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第五十四話

 何か夢をみた気がするが、起きたときには覚えていない。

 こちらの世界に来て、毎日のように夢を見ている気がする。

 慣れない生活で精神は疲弊してると思うのだが、熟睡出来てないのだろう。

 だから夢をみる。

 夢と言うには、あまりにも現実味があるような夢を。 





 起きる時、そんなことを思いながら、目を開けた。









 この世界に来て、一週間目のこの日。

 女神の力の欠片集めの旅に出る日。

 スニクス国を離れる日。



「あきちゃん、おはよう」

 私が起きたのに気づいたかなが挨拶をくれた。

「おはよう、かな。昨日は良く眠れた?」

 昨日の朝のかなは、泣き腫らした目を冷やしてたからね。

「うん。昨日はぐっすり眠れたよ」

「そう。良かった。今日は大変だと思うけど、頑張ろうね」

「うん!」

 かなはこっちまで元気になりそうな笑顔で返事をくれた。

 やっぱりかなには笑顔が似合う。

 




 支度が終わった頃、ドアがノックされ迎えの『神銀の騎士』の三人が来た。

「おはようございます、カナエ様。アキネさん。朝食の後、陛下とお会いしたのち出発になります」

 リディルが二人の前に立ち、私たちを促した。



 リディルに案内されるまま、個室で朝食をとった後、衣装部屋へと向かった。

 衣装部屋の前にサティが居て、今日着る服を用意していてくれた。

 用意されていた服は二つあった。

 一つは女王との謁見用の服。

 もう一つは、謁見の後。旅の時用の動きやすく丈夫な服だった。

 






 女王との謁見は何事もなく、RPGとかでお決まりのような「旅立つ勇者へ贈る言葉」だった。

 いや、確かに格式的に要るのかもしれないけど……。

 それが終わって、また着替えて出発となった。








「カナエ様、アキネ様。短い間でしたが、お仕えすることが出来て本当に嬉しかったです。どうか道中お気をつけて下さい」

 見送りは少人数だけだった。

 この世界に来て、スニクス国で関わった人たちだけ。

 大々的にしないのには、過去に異世界から来た『神銀の乙女』が襲われたことが起因している。

 見送りに来てくれてる人は、サティと娘のマリーン。それと王子のエル。『神銀の乙女』の一人(私は話したこと無いので名前も知りませんけど)。

 その四人だけだった。

 サティの息子のフィンは来ていなかった。



 正直、フィンが来ていなくてホッとした。

 どんな顔して会えば良いのか解らない。というか、会いたくない。



「こちらこそ、短い間でしたがお世話になりました。皆さんも、体に気をつけて」

 私が先日の嫌な事を思い出している間に、かなが見送りに来てくれた人達に挨拶をしていた。

 かなが頭を下げているのに気づいて、私も慌てて頭を下げる。

「ありがとうございました」

 つい出た言葉は、これだった。

 お世話になったことなど諸々含めて、感謝の念を。

 もっとも、この世界に来てしまった事を感謝することはきっと無いけれど。



 頭を上げたかなは、何かに躊躇った後、言葉に出した。

「それじゃあ、皆さん。さようなら」

 かなは「行って来ます」なんて言葉じゃなく、「さようなら」と言った。

 私はそれに少し嬉しさを感じた。

 かながなんだか立派に見えます。

 私の精神年齢が子供なだけかしら?

 かなもこの世界と「さようなら」して、早く元の世界に戻りたいと思っていてくれると、そう思うとやっぱり独りじゃないって気がして嬉しかった。

 少し不安だった。

 かなとクラウの関係が進んだら、かながこの世界に残るとか言うんじゃないかと。

 まだ、それはないって思うと、安心した。

「……カナエ様、アキネ様。お気をつけて、いってらっしゃいませ。……さようなら」

 サティが代表で返事をしてくれた。

 かなが言った言葉を無視すること無く、同じように「さようなら」と返してくれた。

 ただ、サティは「さようなら」と言う時、少しだけ寂しそうではあったが。



 かなも、私も頭を下げ、移動に使う馬車に乗り込んだ。

 旅に必要な荷物などは、サティたちが考えて決めて用意してくれたものが馬車に乗せてあった。

 




 先日乗った乗合馬車とは、また違った形の馬車だった。

 馬車は幌付きの荷馬車のようだった。

 馬が二頭立ての四輪馬車。意外としっかりした作りの様子。とても頑丈そうです。

 荷台の中にはクッションのようなものが敷き詰めてあり、片側に旅に必要な道具などが入った木箱や布袋などが置かれてあった。荷物は転がったりしないように、紐で荷台にくくりつけられていた。

 荷台の中は荷物が多く、一畳ほどの広さがあった。

「馬車って、こんな風になってるんだね。私初めて乗る」

 先に乗ったかなが、クッションの上に座りながら楽しそうに言った。

 私もかなに続いて、荷台の後ろから上り馬車に乗った。 

 足元がクッションで覆われているため、私もかなも荷台に上がってすぐに靴を脱いだ。

 安定感はないけれど、緩衝材にはよさそうだった。

「私は先日城下町の帰りに乗合馬車に乗ったよ。これとは違って左右に椅子があって座れるのだったけど。……思った以上にお尻が痛くなりましたよ。筋肉痛だったのに」

「あらら……大丈夫?」

 かなが心配そうに聞いてきた。

「うん、もう大丈夫。筋肉痛も治ってるし、全然問題無いよ」

「そっか、良かった」

 私が軽快に笑うと、かなも安心したのかにっこりと微笑んだ。



「それでは出発します。少し揺れますので気をつけて下さい」

 馬車の外から幌を捲ってリディルが話しかけてきた。

「はい」

 かなが返事をして、私は頷くだけだった。

 リディルの言うとおり、少しして馬車は歩き出した。

 御者にリディル。フーガとクラウは各々愛馬に跨り、クラウが馬車の前を、フーガが馬車の後ろといった隊列だった。

 リディルの愛馬は馬車に繋がれて引かれていく。

 どうやらルー(リディルの愛馬)は軍馬なので馬車を引くことはしないらしい。それか、リディルが嫌がったのかどっちかでしょう。

 







 ガラガラガラガラ。

 慣れてくると耳に心地よい音に感じる、車輪の音。

 まるでそう、電車のあの揺れみたいに。

 意外と振動もクッションで心地よい揺れだし、眠くなりそうです。

 まだ出発したばかりなので、馬車が通っている道は舗装されている道だから良いが、舗装されていない道になるとどうなることか、少し不安ですね。

 舗装されてない道だと音も振動も、もっと酷い事になるだろうからね。

 先日行った城下町の方向とは違う方向に進んでいるから、違う街に行くんだと思う。

 ってそりゃそうか。

 私がこの世界で行ったことがある場所なんて、片手で数える程度だしね。

 田舎の方は上下水とか舗装とかどうなってるんだろう、とか考えたくもない気がします。

 好奇心半分、恐ろしさ半分ですね。

 ……肥溜めとかあるのかな?



「あきちゃん、大丈夫?」

「へ?何が?」

 リディルが出発して少しして、幌を中ほどまで上げて外の景色を見えるようにしてくれた。

 私とかなは馬車から見える、ゆっくり流れる景色を見ながら揺られていた。

「なんだか、眠そう……?」

「う……。まあ、眠くないと言ったら嘘になるかなぁ……。だって、心地よい揺れだし」

 私がそう答えると、かなも揺れを味わうように少しの間黙った。

「……うん、確かに眠くなるような揺れだね」

 そして、懐かしむような笑顔で答えた。





  





 出発してから二時間位して、休憩がてらの昼食を入れることになった。

 流石に私もかなも、することのない馬車の中が飽き飽きしてきたとこなので嬉しかった。

 現代だと本や携帯、携帯ゲーム機、音楽プレイヤーなど時間を潰す道具は溢れるほどある。

 そんな生活に慣れた私とかなは、すること無く座っているのが結構大変で、かといって心地よい揺れだったが眠れた訳でもなかった。

 元々、私もかなもお喋りをすると言っても、長時間ずっとだらだらと喋るのは苦手で、二人でいる時沈黙の時間も多かったりした。

 出発して三十分位はあれはどうだとか会話が続いたが、話題が無くなると自然と口数は少なくなっていった。

 後は流れる風景を見ることしか無くて、暇でした。

 休憩はありがたかたです!

 ついでにお腹も少し減っていたので嬉しいです。



「カナエ様、アキネさん。馬車での旅はお暇のようですから一つ私から提案があります」

 軽い食事とお茶を飲んでいた私とかなに、リディルが話しかけてきた。

「道中、この世界の事や魔法の勉強するのは如何でしょうか?」

「馬車の中で勉強ですか?」

 リディルの提案にかなが質問する。

 確かに、あの程度の揺れなら口頭での勉強ならいけるかもしれないね。

「ええ、そうです。馬車の中なので文字などを見ていたら乗り物酔いをするかもしれませんので、口頭での説明になりますが、解りにくいところは休憩の時や宿についた時に追って説明する感じで行こうと思います」

 って、リディルの説明だと勉強する事前提になってませんか?!

「どうでしょうか?」

 にこやかに笑顔で聞いてくるリディルですが、その笑顔なんだか「断る事は許しませんよ」って言ってる気がします。

 私はかなの方を向いて、かなの表情を伺おうとした。

 かなも私の方を向いていた。

 かなも私と同じように「どうする?」って思ったらしい。

 確かに馬車での移動、何もすること無いのは暇で仕方ないし、この世界の事はまだ触り程度にしか教えてもらえてないと思うので、勉強は必要だと思う。

 それに、魔法の勉強はしたい。とても。

 だから、私が頷くとかなは解ってくれたのか、かなも頷き返してくれた。

「解りました。リディルさんお願い致します」

「宜しくお願いします」

 かなと私はリディルに頭を下げた。

 リディルは嬉しそうな、子供を慈しむような笑顔で言った。

「はい、宜しくお願いします。解らない事はちゃんと聞いてくださいね」

 といった感じに、私とかなの馬車の旅は勉強をしなくてはいけなくなりました。

「後二時間ほどで今日泊まる街に着きます。勉強は明日からということで、今日はゆっくり馬車に揺られて下さい」

 リディルがそう言い終えて、さっさと馬車の整備に行ってしまった。

 私とかなの食事が終わって、また馬車での移動となった。





 後二時間で、街につくらしい。

 どんな街か結構気になります。

 日はまだ高いから、おやつ時くらいに街に着くのだろう。

 だったら、街を散策したりすることも可能かもしれない。

 楽しみですね。

 なんか、可愛いのとか面白いのとか見るのは好きです。





 そんな風に私は今日泊まる街に思いを馳せながら、ゆっくりと馬車に揺られていた。

 二時間程でリディルの言った通り、馬車は街へと着いた。

物凄く更新が遅くなりました。申し訳ありません。

そして主人公たちがやっと旅に出ました。これからも宜しくお願いします。

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