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第36話 『きょうだい』

雪穂は彼女の態度に、どうもぎこちなさを覚えていたのだ。

元からそういった機微に聡いわけではない彼女ですらわかるほどの、違和感。

そして自分にわかるのであればきっと…雄介にもわかるだろうと。

「…いやぁ?そんなことないと思うけど~?」

ひゅっひゅー、と下手な口笛を吹く一華の様子は、明らかに少しおかしかった。

「答えたくないなら答えなくてもいいです。色々理由アリかもしれないですし、そこに掘られたくない事情くらいあると思うんで」

「…気を遣ってくれてありがとね。じゃ、そこについてはあんまり深堀しないでくれると助かるかなっ」

そう言った一華の目は、どうにも自分の顔ではなく、どこか遠くを見つめているように、雪穂には映った。


「一華、八坂さん。戻ってきてもいいよ」

「ん、わかったー」

戻って見てみると、少女の顔に少しだけ笑顔が戻っている様子なのが見えた。

「とりあえずさっきも相談したけど、アタシの家で当面は面倒見るっていう形で良さげ?」

「黒崎さんにはどういう方向性で行ってもいい、って聞かれてるから、一華がしたい方向性でいいよ。でも、ずっと面倒見るっていうわけにはいかないから、引き取ってくれる人がいるなら、その方がいいね」

「ありがとー」

どこか上ずった声の一華に、普段通りの笑顔で接する雄介。

雄介は一華の様子に気づいていないのだろうか、という、一抹の不安が、雪穂の頭によぎった。


「…そうだ。君、名前は?」

「……早川、双葉」

早川双葉と名乗った少女の姿を、改めて雪穂は見てみる。おそらく10歳くらいだろうか、少なくともまだ中学校には上がっていないだろうというくらいには、小さな少女だ。

綺麗に切り揃えられた黒髪と、育ちのよさそうな顔立ちから、どこか日本人形のような雰囲気がある。

着ている服は薄汚れてはいるものの、おそらくそれなりには上等なものだろうということが伺えた。


「双葉ちゃんかぁ。あたしは八坂雪穂。呼び方は好きにしていいよ」

「……雪穂、お姉ちゃん」

その響きに、雪穂は少しだけなんだかムズ痒いようなしかしそれでも嬉しいような、そんな気分になった。

「あーずるい!アタシにはユキぴょんって呼ばせてくれなかったのに!」

「初対面で変な呼び方してくる人は例外なんで」

「言うほど変じゃなくない~~!?ねー雄介ー!」

「…僕からはノーコメントで」

「……ふふっ」

年甲斐もなく騒ぐ3人を見て、少女…双葉は少しだけ、笑った。


「あっはは笑った~~カワイイ~~~!」

「…なんだか、お父さんとお母さん、みたいだなって、思って」

そんな双葉の純粋な言葉に、雪穂も思わず笑みがこぼれる。

「そうかな?」

「それってもしかして……雄介が歳よりオヤジ臭」

「そうじゃないといいけどなぁ。よく言われるけども」

雪穂は2人のことを遠い目をしながら見つめていた。一華の声の上ずりが、少し収まっているような気がしたのだ。


「…そういえば、こっちの、金髪の方のお姉さん。お名前、聞いてない」

「そうだそうだやっばい言い忘れてた!四ノ宮一華。言いづらいなら一華さんでも一華ちゃんでも何でもいいよ~?」

「…一華、さん」

「アタシのことはお姉ちゃんって呼んでくれないんだ……」

「なんか…あんまりお姉ちゃんって感じじゃない、から……」

双葉は小さく首を横に振った。

「思ったよりズケズケ言うなこの子」

「子供って意外と、そういうものだからね。でも、それだけ一華に心を開いてくれたってことだと思うよ」


改めて3人と双葉は腰を落ち着け、平和なひと時を過ごし始める。

てっきりまた戦闘なのかと思っていた雪穂は、思ったより穏やかなこの空間に少し不思議さを覚えながらも、その心地よさにすっかり浸っていた。

「そいえば、雄介さんってきょうだいとかいたりするんです?なんかやけに手慣れた感じでしたけど」

「弟が4人と妹が3人」

「…めっっっちゃ大家族じゃないですか!?うわ……大家族って今時いるんだ…」

確かに一昔前はよくバラエティ番組などで見たような気はするが、一人っ子が多いと言われる今のご時世、まず実在するというのが彼女にとっては何よりも驚きだった。


「よく言われるよ。やっぱり珍しいんだなって」

「いえ、あたしもそんな他意はなかったんですけど…」

「別に気にしてないから大丈夫だよ。それに大変だけど結構賑やかでそれはそれで楽しいんだ。貧乏暮らしだけどね」

雪穂にとっては、まさにテレビを通してしか見ていなかった、「大家族」という存在。

「朝から洗濯機は回りっぱなしだし、下の子が騒がしいから襖とかドアだって傷だらけだ。まるで猫が引っ掻いたなんて言われたこともあったなぁ」

「それ、大変じゃない?」

「大変だよ。めちゃくちゃ。でも、少なくとも退屈することはないよ?」

雄介の話は、何もかもが新鮮だった。

「時々、きょうだいいたら楽しかっただろうな~…って思うんですよね、あたし」

「ああ、一人っ子にはあるあるだなってよく言うよね」


自分にきょうだいがいたら。もし自分が一人っ子じゃなかったら。

そんなことを空想したのも、最後はいつだっただろうか。

母に向かって、妹か弟が欲しいと駄々をこねたこともあった。

なんだか、そんな日々が少し懐かしくも思えてしまうほどに、自分は色々と達観してしまっているのだと、一抹の寂しさを覚える。

「僕はね、昔は一人っ子がいい、って思ってたなぁ」

「雄介さんでもそんなこと思うこと、あったんですね」

「昔の話だけどね。ほら、長男だからって色々我慢させられたんだよ。ご飯を譲らなきゃいけなくなったりとか、お風呂の時間でも喧嘩になったりとか。今思えば、ほんとにくだらないことで怒ったりしたなぁ、って思うんだ」


「なんかイメージと違いますね」

「そうだろ?一華にも言われたよ。でも子供の頃って、自分でも想像できないくらいワガママなんだよな、皆」

「雄介さんはなんていうか、大人ですよね」

「そう見えるかい?自分では、そんなに大人じゃないって思ってるんだけどね。まだまだ未熟さ」

「それを自分で言えちゃうところがもう大人だと思うんですけどね……だってそういう台詞、伊織とかだったら絶対言わないでしょ。第一あいつ、あたしのこと全然年上扱いしないでしょ」

少し生意気な少年の顔を頭に浮かべながら、そんなことを話す。


「年頃の男子はプライドが高いからね。でもきっと、八坂さんに心を開いてないわけじゃないと思うよ」

「そっかなー…アイツ、触れる物に何でも噛みついてる印象ありますけど」

「あはは。それにしても助かったよ。きっと僕だけじゃ心、開いてくれないと思ってたから」

「そう?ほとんど雄介さんの仕事だったと思いますけど」

「黒崎さんからそう言われてるっていうのは本当なんだけどね。ほんとは出来るだけ双葉ちゃんと年齢の近い子がいた方が、良かったかなって思って」

「それ夜空ちゃんとかに任せた方が良かったんじゃないですか?」

「そうかもしれないね。でも、結果的に今何とかなっているんだから、それでいいじゃないか」

「……そうですね」


やがて夜が近くなり、雪穂は帰り支度を始める。

「…お姉ちゃん、帰っちゃうの?」

「うん。また暇だったら来るよ」

「……絶対に、来てね」


そう語る少女の目は、涙が出る寸前のように、揺れていた。

雪穂はその目が、どうしても頭に焼き付いて離れなかった。

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