらどうするつもりだ?」
「心配するな。指揮官殿が、危険な時はこれを使えと言って渡してくれた。」
リーダーが手にした物を皆に見せると、全員が息を呑んだ。
特に僧侶はなおさらだ。
単に指揮官が使えと言って渡したにしては、あまりにも過分で、同時に危険な代物だったからだ。