第九話
仰天です。
目の前の綺麗な、二十代後半から三十代前半の女性はお母さんで、女王様!
「王様……なんですか……?」
驚愕の表情のまま、かなはエリーと名乗った女性ーー女王に聞いた。
「ええ。私がこの国の王です。あなた方に謁見を申し入れた王は、私です」
そう言って、男性ならきっところっと騙されそうな神々しい微笑みをくださいました。
サティが椅子を引き、女王は優雅な仕草で私とかなとの間の席に座った。
思考は仰天した状態から、少しずつ元に戻ってきたみたいなので、女王に質問してみた。
「あ、あの。失礼ですが、女王様がどうしてかなと私に謁見の申し入れを? 女王様なら謁見される側じゃないのですか?」
「あなた方はこの世界の者ではないでしょう? だからですよ」
微笑みながら女王はそう答えた。これに、私とかなは顔を見合わせた。
かなも私と同じようで、その表情は疑問で溢れていた。
確かに、私とかなはこの世界の者ではないが、立場上は一般庶民のはずだし。そう考えると、やっぱり女王は謁見される側じゃないのかなと思ってしまう。
「あなた方の居た世界と、この世界は違います。王にはあなた方にこの世界の事を教えることが、義務として備わっています。それはこの国だけじゃなく、この世界の全ての国の王にです」
私もかなも女王の話を黙って聞いていた。
女王は一度、言葉を区切り微笑みながら言った。
「それと、この世界の王は今現在は全員女性だけです」
女王様だらけの世界ですか!?
「リディルから聞いてるとは思いますが、この世界は女神イシュタリア様が御創りになられました。ですから、女神と同じ女性が国の王になるのが習わしです。尤も、子供が男の子一人だけの場合は別ですけれど」
そう言って女王は微笑む。先ほどからずっとにこにこと。優しそうな方です。
そして、この世界の王は女王の言い方から察するに、世襲制の様子。
「あの、それじゃあ、この世界は女性が政治の中心なんですか?」
「もちろんです。男性も居ますけれど、女性の方が比率としては多いです。そう聞かれるということは、あなた方の世界は違うのですね」
かなの質問に答えた女王は、少し寂しそうに微笑んだ。
「この世界にお見えになられた『神銀の乙女』の事を綴った過去の文書によると、男尊女卑の世界からお見えになられた方々が多かったそうで……そうではないかと思いましたが。さぞ、お辛い事でしたでしょう?」
女王はそう言って、少しだけ目を細め、なんだか哀れむようなそんな感じの表情に見える。
でも、そんなのどうでもいい。
それよりも、大事な発言が聞こえた気がする。
「他にも、この世界に来た人がいるんですか? 今その人達は?」
女王の言った内容に、私は質問をする。
もし、他にも居るなら……。
「今までこの世界に来た全ての『神銀の乙女』は、その役目が終わると元の世界に戻られたそうです。今現在他の世界からお見えになられた『神銀の乙女』はカナエ様、あなた一人です。また、『神銀の乙女』以外でこの世界にお見えになられた人物はアキネ様、過去の事例は無くあなただけです」
「元の世界に戻った……。帰ったってことですか? その方法を教えてください!」
私ってば、女王の話で自分が重要だと思う部分しか、聞いていない気がする。
でも、今は私たちの居た世界に帰る手段が知りたい。
役目を終えて元の世界に戻った、過去の『神銀の乙女』。
今はその戻るための手段が知りたい。
女王はこの部屋で会ってから微笑を絶やさなかったのに、今は真剣そのものの表情だった。
何故か、私は背筋が寒い気がした。……まあ、気のせいだろう。
真剣なままの表情の女王が、帰る手段を語った。
「過去の文書にある『神銀の乙女』は、元の世界に戻るのに女神のお力を借りたとあります。また、他の方法は無いと記されてありました」
ということは、私たちの居た世界に戻るためには、女神の力を借りるしかないということ。
……女神とかが居るとか、未だに信じられないのに。
でも、それしか方法が無いと女王は断言してるし……。
正面に座るかなを見ると、俯いていた。
かな、泣いてるの?
「それに、男尊女卑の世界より、この世界のほうが楽しいと思いますよ」
にっこりと気遣うように笑う女王。きっと、かなと私を励まそうとしてくれているんだとは思う。
思うんだけど、なんだか女王ってば変な誤解してない?
「でも、父を心配させてると思うと……。父にはもう、私しかいないんです」
かなは俯いたまま、震えるような声音で言った。
その言葉を聞いた女王は、酷く悲しそうな表情になった。
かなの気持ちは痛いほどわかる。
私にも家族はいるし、家族仲だって良い。
家族の誰かが何も連絡せずに家に帰ってこない日があれば、私だって心配する。
ましてや、かなの家族は母親は死去してるし、兄弟姉妹はいない一人っ子。肉親は父親一人。
かなの母親が事故で亡くなった後の、父親のかなへの心配の仕方は異常なくらいだった。
最近やっと落ち着いてきたのに。
時間の流れなどが、この世界と元の世界で同じなのかはわからないが、もし同じだと考えるならあれから一日二日くらいは経過しているはず。
なんの言伝もなく居なくなった、かなと私。
朝起きてくるはずだった、可愛い娘とその友人。
でも、起きてくるはずの可愛い娘とその友人は起きてくるはずもなく、部屋には誰も居ず、言伝すらもない。
それが一日二日と続いてると思うと……。
かなの父親は、今どんな状態なんだろう。
きっと、警察に捜索届けを出して、私の家族やご近所に聞き込んだりしてるんだろうな。
会社を休んで、駅前とかでビラ配り……は、まだ早いかな。
でも、帰れないで時間が経てば、ビラ配りもきっとし始めるだろう。
かなの父親だけじゃない。
私の家族だって同じようにするかもしれない。
私も妹や姉がいきなり失踪したら、同じようにすると思うし。
仕事だって、就職が困難な中なんとか就業できたのに。
無断欠席が続けば、すぐにリストラされるに決まっている。
今の職場、やっと色々勝手が解ってきて、出来る事が増えてきたのに。
やっぱりどう考えても、帰れなと困る。
出来るだけ早く、帰りたい。
むしろ、あの日から私たちの居た世界では、一分一秒足りとも進んでいて欲しくない! ってのが本音。
今直ぐ帰れたとしても、この世界と私たちの居た世界とでは時間の流れが違うとかだったらと考えると……ちょっと、怖いし。
帰ったら浦島太郎な状態って……考えるだけで恐ろしい。
でも、帰りたい。
「それじゃあ……女神様に会うことはできますか?」
俯いたままのかなが、呟くように言った。
かなの小さな声は女王にも聞こえたようだ。
「今直ぐに……は難しいかもしれないけれど、女神にお会いすることは出来ます」
女王は穏やかな笑みを浮かべながら、教えてくれた。
それは希望につながる道。
でも、それは一歩間違えれば絶望へと落ちるかもしれない道。
「いつ……ですか? いつなら会えますか?」
かなは必死な表情のまま聞く。
私も、かなと女王のやり取りを食い入るように聞く。
女王が教える、希望の日。
「明後日の聖帝の祭日」
かなと私を、この世界に呼んだと思われる女神に会える日。
それが、明後日。
女王様~女王様~。王様なんていないぜー。最初はただの王様だったのに、いつの間にか女王に変更。そして、初老からぎりぎり三十路に若返り!
結構改稿しちゃいました。女王との会話が変だったので。