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第五十五話

「城下街並に大きい街ね」

 今日私達が泊まる街に着いて、街を見た私の感想。

 街は先日行った城下街のように大きく、活気にあふれていた。

 城下街と違うのは、城下街ほど舗装された道は広くはなく、舗装された道に面した建物はどれもお店のようだった。奥にも建物は見えるので、多分それが居住なのだろう。

「城下街もこんな風に大きな街だったの?」

 かなも着いて辺りを見回した後、私に聞いてきた。

「ええ、そうです。この街はスニクス国で二番目に大きな街です。そして、城下街が一番大きな街です。ですから逸れたりしないように、その……」

 クラウが横から会話に入ってきて、解説をしてくれた。

 最後の方は、真っ赤になりながら言おうかどうしようか迷ってる感じだった。

 なんとなく何を言いたいのか解ったけど、助け舟は出す気はない。

 だって私は、かなとクラウが仲良くなって、かながこの世界に残るなど言い出したりしないか、不安だったりする訳で。

「かな、手、繋がない? 私この間、城下街で一緒に行ってくれた人と逸れちゃってさぁ」

 かなは少し驚いた後、楽しそうな笑顔で「いいよ」って言って手を繋いでくれた。

 なんだか、クラウに勝ち誇った気分です。

 でも、それに水をさされました。

「アキネさん、申し訳ないがそれはクラウに譲ってくれないかな? 君は今カナエ様とは主従関係にあるって設定になるから、主人と従者が手を繋いで歩くのは変だからね」

 おのれ、リディルめ!

 悔しいじゃないか……。

 しょんぼりです。

 でも、大人しく指示に従い、かなの手を離します。

 レズとかじゃないから、かなに触れていたいとかそういうのは無いし。



 しょげる私とは対照的に、クラウは顔を真赤にしながら心なしか嬉しそうに、かなの手を取った。

 かなは俯きがちになり、頬を染めながらクラウの手を握った。

 私はそれに、二人に気付かれないように溜息を吐くばかりでしたっと。









「アキネさんは……クラウがお嫌いなのですか?」

 今日泊まる宿で、寝間着と明日着る服を探していたら、後ろからリディルに声をかけられた。

 男女一緒の部屋は良くないだろうって事で、男性用と女性用の二部屋借りることになった。

 もっとも、彼らの仕事はかなの護衛があるのでちょくちょく出入りするのだろうけど……。

 居座られるよりかは良いと思おう。

 リディルの問いはスルーすることにする。

 答える義理はないだろうし。

 というか、好きか嫌いかのどちらかしか選べないなら、嫌いを選ぶからね、私。

 ところで、リディル入ってくる時ノックしたっけ?

 一応ドアは閉めてた気がするんだけど?

「……リディルさん、ここ女部屋ですよ?」

「出かける用意が整ったので、呼びに来たんですよ」

「出かける……何処にですか?」

 仕方がなかったので、服探しを中断して無様にならない程度にさっと片付けることにした。

 用意が整ったということは、皆を待たせているという事だから。







 部屋を施錠して、大事なものだけ宿に預けるつもりで持って、リディルについて行った。

「今からカナエ様とクラウ、それと私で神殿に行って参ります。その間にアキネさんにはフーガと一緒に買物をしてきて欲しいのです」

「私は、神殿には一緒に行かなくても良いのですか?」

 今日泊まる宿は木造の二階建て。その二階の部屋を割り当てられた。

 年代物なのか、廊下を歩くたびにギィギィと鳴くので少しだけ床が抜けないか怖かったりする。

 ギィギィ鳴く廊下をリディルと二人で歩く。

 少し前を歩くリディルが私の方を向き、少し苦笑して言った。

「神殿自体はアキネさんも行けるのですが、用事がある場所が『神銀の乙女』や『神銀の騎士』しか入れない場所なので、一緒についてきても一般の方々が入れる場所までしかアキネさんは入れないのですよ」

「なるほど。それで買い物を任せることにしたんですね。私は……」

 一人で行けますと言いかけて、止めた。

 監視の必要性は無くなったとは思うけど、護衛しないといけないのは変わらないはずだから。

 多分、一人で行けるとか言っても、一人で行かせてもらえないのが予想できる。

 あーだこーだと言って、結局言い含められて一人では行かせてもらえない、きっと。

「……いえ、フーガさんは神殿には行かなくても良いのですか?」

「フーガは……神殿嫌いなので。ですから、アキネさんと買い物に行かせる方が都合が良いのです」

 『神銀の騎士』なのに神殿嫌いなの?

 それで務まるの?

 ってか何で嫌いなんだろうか?

「えっと……?」

「まあ、その先の事情は本人に聞いて下さい。私が勝手に喋って良いことでもないでしょうから」

 確かにリディルの言うとおりだろう。

 気になるからと言って、根掘り葉掘り聞いていいものでもないだろうし。

 フーガと二人になって聞く機会があって、尚且つ覚えていたら聞いて見ることにしますかね。

「では、これをお願いしますね」

 そう言って、リディルはポケットから紙切れを取り出した。

 取り出した紙切れを渡され、それを見た。











「それじゃあ、かな…‥え様。お気をつけていってらっしゃいませ?」

 公衆の面前なので、かなと主従関係という設定を忘れかけて、いつも通りの言葉遣いをしそうでした。

 気づけたのは、かなの後ろに立っていたリディルが文句を言いたそうに冷たい視線をしていたからだ。

 どうせ、忘れてましたよ……。

「え、えっと……行って来ます。あき……ね……も気をつけて」

 かなも察してくれたのか、しどろもどろながら応えてくれた。

「参りましょうか、カナエ様」

 そう言って、クラウはかなの手を取り、外へと向かう。

 リディルが先に外に出て、ドアを開けて待っていた。

 





 

 かなたちを見送って、私達も頼まれた物を買いに行くことにした。

 残されたフーガを見上げながら、気付かれない程度の小さな溜息が出た。

「私達も行きますか。書かれている物は……」

 言いながら、私はリディルに渡されたメモを確認する。

 そこに書かれていたものは、この世界で言うところの大学ノートのようなものだった。

 筆記用具のようなものに、これはなんだろうか……?

 名前が聞いた事がないような物が書いてある。

「あの、これ何か教えて下さい」

 フーガにメモを見せながら、名前が解らないのを指して、これが解らないのだと教える。

「これは……酔い止め、だろう」

「酔い止め……ですか。ああ、そうか馬車の中で勉強する予定だから、馬車酔いしないようにか」

「そうだろうな」

 確かに、自動車の中などで文字を読んだりしてたら気分が悪くなったりするからね。

「フーガさん、何処に売ってあるか解りますか?」

「おそらく」

「まあ、解らなくなったら人に聞きましょう。行きましょう」

「ああ」

 なんだか、一人で喋ってる気分になります。

 返事はしっかりしてくれるのですが、単語です。

 まあ、仕方ないか。

 返事がないよりは良いと思おう。




 







 フーガに案内されるまま、一軒の店の前にたどり着いた。

 店のショーウィンドウには○○が一割引とか書いてある黒板しかなく、何の店かショーウィンドウではいまいち判断がつきにくかった。 

 店の中からは何か口論でもしているのか、あーだこーだと聞こえてきます。

 どうやら何の店か解りませんが、お客さんがいるようです。

「ここですか?」

「ああ」

 そう言って、フーガはさっさとお店のドアを開けて入ってしまった。

 花やらリボンやらで可愛らしく装飾された看板が堂々と店の前に飾ってあった。

 もし現代の男性とかだったら入るのに躊躇するじゃないかって位、ファンシーな看板です。

 でも、そんなのお構いなしにフーガは店にさっさと入っちゃいましたよ!

 もしかして、この世界でこんな看板って当たり前……なわけないか。

 城下街じゃあまり見かけなかった気がするし。

 本当にここ、何の店なんだろうか?



 それはそうと、置いてけぼりも困るので私も店に入ることにした。

 幸い、フーガがドアを開いたままにしてくれていたから。

 ってか、フーガに入らないのかって目で見られてました。

「すいません」

「……?」

 お待たせしました的に謝罪の言葉を口にするものの、フーガには全く伝わってなかったみたいです。

 なんだろう、日本人特有の感覚なんだろうか?

 それとも私だけなんでしょうか?

 


 店の中は看板からは想像できないほど整然としていて、名札のついた引き出しが沢山並んでいた。

 看板についていたような可愛らしい装飾は一切無く、引き出しの上には鉛筆のような物や文鎮のような物が並べてあった。

 どうやら此処は文房具店のようなものらしい。

 なのにあんなファンシーな看板。

 理解し難いです。



 店の外にまで聞こえていた声から、先にお客さんが居るの解ってました。

 口論でもしていたのでしょうけど、私達が店に入ってから全然声が聞こえないので、話を中断させたのかもしれませんね。

 なんだか、お邪魔して悪い気もしますが、私達もお客なのだから、いいかな。

 店をキョロキョロと見回していた私の目に、その客人の姿と店主だろう人の姿が入りました。



 店主は愛想よく「いらっしゃい」って言ってくれました。

 でも、その店主の前に居た客人が話は終わったのか出入り口に近づいて来てます。

 私は今、ドアのところに居ます。

 邪魔になるだろうと横に避けようと、店の中に入ってドアから少し離れたところに避難しましたが、目の前に客人が居ました。

 どうやら、私の勘違いらしい。

 客人が用があったのは、出入り口ではなく私だったらしい。

 客人の方が背が高く、男性で、上から見下ろしている切れ長の黒目が印象的で……?

 私、なんだか睨みつけられてませんか?

 


 切れ長の目が、睨みつけるように私を見ていました。



 ……逃げても良いでしょうか?

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