第五十三話
かなより先に部屋に戻った私は、かなとどんな顔して会えば良いのか解らなかったので、先に寝ることにした。
でも、こんな時に限って上手く寝付けない。
寝たくない時ほど眠いのに、寝ようと思ったら寝付けないとは……。
それでも、ベッドの中で目を瞑りながら今日あったことを思い出してみる。
こっちの世界に来て一日一日が濃密に感じる。
でも、きっとそれは慣れていないから。
その時その時にあることに精一杯で、一日が一週間にも一ヶ月にも感じるほどだ。
でも、まだこの世界に来て五日だ。
いや、もう五日というべきかも知れない。
五日も経つのに、私たちの居た世界に戻る術は一つしか発見していない。
それも、女神に元の世界に戻して貰うこと。
何処まで信用できるか解らないが、金色の人の言葉を信じるなら、女神は私たちを元の世界に戻すことは可能だけど、今まで返還したという事例は無いとのこと。
確実だと言った方法は、行方不明の神を探すこと。
行方不明の神とか、何の事だかさっぱりです。
さっさと私たちの居た元の世界に戻りたい。
だらだらと思案してても、なかなか眠気が訪れてくれません。
そうしている間に、かなが戻ってきた。
夜会が終わっただろう時間から考えると、遅い気もするが時計なんて無いので確認しようがない。
体感で遅く感じても、そんなに時間が経ってないこともあるんだし。
外はあれから曇ったのか、テラスで見た煌々と照っていた二つの月は、部屋を照らしてはいなかった。
薄く、暗い部屋に、かなは戻ってきた。
かなは私が寝てると思ったのか、声をかけることもなくベッドに潜り込んだ。
時折、鼻をすするような音が聞こえる。
声を殺して泣いているんじゃないかと、思うような音だった。
私は、かなに何て声をかけて良いのか解らず、ただその音を聞いていた。
翌朝、私より先に起きたかなは、洗面台で何かしていた。
私は洗面台の水の音で、目が覚めた。
「……おはよう、かな」
欠伸をしながら洗面台に居るだろう、かなに挨拶をした。
「お、おはよう。あきちゃん」
かなは振り返って挨拶を返してくれた。
その顔は水に濡れており、目元が少し腫れていた。
きっと、かなは目の腫れを冷やすために、洗面台に居たのだろう。
「かな……」
なんだか、胸が痛い。
親友と言ってくれたかなの力に、私はなれていない。
そう思うと、自分が情けなくて悔しい。
でも、かなが何に悩んでるのか察することは出来る。
その悩みに、恋愛経験なんてゼロな私じゃ力になることが……出来そうにない。
情け無い。
「ど、どうしたの、あきちゃん?」
精一杯の笑顔を作る、かな。
それがとても痛々しく感じる。
「かな。 ……あの……。その……な、何かあれば言ってね。私、かなの力になるから! 何でも、言ってね」
かなが一瞬呆気に取られた表情をした後、私の言った事を理解したのか、頬を染めて微笑を浮かべた。
その微笑に私は見惚れた。
いや、私はノーマルですよ。
でも、見惚れるほど、かなの微笑み方は綺麗だった。
恋する乙女は美しいですね。はい。
「ありがとう、あきちゃん。何かあったら言うから聞いてね。あきちゃんも、何かあったら言ってね」
「うん、解った。……何かあったら言うから、その時は宜しくね」
なんだか漫画や小説なんかでありそうな遣り取り、実践するなんて……すっごい照れくさいな。
いやまあ、かなに頼ってもらえるかもって、かなり嬉しいけど。
『聖帝の祭日』とかいうのは、昨日の夜会で終わったらしい。
昨日と同じように朝食も済ませ、午前中は旅に必要な知識として、この世界の常識を学んだ。
今日はリディルが講師として解りやすく教えてくれた。
教えて貰ったこの世界の常識は、私たちの居た世界の常識とそう大差のない事柄だった。
午後はマリーンの魔法講座。
魔力を扱う上での注意事項などを、細々教えて貰った。
難しいところは、忘れそうな気もするが。
終わりの鐘が鳴る頃、クラウが迎えに来た。
クラウに案内されるまま、女王と謁見した玉座の間へと辿り着いた。
「急な事だとは思いますが、カナエ様たちには明日から、女神イシュタリアの力の欠片を探す旅に出て頂くことになりました。今日でやっと準備などが済みましたので」
私たちへの挨拶も簡潔に済ませた女王は、旅に出ろ宣言をしました。
いや、出ることは決定済みだったけど、本当に急だね。
「それで、旅の安全を図る上で、道中アキネ様にはカナエ様の従者として振舞って頂くことになります。カナエ様もそのおつもりで、アキネ様に接して下さい」
これは今日リディルの講義の終わりに説明された事だ。
だから、かなもすんなり「解りました」と答えた。
まあ、慣れるまでは大変だろうけど頑張っていこう。
「カナエ様、アキネ様。異世界人である貴方がたにとっては、迷惑でしか無い事かもしれませんが、どうかこの世界を宜しくお願い致します」
女王は人目を憚る事無く、玉座から降り私たちの前まで来て、私たちに対して騎士の礼を取った。
跪き頭を垂れ、私たちに「お願い」をしてきた。
これにかなは少しだけ狼狽した後、意を決して女王の「お願い」を聞き入れた。
「解りました。出来る限り頑張ります」
女王はかなの言葉を聞くと、頭をあげ、跪いたまま、笑顔を浮かべた。
そして、女王はまだ答えていなかった私の方を笑顔のまま見た。
はい、笑顔が怖いです女王様。
内心冷や汗をかきながら、私もかなと同じように頷いた。
「ありがとうございます。カナエ様、アキネ様」
微笑みながら言って下さった女王様、後ろに何か黒いものが見えそうです。
女王からの諸注意などを受けた後、夜ご飯となった。
夜は昨日とは違い、個室で気兼ねなく食事ができるようにと、配膳するメイドもサティだけだった。
夜ご飯が終わり、お風呂に入り、私とかなは明日の出発に備え寝ることになった。
良くも悪くもこの世界での時間が進んでいる。
特にかなから話があるわけでもなく、金色の人が現れるでもなく、陰口を聞くわけでもなく。スニクス国の王城での最後の夜を過ごした。
遅くなりました。しかも内容少ない。