第七話
リディルの言った朝食の前にしてほしいことは、着替えだった。
確かに、王に謁見するにあたって、この格好で会うのは良くないだろう。
かなはかなの部屋に居たときの格好で、部屋着のままだし。私は怪我をしていたためか、かなの部屋に居たときの安っぽい私服から、病人服に着替えさせられている。
この際、誰が着替えさせたかとか考えないでおく。
それが、精神安定のためだ。まあ、多分女性の看護師さんあたりとは思うけど。
リディルは部屋に備え付けてあった呼び鈴を鳴らす。
しばらくすると、四十台くらいの少しふくよかそうな体型のメイドさんが部屋に来た。
健康そうに焼けた小麦色の肌に、堀の深そうな顔の作り。ゲームや漫画などにしか出てこないような、空を連想させるような淡い青い髪に青い瞳。
なんだか、優しそうなおばちゃんです。
「彼女に色々聞くといいよ。彼女はサティ・ラシーヌ」
そう言って、リディルは呼び鈴で呼んだメイドを紹介した。
紹介されたメイドは、まるでマニュアルビデオにでも出てきそうな、とても綺麗なお辞儀をしてくれました。
「サティ・ラシーヌと申します。サティとお呼び付けください。困ったことがあったら、何でも聞いてください!」
サティは人懐っこい、柔らかい微笑をくれました。
なんだか癒されます。お母さんな雰囲気の人です。
「神武 香奈恵です。宜しくお願いします」
「高木 明音です。お願いします」
「こちらこそ、宜しくお願い致します」
こちらも、自己紹介をする。サティはすごく嬉しそうな笑顔で応えてくれました。
「まあ、まずはお着替えですね。カナエ様、アキネ様。申し訳ありませんが、部屋を移動いたします。私についてきてください。ここは広いので迷ったら大変ですので、気をつけてください!」
サティは私の右腕の様子を察したのか、私の様子を確認しながら聞いてきた。
「あ、たぶん歩くのに問題はないと思います。かなも一緒ですし、大丈夫です」
そう言うと、サティはにっこりと微笑んで、残った男性陣に挨拶をして部屋の外へと出た。
「あの、それじゃ、失礼します」
かなはそう言って、部屋に残った男性陣に挨拶をした。
私もならって、会釈をしてかなとサティの後を追った。
かなと私が案内されたのは、一つの部屋だった。
これがまた、唖然とするような部屋でした。
余裕で三十畳くらいあるんじゃないだろうかという、大きな部屋。
そこにずらっと並んでいる服、服、服。ついでにアクセサリーなどの小物の棚も。
どこの洋服店ですか?
並んでいる服、そのほとんどはコルセットとかをつけたりしそうな、お高そうなドレスが主でした。
「す、すごいですね……」
「ホント、すごいわ……」
私もかなも、呆然と部屋を見渡すしかできずにいた。
だが、そこはメイドさん。流石です。
サティは私やかなに似合いそうなドレスをチョイスして、持ってきてくれました。
続きの部屋にある、更衣室みたいな部屋(こっちは十畳くらい)で着付けてもらいました。
「そういえば、かな」
着付けをしてもらっている最中の、かなに話しかける。
「何? あきちゃん」
私はというと、思ったよりも簡単な構造だったので、サティに助言を貰いながらなんとか一人で着ることができた。
だが、かなのは色々細かい部分も多いため、どうしてもサティに着付けをしてもらわなければならなかった。
「あのさ、あの茶髪の子……誰かに似てない? かな、わかる?」
そう聞くと、かなの頬は少しだけ朱に染まった。
「ああ、クラウさん? なんだか、伊勢君に似てない? ね、あきちゃんもそう思わない!」
ああ、どうりで誰かに似てる気がしたんだ。
しかし、かなえらいね。茶髪の子-クラウの名前も覚えてるんだね。
「伊勢君に似てるのか。誰かに似てると思ったら……」
「でしょ~。似てるのー」
かなは、なんだかすごく楽しそうです。
「さて、これで終わりですよ。着心地はいかがでしょうか?」
着付けを終えて、サティがにこやかな笑顔で聞いてくる。
「着るの大変でしたけど、思っていたよりも動きやすいです。ありがとうございます」
「かな~! すっごく可愛いよー!」
サティが選んできたドレスは、かなの雰囲気にぴったりな、白い布地に淡いピンクのグラデーション。袖は先の方がひらひらしていて、確かあれは姫袖とかいうやつだったかな?
ドレスのスカート部分はふんわりして、丈は膝くらいまでだった。確か、ドレスの下に薄手のスカートのようなのを履いてたような?
ドレスには所々に綺麗な花の模様。控えめながらも存在感をあらわす、美しい模様のレース。
そして、いかにサティが凄いか、ここに現れている。
かなは着痩せするタイプである。
脱ぐともろわかりですが、かなはお胸がでっかいのです。羨ましい。
時折、自分のサイズにあう可愛いブラが無いって嘆いているくらいだ。
平均サイズの胸の私には、嬉しそうな愚痴にしか聞こえなかったとか言えません。羨ましい。
サティの選んできたかなのドレスは、着痩せするかなの胸元をはっきりと強調するように、それでいて上品さを損なわない程度に開いてました。
開いた胸元に、一輪の大きめの花を飾っていて、可愛いなかにセクシーさが!
サティさん、ぐっじょぶすぎます。
「ありがとう。でも、これ。胸のところ開きすぎじゃない? 可笑しくない?」
「全然! セクシーよ、かな」
「カナエ様、大変良くお似合いでございます!」
大きく開いた胸元に恥ずかしいのか、かなは頬を赤らめた。
「可愛いんよ、かな! もし、私が男ならすぐにお付き合いを申し入れるよ!」
「あきちゃんだって、すっごく可愛いよ!」
「アキネ様も良くお似合いです」
「あ、ありがとうございます」
お世辞だろうと、やはり嬉しいものです。
サティのチョイスはなんというか、良く私の性格をわかっていらっしゃる。
露出の低く、尚且つ体のラインのわかりにくいふんわりしたドレスです。色も落ち着いた白を貴重とした青だし。派手じゃなく清楚な感じです。
まあ、この際私のことはおいといて。
「でも、ドレスで食事だと、こぼしちゃわないか不安になります。こんな、高価なドレス汚したら……」
「もし、お汚しになりましたら、またお着替えになります。ちゃんと、ナプキンがございますから、大丈夫ですよ」
サティがにこにこと答える。それに反して、かなは困った表情になる。
「でも、私、テーブルマナーとか知らないんです。あきちゃんは知ってる?」
「知るわけないよ。そんなところに食べに行ったことはないし……」
私とかなの会話を聞いていたサティは、こんな提案をしてくれました。
「カナエ様、アキネ様。テーブルマナーを問われるような豪華絢爛なお食事より、気軽に食べられる街中の食堂のようなお食事。どちらが、お好みでしょうか?」
サティはにっこりと微笑みながら、好みの食事を用意してくれると申してでくれた。
私とかなは顔を見合わせ、気軽に食べられる食事を頼むことにした。
どうか、出される食事に変なものなど出てきませんように……。
主人公は自分の容姿をあまり好きではない様子。かなのが可愛いとわりきってます。いつのまにかサティは有能になってしまいました。いや、メイドだからイイんだ。きっと!
男性陣は着替えの話なので、撤収していただいてます。