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第四十二話

 ステージに立っていた人物は、どうやらヴァンのようだった。肩にはあの小さい白銀竜が乗っていた。

 ……どうみてもあれ、小さい翼のオブジェを背負わせた犬にしか見えない。竜になんて見えない。

 燕尾服のようなステージ衣装を着たヴァンの口上から始まって、ステージの上で演劇が始まった。

 拍手と共に、ステージの照明が落とされ、辺りも暗くなる。 

 そういえば、陽も傾きかけてるなぁ。今何時くらいなんだろうか?

 


 演劇の内容は大雑把に言っちゃうと、昼ドラ?

 ……大雑把に言い過ぎました。



 ある銀髪の女性と幼馴染の男性が居ました。

 そこに赤い髪の魔女が現れました。

 赤い髪の魔女は幼馴染の男性を好きになり、魔女に言い寄られた男性は魔女のことが好きなりました。

 幼馴染の男性は、赤い髪の魔女の禍々しいお城に魔女と一緒に住むようになりました。

 銀髪の女性は幼馴染の男性の事が好きで、いきなり現れた赤い髪の魔女に幼馴染の男性が拐かされた事に怒りました。

 銀髪の女性は赤い髪の魔女が幼馴染の男性を手に入れるため、魔女が男性に魔法を使ったと思いました。

 なぜなら、幼馴染の男性は銀髪の女性と昔将来を誓い合った仲だったからです。

 銀髪の女性は赤い髪の魔女に見つからないように、魔女の禍々しい城に忍びこみ、幼馴染の男性を探しました。

 程なく、銀髪の女性は幼馴染の男性と会えました。

 けれども、銀髪の女性の言葉は幼馴染の男性には届きませんでした。

 幼馴染の男性は赤い髪の魔女の魔法によって、銀髪の女性の事が解りませんでした。

 魔法は掛けた赤い髪の魔女が解除するか、魔法を掛けた赤い髪の魔女よりも圧倒的な力でしか解くことが出来ません。……それか、魔法を掛けた赤い髪の魔女が死ぬか。

 けれども、赤い髪の魔女よりも圧倒的な力を、銀髪の女性は持ってはいませんでした。

 銀髪の女性途方に暮れ、涙を流しました。

 銀髪の女性は藁にも縋るような思いで、女神に祈りました。

 そのころ、赤い髪の魔女は禍々しい城の最上階にある部屋の窓から外を眺めていました。

 その時、突風が吹き、赤い髪の魔女はバランスを崩し、窓の外へと落ちてしまいました。

 赤い髪の魔女は死んでしまいました。

 幼馴染の男性に掛けられていた、赤い髪の魔女の魔法は解けました。

 それから、銀髪の女性と幼馴染の男性は結ばれ、末永く幸せに暮らしました。



 


 タニアは赤い髪の魔女を演じていた。子供向けの映画に出てきそうな、いかにも悪い魔女のようなド派手なメイクをしていた。

 きっと、観客の人たちはタニアがどれほど綺麗で可愛い女性なのか知らないだろう。

 演劇が終わった後の人物紹介で、タニアの時だけ少し拍手が少なかった気がする。

 あんな絵本を読んだ後だから、気にし過ぎだったのかもしれないが。

 少し寂しい気分になる。

 後、知ってる人なんてヴァンくらいだけど、彼はナレーション役でステージの端のほうでずっと立っていた。

 演劇は一時間位あったように感じる。

 真剣に魅入っていて、正直どのくらいの時間あったのかがよく解らない。

 でも、凄く楽しかった。それに、凄く素敵だった。

 


 人物紹介も終わり、ヴァンが締めくくりの言葉をかけるとステージの上の明かりも消え、観客も席を立ち何処かへと帰っていった。

 私は演劇が終わる直前に来たスタッフの方に、ヴァンからの言伝で「ここで待つように」と言われたので、特等席に座ったまま、明かりの消えたステージを眺めていた。

 何処からか、ゆったりとしたテンポの音楽が聞こえてきた。笛と弦楽器のような音だと思う。

 暗く誰も居ないステージ。

 人のまばらな客席。

 一人でそれを眺めているせいか、酷く物哀しい気分になってきた。

 例えるなら、最終学年の文化祭の終わり。

 あんな感じかな。



 空を見上げると、陽はとうになく、大小の二つの月が出ていた。

 ああ、この夜空は嫌いだ。

 この世界は、私たちの居た世界じゃないから。

 この世界には、父も母も姉も妹も、私の家族は居ないから。

 この世界は、嫌い。

 救いなのは、私はこの世界に一人で来たわけじゃないという事。

 かなが一緒だという事。

 もし、私が一人でこの世界に来ていたのなら、この世界で私のことを心配してくれる人なんて、きっと誰も居ないから。

 でも、かなと一緒だから、他の誰も心配してくれなくても、かなはきっと私のことを心配してくれるはず。

 それだけでも、私は私の居場所を見つけられる。



「!」

 空を見上げて居た私の膝の上に、何か重みが増した。

 驚いて膝に視線を向けると、そこには先ほどヴァンの肩の上で観客に愛想を振りまいていた白銀竜が乗っていた。白銀竜の視線は私を見上げていて、膝に視線を向けた私の視線とぶつかった。

 白いふわふわの毛。毛の長さは柴犬などの短毛種のよう。毛並みはラビットファーとかよりも、肌さわりが良い気がする。

 鼻の先が少し尖ってるような気もする。

 見上げてくる円な瞳は、綺麗な綺麗なお月様のような金色。

 少し首を傾げるような仕草が凄く可愛くて、撫でたくなって白銀竜へと私は手を伸ばす。

 白銀竜は撫でられるのが解っているように、目を細め手の方へと頭を摺り寄せてくる。

 肌触りよい毛並みを持った白銀竜の頭を、優しく撫でる。

 凄く、癒されます。

 可愛いなぁ。昔から犬とか猫とか大好きなんだよな。撫でるとなんだか癒されるし。

「お前……名前はなんて言うんだろうね。まだ聞いてなかったね。お前のご主人様は? 一人で私のところに来たの?」

 白銀竜は細めていた目を開け、通路を見た。

「そいつはまだ契約をしてないからな、ご主人様ってのはいないんだ。すまんな、遅くなった」

 聞いたことのある声の方を向くと、通路にヴァンが歩いてこっちに近づいて来ていた。

「ヴァン。お疲れ様」

 ヴァンが迎えに来てくれたので、私は白銀竜を腕に抱いて立ち上がった。

「タニアが待ちわびている。こっちだ、付いて来てくれ」

 ヴァンはそう言うと、少しだけ笑って歩き出した。私はそれに付いて行った。



「ああ、そうだ。アキネ、あんたの連れってのも見つかったみたいだぞ」

 前を歩くヴァンが、世間話をするように言ってきた。

 って、重要なことだよ。最初に言って下さいよ!

「見つかったんですか?」

「連れってのがあいつで合ってるのならな」

「ああ、よかった。これでちゃんとお城に帰れるんだ」

「……そうか」

 前を歩くヴァンが急に立ち止まった。

 私は直ぐ後ろを歩いていたけど、なんとかぶつからずに止まれた。

 ってか、いきなり止まらないで欲しい。

「……どうかしたの?」

 白銀竜は私たちが歩き出したら、私の腕の中から降りて自分で地面を歩いている。ちょっとだけ、寂しかった。癒しが逃げた。

 でも、ヴァンじゃなく私の足元で歩いているのは、嬉しい。

 ヴァンが振り返った。急に立ち止まったヴァンにぶつかりはしなかったけれど、距離が近い気がする。さっきまで、後ろ姿だったから気にしなかったけど、向き直って見下ろされるのには威圧感がある。

「ヴァン?」

 見下ろして、尚且つ無言だと威圧感倍増。

 少し、怖いですよ、ヴァンさん。

「アキネは……城に帰るのか?」

「え? そりゃ帰りますよ。城にはかながいるし、宿代だってないし。帰らないとかなに心配かけちゃうから」

 私は目線を合わせるため、距離の近いヴァンの顔を見上げる。

 これ、長時間すると首が痛くなりそうだな。いっそ、屈んでくれ。

 そんな悪態のようなことを思っていると、いきなり視界が真っ暗になった。

 心なしか圧迫感がある。

 ってそりゃそうか。

 何で視界が真っ暗って……。

 ヴァン、ふざけてるのだろうか?

 何で私、ヴァンに抱きしめられてるの?

 ああ、くそぅ。こんな時なんて言えば良いのか……。

 なんだよ、このゲームのようなシチュエーション!  

 恥ずかしい通り越して、頭真っ白だ!

 かなちゃん助けてー!!

 私はこんなのに耐性ないんじゃー!

 こんな状況耐性値0だよ。誰か助けろー!

 ってか、まじ。何をどうすればいいの?!

「なあ、アキネ」

 あ、頭に吐息がかかるー!?

 声が頭の真上からするよー!

 お願いだから、悪戯するなら違う悪戯にしてー!

 ってか、悪戯なんてしないでくれ!

 たーすーけーてーー!

 無言で、ヴァンの腕の中でフリーズしている私をよそに、ヴァンは言葉を続けた。

「俺が守ってやる。だから、俺の側に居ないか?」

 ヴァンは、私を守ると言った。

 でも、今の私は頭の中は耐性値のない状況にフリーズを起こして、把握することが出来ませんでした。





 後日、思い出すだけで身震いがするような、恥ずかしい出来事でした。

 ヴァンのアホ。

セクハラ。魔女の話は入れれたら、注釈を入れたい。いれれたら……。

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