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第38話 早川双葉

「こんにちはー。今日も約束通り来たよ」

気の抜けるような挨拶と共に、雪穂は一華の家を訪ねた。

「おー、雪穂ちゃん来てくれてありがとん!昨日はあんま乗り気じゃなかったみたいだけどー、もしかして色々考え直したこととかあった系?てかちょっと眠そうだね?」

「そこまでじゃないですけど……ただ。双葉ちゃん昨日別れる時、すごい寂しそうにしてたんで。それと昨日ちょっと寝不足で」

「へー、面倒見いいねっ。悪魔祓いってストレス溜まるから、寝れる時には寝た方がいいよー」

「いやー。そんなことないと思いますけど……こう、なんて言えばいいんですかね。妹が出来たみたいな気分なんですよね。一応授業中ちょっと寝たんだけど、それでも全然眠気取れなくて」

「そっ、かぁ……」

数秒、考え込んだようにして、一華が黙り始める。


「どうしたんですか?ぼーっとして」

「いや、何でもない」

「そうですか…それなら良かったですけど。そういえば雄介さんは?」

「雄介?雄介なら今日は夜までバイトだよ。だから今日は雪穂ちゃんと双葉ちゃんと3人だけ」

「あー…忙しそうですもんね」

悪魔祓いに加えて、別の仕事までしているとは、随分と体力があるなと思ったが、そんなことは口には出せなかった。


そんなことを話している2人の前に、双葉が駆け寄ってくる。

「お姉ちゃん、今日も来てくれたの…?」

「そうだよー。夕方まで学校あるから一日中ってわけにはいかないけど。今日も6時くらいまではいるつもり」

「6時くらいまでと言わず、ずっといてくれてもいんだよ?」

「あたしも帰る家があるんで」

雪穂が双葉の元に来られる時間は、そこまで長くはない。

それでも、自分に向けて笑顔を向けてくれる双葉のことは、もう既に他人だとは思えなくなっていた。


「と言ってもなぁ。せっかくだし、外にでも行く?」

「雪穂ちゃんが大丈夫なら?」

「お外……行ってみたい……ずっとここにいるの…退屈だった、から。」

双葉は興味を示したのか、雪穂の方に笑顔を向けた。

「そりゃ良かった。いやーあたし家での遊び方とか全然わかんないからさ。ゲームとかスマホのゲームくらいしかやんないし」

「みこっちゃんみたいに本読んだりとかしないわけ?」

「いや何その呼び方。読まないけど。活字読むの苦手。眠くなる」

何せただでさえ眠たい以上、これ以上眠たくなることはしたくなかった。外に遊びに行こうと言ったのも、正直眠気を振り払いたかったというのも大きかった。

スマートフォンで時間を確認しながら、これくらいなら大丈夫だろうと、遊びに行く支度を始める。


「それにしてもあれだわー。だって皆ノリ悪いし雄介は忙しいしさぁ、アタシこうやって遊びに行くのとか、ちょっと憧れてたんだよね~」

「だよね。つか、うちのやつら個人主義っていうか?自分勝手なやつ多いから」

「…夜空ちゃんはそこそこ話聞いてくれるんだけど、イオリンと一緒じゃないとなかなか誘えないからね」

言われてみれば、あの兄妹はずっと一緒にいるような気がする。よほど仲が良いのだろうか。

「…なんか大変ですね」

そもそも、伊織と尊がプライベートで何をしているのかすら、雪穂には想像がつかなかったのだが。


「2人にも、まだ友達、いるの…?」

「いるよー。今は会えないけど」

きっと風子は今、家に帰って勉強でもしていることだろう。と、今はいない友人に思いを馳せながら答える。

「アタシもいっぱい遊び相手いるけどねー。でも、双葉ちゃんは色々特別だわ」

「一華さんはいっぱいいそうですもんね」

「いやいや言うほどでもないよ、忙しくて遊ぶ暇ないから全然遭わない子とかもいるし」

「あー…そりゃそうですよねー」

きっと自分もそのうち風子と遊べる機会は減っていくのだろうか。そう思うと、少し寂しい気分になる雪穂だった。


「そうだ、双葉ちゃんは学校にお友達とかいる?」

「うん。でも……最近は会えて、ない」

「何で?」

「…あー。言ってなかったっけ。この子今学校行ってないの」

「マジ?」

不登校ということだろうか。あんなようなことがあったのだ。何となく、顔を出しにくいというのは少し理解できるような気がした。

「学校……すごく行きづらくて。学校行くと、皆わたしのこと。避けてるような気がして……」


「避けてる?」

「うん。なんていうか……みんながわたしを見る目が、今までと違う気がするの。わたしは…学校ではいつも通りで、いたいのに……」

「双葉ちゃん。ごめん…そんなこと聞いちゃって」

その目に涙が溜まり始めたのを見て、雪穂は胸が痛み始めた。

そもそも、この子は悪魔との戦いで両親を失っているのだ。きっと、その日常は自分どころじゃないほどに変わってしまっているはずだ。

ただ普通に会話をするだけでも、彼女が傷ついてしまう可能性は、十二分にあるのだ。そのことを、まだ雪穂は、しっかりと認識できていなかった。


「お姉ちゃんは…悪くないの。悪いのは、わたしだから」

「いやいや、それこそ双葉ちゃんは悪くないってば」

「わたし……悪い子、だったから」

悪い子。

その言葉の意味を、深く聞く気は、今の雪穂には、なかった。

「とにかく早く行こっか。あんま突っ込んだこと聞くのも良くないよ。それにアタシたち、まだ双葉ちゃんと出会って2日目だよ?」

「そう、でしたね…すいません。なんか、気緩んでました」

もうすっかり、彼女の姉代わりのような気分になってしまっていたのだろうか。どうにも、子供との向き合い方というのは、ままならないなと、雪穂は少し双葉から目を逸らした。


「それにしても……」

雪穂は街並みを見ながら、小さな声で呟く。

「マジで何もないですね、このへん」

「このへんはずっと住宅街だからねー、駅の方に出たら商店街あるけど」

「商店街。商店街かぁ……」

ふと、昔のことを思い出す。あまりにも何もなさすぎて、退屈過ぎてぐずり始めてしまった過去のことを。

あの時は、本当にくだらないことで怒りそうになったなと、過去の自分が少しだけ恥ずかしくなった。


「あそこの商店街、本当に何もないんですよねー…」

「そっかぁ。じゃあもうちょっと先まで行ってみる?それとも電車乗ってみる?」

「そこまで行くともう現地解散ですね」

「いいじゃん現地解散。それともお姉さんが家まで送ってあげようか?」

「流石にそれは結構です!!」

あれこれと計画を立てながら、あれもなしこれもなしと、2人はずっと迷っていた。その過程すらも、2人にとっては楽しい時間だったが、同時に双葉のことを置き去りにしてはいないかという不安も、2人にはあった。


「あ、じゃあここにしようよ。雪穂ちゃんここ行ったことある?」

「1回か2回風子…友達に連れて行ってもらったくらいは」

一華が指定したのは、大きな駅だった。そこにはショッピングモールもあるし、それなりに遊ぶ場所はあるだろう。

「双葉ちゃんは大丈夫?」

「うん……大丈夫、だよ」


そう頷く双葉の顔に、どこか曇りのようなものが挿し始めていたことに、2人は気づけなかった。

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