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第四十五話

 思っていたよりかは馬車の中は狭く、椅子が両側にあったのだが一脚に四人ほどしか座れそうになかった。それも結構ぎゅうぎゅうで。もしかして、三人用なのかな?

 この馬車の狭さから考えると、人が多い時とかって立って乗るのかな?

 天井に棒が出てるし、きっとそれに掴まって揺れるのに耐えるんだろう。

 そして、今日はお祭りがあった日。

 お城から城下街へと行っていた人も多かったようで、馬車に乗る人は多かった。

 御者に呼ばれて直ぐに乗ったので、椅子に座ることが出来た。

 けど、問題は四人掛けの狭い椅子に座る。片方が壁になるのはいい。反対側にはフィンが座った。問題はこの四人掛けの椅子というか、馬車自体が狭いということ。

 隣に座ったフィンと片側だけだが、密着しないといけなかった。そうしないと他の乗客が椅子に座れないし、なんだか視線で詰めなさいよと言われてる気がしたし。

 隣りに座ったフィンは、少しだけ申し訳なさそうに苦笑した。

「城に着くまでの辛抱です。それとも、二人乗りに致しますか?」

「……我慢します」

 脳内で二人乗りで密着と馬車で密着と競り合った結果、馬車が勝ちました。

 だって、二人乗りは全体的に密着するんだもん。それに比べて、馬車は密着するのは片側だけだから馬車のほうがましってことで。

 まあ、どちらにせよ密着することに代わりはないのですが……。



 馬車の窓から外を見ても、暗く何も見えない。進行方向が少し明るいから、きっと馬車のランプか何かが道を照らしているのだろう。

 馬車の中には私とフィン、同じ席に老夫婦。反対側の席に、若い夫婦とその子供二人。後は、陽気そうな酔っ払いのおっちゃんが二人ほど、仲良く床に座っている。

「皆、お祭りの帰りなのかな?」

「おそらくそうでしょう。今日のお祭りに出店するような方は、後片付けがありますから。帰りは明日になるでしょうから。この時間帯に帰るような方々はお祭りを楽しんだ帰りかと」

「でも、こんなに少ないの?」

「そうですね。聖帝の祭日と言っても、城に住む者で休みを取れた者は、そう多くはありません。大きな行事の時ほど、警備する場所も増えますので」

「そうですか……。忙しい時に……すみません」

 来たくてこの世界に来たわけじゃないけど、城下街のお祭りに行きたいと言ったのは私だし。

 私は『神銀の乙女』ではないし何か目的があって呼ばれたわけじゃないが、護衛をしないわけにもいかないのだろう。それで駆り出されたのが、フィン。

「大丈夫です。アキネ様が心配されるようなことは、何も御座いません」

 サティ譲りの人懐っこい笑顔で、フィンは模範的な答えを言った。

 今頃かなは、城で何をしてるんだろう。

 真っ暗な道を馬車が走る。

 私はフィンの後ろにある窓から、真っ暗な外を眺めた。





 所々に明かりがつき、昼とは全く違う顔の夜の城へと馬車は帰りついた。

 馬車から降りた人は御者に挨拶をして、城の住居がある方角へと歩いて行った。

 城の城壁の中には当然本城があり、他には厩や兵舎。花園や女神を崇める神殿。住み込みで働く使用人の居住区画など様々なものがあり、何処のショッピングモールだって位広かった。いや、それ以上なのかもしれない。兎に角、物凄く広い。

 私は馬車から降りて、御者にお礼を述べた後疑問に思ったことを聞いてみた。

「あの、料金とかって……その、失礼ですがどうなっているのでしょうか?」

 そう、私は言われるままに馬車に乗って降りたけど、料金のことなど全然説明をされていない。

「料金……? 他国か田舎から来られた方ですか? えっと、城下街と城を往復するこの馬車はスニクス国営で無料になってるんですよ」

 御者の年配のおじさんは、人の良さそうな笑顔を浮かべながら教えてくれた。

「アキネ様、こちらです」

「あ、はい。おじさん、ありがとうございました。お休みなさい」

「お休みなさい。お元気で」

 フィンに呼ばれ、私は挨拶をしてその場を立ち去った。





 フィンに呼ばれて付いて行った先は、先日から使用させてもらってるお風呂だった。

「メイドに服を用意して貰ってますので、その間にゆっくりとどうぞ。私は外で待機していますので」

「え? ……あ、そう……ですね。解りました。それじゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」

 お風呂にどうぞ。は、いい。だが外で待機ってのに、若干引っかかりを覚えたが、彼の今している仕事が私の護衛なのだということを思い出し、改める。

 一緒に入るなどと、言われないだけましなんだと。言われたところで、断固拒否するけど。

 私はフィンを置いて、風呂へと入る。

 誰も居ない脱衣所は広く感じ、物哀しい。

 サティが選んでくれた動き易い洋服を脱いで、それっぽく簡単に畳んで浴場へと向かった。

 タオルや石鹸などは用意されていたようで、脱衣所の中にある鏡の前の棚に、目に付くように籠に入っていた。それを使わせてもらうことにした。

 誰も居ない浴場は広く感じたが、脱衣所のように物哀しい感じはなく、なんだか広いお風呂を独り占めしているような気持ちになった。ちょっと楽しいかも。

 今日のお風呂には、網に入った木が湯に浮かべられていた。檜などのような香りの強い木なんだろう。

 私はなんだか忙しない一日の疲れを取るように、湯槽に肩までしっかりと浸かった。



 露天風呂のような浴場からは、二つの大小の月が良く見えた。

 こうやって露天風呂に気持ち良く浸かっていると、自分が日本の何処かに旅行してる程度にしか思えない。話す言葉も通じるし、昼頃からは日本語じゃない文字も読める。

 顔の造形が日本人とは全然違う多種多様だし、城や街並みも日本とは全然違うのに、お風呂に浸かっているだけでそんな気がするから不思議だ。

 いや、現実逃避したいだけなのかもしれないが。

 でも、改めて思う。

 お風呂っていいなぁ。

 お湯は程よい温度で、ゆっくりと浸かっていられるし、露天風呂だから頭は調度良いくらいに冷える。

 本当に……ここが、異世界なんて言うとんでもな世界じゃなく、日本の何処かの観光地だったらいいのに。そんな、何もならないような事を考えながら。

 




 ゆっくりと浸かった後、のぼせる前に上がった。

 脱衣所には相変わらず誰も居なかったが、いつ入ってきたのか、脱衣所に簡単に畳んでいた服はなく、新しい洋服が用意されていた。

 連日着ている、寝間着のような薄手の上下に、その上から着るような少し厚手の洋服が置いてあった。

 新しく用意された洋服に袖を通し、脱衣所から外へと出た。

 そこには、直立で待っていたフィンが優しそうな笑顔で聞いてきた。

「ゆっくり出来ましたか?」

「ええ、ありがとうございます」

 フィンに案内されるまま、城の中を歩いた。

 そういえば、露天風呂に護衛対象を一人にさせても良かったのだろうか?

 案内される途中にフィンに聞くと、露天風呂がある場所には結界が張ってあるそうで、もし破られたとしても直ぐに城に警報が鳴るようなシステムが組み込まれてたらしい。

 解りやすくシステムと言ったけど、術法がどうのこうのと説明されたが、半分も理解出来なかったのです。別に、頭が悪いわけじゃ……あまり良くはないな。





 そんなこんなで案内されるまま、歩いて行くと与えられた部屋だろう、いつもの部屋に着いた。

 

なんだか進まない。

次回でかなちゃんと再開です。実に十五話ぶり……? ヒロインなのに!

もう少し、サクサク進みたい。

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