亡霊島の調査 (1)
for you
ハデスと骸骨戦士たちは、亡霊船に乗り込みながら、島への到着を静かに待っていた。
ハデスはそっと目を閉じ、あのときの記憶を思い返す。
彼が初めて亡霊島で目を覚ました日――。
崩れた城壁に腰かけ、本を読みながら、まるで日常の一コマのように挨拶をしてきた少女の姿があった。
「……やぁ。」
彼女がそう挨拶した瞬間、ハデスは無意識に剣を振るっていた。
鋭く斬られたその首は宙を舞い、やがて地に転がった。
ハデスは額を押さえながら、頭の中で鳴り響く頭痛に耐える。
「目覚めたばかりなのに、元気だね?」
――聞こえるはずのない声が聞こえた。
彼は、自ら斬り捨てた少女の身体と、転がった頭部を見た。
その頭が、まるで普通のように喋っているのを見て、彼は直感した。
『……この女は、殺せない。』
「……貴様、何者だ?」
彼は手にしていた剣をすぐに地面に置き、問いかけた。
「君を起こした主であり~、この亡霊島の支配者ってとこかな♪」
「亡霊島? それより俺を目覚めさせただと? どういうことだ?」
少女は指で足元を指す。
よく見ると、そこには召喚の儀式のような魔法陣が描かれていた。
「この島で一番強い人を召喚しようとしたんだけど……うーん、失敗しちゃったみたい。
本当はもっとすごいヤツを呼び出す予定だったんだけどね~」
「……失敗?」
少女は力の抜けた表情で両手にそれぞれ本を持っていた。
一冊は『死者の召喚方法』、もう一冊は『XX騎士団調査報告書』と書かれていた。
「ねぇ、君の名前は?」
「……思い出せない。」
「所属は?」
「……知らない。」
「死ぬ前は何をしてた?」
「……思い出せ……ない。」
「思い出せない」と言いかけたその瞬間、
彼の脳裏に微かに残っていた、最後の記憶が蘇る。
誰かの女性が自分を突き飛ばしながら言った言葉――
「今度こそ、私が守るから。」
「……守れなかった。」
「誰を?」
「……わからない。でも、悔しいんだ。」
そう呟くと、彼の頬を涙が伝った。
断片的な記憶に過ぎなかったが、その感情はあまりにも痛みを伴っていた。
「私はラピス。この島の向こう側の城に住んでるの。
少し考える時間をあげるから、気持ちが整理できたら会いに来てね。」
そう言い残し、彼女は紫の霧と共にその場から姿を消した――。
……何かがハデスに触れた。
彼はふと意識を取り戻す。
骸骨戦士が彼を揺り起こし、遠くを指差していた。
その先、雲の向こうに浮かぶ巨大な島。
空を漂うその島は、死者たちが最後に辿り着く安息の地であり、
今まさに、ハデスとラピスが暮らしている場所。
それが――『亡霊島』だった。