第八話
街中で食べるような簡素な食事を頼むと、サティは少しここ(衣装部屋)で待っていてほしいと言って、部屋を後にした。サティは暇ならば部屋の中を見て回っていて下さいと、部屋の外へは出ないでくださいと言い残して、行った。
五分位した後、サティは戻ってきた。
サティに言われるままに、衣装部屋を見回って時間を潰していたため、そんなに暇に感じなかった。
律儀にノックをして、部屋に入ってきたサティが笑顔で言った。
「お待たせ致しました、カナエ様、アキネ様。こちらでございます」
サティに案内され、食事をする場所へと移動する。
さっき衣装部屋に来るときも思ったが、えらく無駄に広い建物だ。
これが、お城というものなのか!?
西洋風のお城のようで、まるで映画の中に迷い込んだような感じだった。
似たりよったりな風景の通路を何度か曲がった後、離れの建物に通じる渡り廊下のような場所に出た。
入り組んだ通路は侵入者除けという話を聞いたことがあるが、一人だと確実に迷うだろう。
逸れないように気をつけないと。
サティに離れの建物へと歩いて行ったので、私とかなはその後を追った。
案内された場所は、離れの建物の中にある共同食堂みたいな場所を通り抜けた、一つの小部屋だった。
「先ほどの食堂は、私たち城で働くものたち用の食堂です」
そう言いながらサティは部屋のドアを開ける。
「カナエ様にあの場所で、お食事をして頂くわけには参りませんので、こちらの部屋でのお食事となります。狭い部屋ですが、ご容赦下さい」
サティの言う通り、少し手狭な部屋だった。といっても、十畳くらいはありそうだったが。
置いてある調度品などは、どれも高価そうだった。きっとこの部屋は来客用なんだろう。
「カナエ様、アキネ様。すぐにお食事をお持ちいたしますので、おかけになってお待ちください」
そう言って、サティは部屋から出て行った。
部屋の中心にある、少し大きめのテーブルとセットの四脚の椅子。このテーブルと椅子で食事をするのだろう。そう思い、椅子に私とかなは対面で座ってサティを待つことにした。
窓には、青地に銀の刺繍の入ったカーテン。戸棚に飾られた、綺麗な花と花瓶。
花瓶も家具も調度品にはすべて、どこかに銀の刺繍や模様が細工されていた。
「ところで、かな」
「何?あきちゃん」
今、この部屋には私とかなしかいない。
さっきは、色々な衣装に少し興奮していたけれども、こうして考える時間ができると思ってしまう。
帰れるのだろうか?
そして、それをかなに聞く。
答えなんてわからないだろうけど、聞く。
「その、かなは……帰れると思う?」
「帰りたい。帰らないと……お父さん心配してるだろうし……」
そう言って俯いたかなを見て、私は少し後悔した。
それでも、止まらなかった。
「そう、だよね……。私も、帰りたい。でも、帰れるのかな?」
言っちゃいけない気がするけど、私はつい口に出してしまった。
かなを不安にさせるのはわかっていたけど、口に出てしまった。
私の不安。
よく、異世界に飛ばされてーとか小説や漫画、ゲームでもあるシチュエーション。
それを見てるたびに思ったこと。
『その世界を楽しめばいいのに』
現実に起きてわかる。
そんな余裕なんてない。
ただ、自分が自分の世界に戻れないことが、こんなにも不安に感じるとは思ってもみなかった。
少しも、楽しみじゃないわけでもない。
でも、それ以上に不安が勝る。
訳の解らない世界に対しての恐怖が勝る。
それでも、少しでも前向きでいられるのはかなが一緒だからと思う。
もし、これが一人で、言葉も通じなかったらと思うと……。
きっと、恐ろしくて、狂っちゃうんじゃないだろうか……?
怖くて、苦しくて、恐ろしくて……死んだほうがまし、とかいう思考になっちゃいそうだ。
私は、そんなに強い人じゃない。そう思うから。
だから、かなと……一緒で本当に良かった。
「きっと、大丈夫だよ。あきちゃん。だって、この世界には神様が存在するんだから。もしかしたら、頼んだら帰してくれるよ! きっと!」
落ち込んでる私を勇気付けるように、自分自身に言い聞かせるかのようにかなは言った。
その肩は少し震えてるように見えた。
「……うん。そうだね。そうだね! 帰してくれるように頼まないとね!」
「そうだよ! きっと大丈夫だよ!」
私もかなも顔を見合わせ、二人で笑いあう。
本当にかなと一緒でよかった。
コンコンッ
ノックと共に、ドアの向こうから声が聞こえてきた。
「入っても、いいかしら?」
女性の声。サティの声とは違う声。
「カナエ様、アキネ様。失礼します」
今度はサティの声。声がかけられて、一拍おいてドアが開かれた。
ドアを開いたのはサティで、その後ろに知らない女性が控えていた。
サティはドアを開けると、道を譲り女性が先に部屋へと入ってきた。
「……えっと……」
困惑している私の口から、言葉が滑った。
ちゃんとしゃべれよ、自分!
「こんにちは。カミタケ カナエ様と、タカギ アキネ様でよかったかしらね」
「あ、はい」
私たち二人を見比べながら、女性はそう言って微笑んだ。
「私はエリーディーン・フォン・クルースと申します。長いだろうからエリーで構わないわ」
にっこりと微笑む女性は、とても綺麗に見えました。
ぱっと見た感じでは、二十後半か三十前半くらいかな?
背丈はサティと同じか少し高感じ。髪の色は黒と見間違えるほど濃い緑色。瞳も髪と同じ黒に近いほどの濃い緑。相反するようにその肌の色は白く、雪のような肌ってこんな感じなんだろうかと思いたくなるくらい。肌理も細かそうだ、羨ましい。
十人中五人くらいは綺麗と言ってくれそうな、顔の造形。目鼻立ちの彫りの深さは、TVなどで映る白人女性を思い出した。
堂々としていて、でもその仕草は優雅で、ぱっと見た目の顔の作り以上に、美しさを感じます。
なんて言えばいいのか……貴族的な美しさ? (いや、貴族とか会ったことないけど)
きっと、これが上品な美しさとかいうものだろうか?
そういえば、ミドルネームなんだか聞き覚えがあるような、無いような?
「あ、の……クルースってことは……エル、エルサレム様の姉とか親戚か何かですか?」
はい、聞き覚えありました。
あの王子です。あの王子のミドルネームです。
この後、この女性の言葉に耳を疑い、目を疑った。
「私は、エルの母です」
そう言って微笑む目の前の女性は、二十代後半か三十代前半に見えるのに……。
高校生くらいの子を持つお母さんらしいです。
綺麗な人って得です。羨ましい。
「え! ってことは……王妃様ですか!?」
「お、王妃様?!」
私とかなが驚いていると、さらに驚くこと言われました。
これこそ仰天。
「いいえ。私がスニクス国の王です」
そう言って、目の前の綺麗な女性は微笑みましたと。
王様と謁見って話だった気がするけど……。
こんなんでいいのか?!
しかも、女王様ですか!?
なんだか、想像していたのとかなり違って仰天もいいところです。
神様へ
日ごろの行いがあまり良いとも言えないから、こんな意地悪ばかりするのでしょうか?
できることなら虐めやめてください。虐めよくない。
と、ありがちなこと言います。
あまり、物語が進んでない気がしないでもない。
更新速度も低下してます。頑張りますので、あたたかい目で見守ってやってください!