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第10話 親友

少し嫌なことこそあったものの、その日は穏やかに過ぎていった。


「起立、礼、着席!」

授業終わりの号令が高らかに鳴り響き、生徒たちは次々に蜘蛛の子を散らすように教室を出て行った。

「雪穂ー?号令終わったぞー?帰らないの?」

「あ、うん。ちょっと考え事してて」

「? まあいいや。それよりもさ、駅前のコンビニ、なんか新しいお菓子出てたらしくてさ、プリンなんだけど、すっごいとろける感じでめちゃくちゃ美味しいらしいんだよ!」

ウンウンと頷きながら、元気に熱弁する風子に対し、雪穂はあまりその話も入らない程に、これからの事で悩んでいた。


もし、あのペンダントをずっと外したままでいたら、毎日毎日あの不愉快な悪夢を見て、やがてはあの悪夢の中のように、あるいはあの『悪魔』のように、自分が自分でなくなってしまうのだろうか。

正直、あの黒崎とかいう男のことも信用できない。だが、事実として、ペンダントを外した時の自分は、もう既に正常な状態でいられなくなっていた。

信じたくない相手に、もう縋るしかない状態になっているという状態。それが今の雪穂自身にとっての、自分の状態なのだった。

「ねえ聞いてるー?」

「あー、聞いてる聞いてる。それで、何だっけ。駅前のコンビニだっけ」

「そうそう!でも雪穂って甘いものはそこまでだったんだっけ?」

「そこまでって言うか…特別好きでもなけりゃ、嫌いでもないって感じ?」

「んじゃ一緒に買いに行こうか!」

約束の時間まではまだ時間がある。ちょっと気分転換にでも、風子に付き合うのでもいいかと、雪穂はそのまま教室を出て行った。


駅前のコンビニには、雪穂自身そこまで馴染みはない場所だった。たまに風子に付き合わされて行く程度で、何度も行くような場所ではない。

ただ、今の不安やその他諸々に襲われているような状況では、こういう場所で気を紛らわせることが出来るのは、本当に救いのように思えた。

「今日なんか雪穂ぼーっとしてたからさ、もしかして糖分足りてないのかなって思って」

「糖分足りないせいでこんなんなるかな?」

「なるなる。足りないと頭ぼんやりするって言うもんね。さて好きなだけ摂ろうか、糖分を!」

明らかに冗談だとわかっていたのだが、今の雪穂にはそれに突っ込む気力はなかった。


「ありゃ、これは重症だねぃ」

「どうしたのさっきから」

「いやぁ、私がこうやっていきなりボケたら、いつもの雪穂なら元気よく突っ込んでくるとこじゃん?でも今日は何も言わなかった。これはおかしいと思ってね」

毎度毎度、風子の察しの良さには驚かされたが、まさか今日1日だけでここまで見抜かれるとは思わず、雪穂はそのまま黙り込んでしまう。

「何か悩み事とかあったら言いな?言えないことならそれでもよろしい」

「うん、実を言うと……」

風子に促され、雪穂は口を開こうとする。しかし、その先の言葉が出てこない。

悪魔のこととか、悪魔祓いのこととか、嘘臭くならないように話すのが、あまりにも難しくて仕方ないのだ。


「ごめん、今は言えない」

出した答えは結局、『保留』だった。

昨日の取引といい、自分で何も決断できないというのが、少し嫌になる。でも、まだ15歳である自分に、こんな決断なんて出来やしない。

そう心の中で言い訳をしながら、ひっそりと風子の手を取るのをやめ、雪穂は背を向けた。

「そっか。私でも言えないようなことかーー……」

そう寂しそうにつぶやく風子の声が、どうにも頭に響いてきたような気がした。


「…あ。例のプリン、見に行くの忘れるとこだった」

「そうじゃん。というか今の話だって絶対店の中でするようなことじゃないよね?なんか真面目な空気になってたからすっかり流されちゃってたけど」

「あっはっは!そりゃそうだわ、というかマジで雪穂のツッコミ安心する~」

そんなことを言いながら、風子は商品が陳列されている棚へと歩き出す。


「プリン…売り切れてたね……」

「ま、売れてるししょうがないよ、そういう時もある」

「くそっ、こういう時に雪穂に冷静に言われるとダメージがでかいぜ……」

自分たち以外の客がいないのをいいことに、露骨にがっくりと項垂れるポーズをとる風子。こんな時に妙にリアクションが大きいのが、雪穂にとってはなんだかおかしくて、つい笑いそうになってしまうが、何とか我慢した。

「よし、もう一軒行くよ!こうなったら見つかるまでリベンジだ!」

「ちょい待ち」

「何だい」

「あたしこれから用事あるから、そんなに何軒もは回れないから」

18時にはもう修道院まで向かう必要のある雪穂にとって、風子の提案はどうにも呑めるものではなかった。

それに、正直遅れたらどうなるかわからないという一種の恐怖も、彼女の中にはあったのだ。


「あ、ならもしかしてそろそろ帰った方がいい感じ?」

「いい感じだと思う」

時刻は大方16時45分。流石に制服のまま修道院まで向かうのは忍びないので、準備も含めれば早く帰ってしなければいけないくらいの時間だ。

「よーし、とりあえず一人で心当たりのあるコンビニ全部回るかぁ」

「あんまハッスルしすぎないでね」

「美味しかったら後で感想聞かせてあげるね」

「感想聞かせてあげるだけ!?なんかそれはそれで悔しいな」

「へへーん。一緒について行ったら食べさせてあげるよん」


「ってなわけで、また明日ね~」

「はいはい。風子もあんま夜遅くまで出歩かないでね、最近暗くなるの早いし」

「そんな夜遅くまでは歩かないって~~。意気込んだけどせいぜい3軒くらいだかんね?というかお母さんみたいなこと言うね雪穂」

思えば、あの『悪魔』とかいう存在が、風子にも襲い掛かってこない保証はどこにもない。

あれが夜行性なのかどうかはわからないが、薄暗い夜道で襲われてしまえば、より対処しづらくなることだろう。

尊のような人物が助けてくれるとも限らない。だからこそ、つい心配する気持ちが、言葉として出て来てしまった。


「いや友達なんだから心配すんのは当たり前じゃん?」

「それもそっか。んじゃ私は次行ってくるから。うおーー!!」

「走るな走るな走るな!!」

叫びながら駆けだして行ってしまった風子をよそに、雪穂は家までの帰り道を歩き始める。

「相変わらず騒がしいやつ……」

そんな風子の背中を見ているうちに、不安や恐怖といった感情は、いつの間にか遠くへと飛んでいってしまっていた。


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