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第四十一話

「バンチョウ、時間です」

 聞き覚えのない中性的な声が、ドアの向こうから聞こえた。

「だ、そうだ。アキネ。あんたも来てくれ。特等席を用意するからそこで見ないか?」

 立ち上がったヴァンが、手を差し出しながら言う。

 そう言えば、タニアとの会話で「見て貰いたいのか」とか言ってたね。衣装合わせとかも言ってたし、何をするんだろ? 定番で考えると演劇とかかな? タニア、スタイルも良かったからファッションショーとかも考えられるかな……?

 いや、先程のヴァンの説明で赤い色は忌み色だと言っていたことを考えると、ファッションショーはありえないだろう……。

「……大丈夫?」

 ヴァンにそれほどの権限があるのか解らないため、聞いてみた。

 特等席とか言われると、VIP席とかS席とかかな? そうなると、お金とかかかるんじゃないのかな?

 いや、でも彼らは主催側だろうから……でもなぁ。

「大丈夫? 何がだ? 何の心配してるかは知らんが、タニアのためにも見てくれ」

 タニアのためときたか。そう言われると、断りにくいなぁ。

 見て欲しいから席を用意するってことだから、席代とか気にしなくてもいいのかもしれないや。

 私は頷いて、用意すると言った特等席に案内されることにした。



 ヴァンは部屋から出る前に、ドアの外で待っている誰かに向かって「すぐ行く」と言った後、理解出来ない言語で何かを呟いた。

 呟いた後一拍置いて、ヴァンの赤い髪の毛が生え際からサッと暗い黒色に変わっていった。

「い、今のは ……もしかして、魔法?」

 驚いたけど、ドアを開ける前にした行動と考えると、多分他の人には内緒なのかもしれない。私はなんとか驚いたけど、大きな声を出さずに済んだ。

「ん? ああ、魔法だぞ。初めて見るのか?」

「魔法は……確かあれは攻撃魔術の一種だとか言ってたから、一度は見たと思うけど。でも、そんな見た目が変わるようなものじゃなかったから。光ったりとかもしなかったし……。えっと、魔法の名前知らないけど、犬のリードな魔法」

「……? よく解らないが、見た目が変わるような魔法は初めて見るんだな」

 ヴァンの発言に頷く。それを見たヴァンは切れ長の目を少し細めるようにして笑った。

 ってか、確かに犬のリードとかじゃ解らないよなぁ。フィンが私にかけた魔法。もっとこの世界の人に解り易い言い回しは……私が解んないや。かなだと解ってくれそうなんだけど。

「今のは身体魔術の一種で、髪や目の色を一時的に変化させる魔法だ。と言っても、外法とか言われるような部類だから、使用するような奴なんて殆ど居ないな。使える奴もほんの一握りだろう。難しいわけじゃないんだがな……」

 ヴァンは悪戯っぽい笑顔を浮かべ「秘密にしといてくれ」と言った。

 その笑顔の釣られるように私も笑いながら「解りました」と答えた。





 ヴァンに案内された特等席は、広場に設置されたステージの真正面だった。

 ステージ台と観客席との間に柵が設けられ、椅子はどこかの球場のように階段のように並べられていた。この椅子ども確か、私やタニアが広場についたときには無かった気がするが……。

 もしかして、あれから一時間位しか経ってないのにその間になのか?

 もしそうだとすると、この世界の人は仕事が凄く早い気がする。

 まあ、それはさておき、用意された特等席は階段の二段目位の位置で、椅子に座ったときの目線の高さがステージがとても良く見える場所だった。流石特等席。

「アキネさんですか?」

 用意された特等席に座っていると、腕章を腕につけたスタッフのような男性が声をかけてきた。

 私が肯定して頷くと、男性はほっとしたような表情をした後、何か薄い絵本のような物を差し出してきた。

 男性と絵本とを見比べるようにして見ると、男性は少し苦笑するような表情に変化した。

「バンチョウが、君にこれを渡してきて欲しいと。確かに、渡しましたからね」

 私はお礼を言って、絵本を受け取る。

 男性は絵本を渡し終えると、踵を返して忙しそうに走って行った。

 薄い絵本を受け取って、男性が何故苦笑しているのか解った気がする。

 子供向けの絵本。タイトルは『女神と赤い髪』。

 『女神と赤い髪』ですか……。

 こうやって、子供向けの絵本にも出てくる程、悪役的立場なんだね赤い髪の人ってのは。

 別に、赤い髪を持ったタニアが悪い人だとは思えないし、ヴァンも悪い人物に感じていない。

 でも、ヴァンが私にと男性が渡してきた絵本には、この世界での『赤い髪』の立場みたいなものが解るようなものなのかもしれない。

 ステージで何かが始まるまで、読んでみることにするか。

 渡されたんだし、読めって事だろう。







 昔々、女神様がまだ人間と仲良く暮らしていた頃のお話です。

  

 女神様が創った人間を、女神様は愛しておられました。


 世界には女神様と人間以外にも、暮らしているものが居ました。


 それは、人間を虐める魔物と魔物を創った赤い髪の神様でした。


 心優しい女神様は、人間が魔物に虐められているのに心を痛め、赤い髪の神様にお願いをしました。


「あなたの創った魔物が、私の愛しい人間たちを虐めています。どうか止めるように言って下さい」


 女神様は精一杯お願いをしました。


 けれども、赤い髪の神様は女神様の言葉を聞きませんでした。


 悲しんだ女神様を見た人間は、女神様に心配をかけないようにと魔物に虐められても必死で生きました。


 魔物もまた、必死に生きる人間を虐め続けました。


 女神様はもう一度、赤い髪の神様にお願いをしました。


 赤い髪の神様は、女神様に言いました。


「私の創った魔物も、女神様の創った人間と仲良くなりたいだけです」


 けれども、赤い髪の神様の創った魔物は姿も形も人間と違い、力も言葉も何もかも違いました。


 魔物に比べると、人間はか弱く非力で直ぐ死んでしまうような生き物でした。


 人間に比べると、魔物は力強く生命力に溢れちょっとやそっとのことじゃ死なない生き物でした。


 赤い髪の神様は、魔物は人間を虐めているのではなく、仲良くしようとしていると言いました。


 けれども、か弱い人間と力強い魔物とでは仲良くすることは出来ず、女神様はさらに心を痛めました。


 女神様は赤い髪の神様に三度目のお願いをしました。


「これが最後のお願いです。どうか、私の創った人間たちを虐めるのを止めて下さい」


 赤い髪の神様は、女神様の最後のお願いも聞きませんでした。


 悲しんだ女神様は泣く泣く、愛した人間のために、魔物を封じようとしました。


 これに、赤い髪の神様は女神様にお願いをしました。


「私の創った魔物の代わりに、私を封じて下さい。どうか、魔物たちは許してやって下さい」


 心優しい女神様は、赤い髪の神様のお願いを聞いてあげることにしました。


 人間を虐める魔物を創った赤い髪の神様は、魔物の代わりに女神様に封じられました。


 けれども、人間を虐める魔物たちはそのままでした。


 女神様は人間たちに魔物に負けないようにと、魔法を授けました。


 人間たちは女神様に授かった魔法で、魔物にも負けないようになりました。


 女神様は人間たちの元を離れ、赤い髪の神様が寂しくないようにと、神代の塔で暮らしはじめました。


 





 これで、お終いですか。

 こんな感じの絵本を幼少の頃に、この世界の人は読んで大人に成長していくんだ。

 でも、赤い髪の神様が魔物を創ったから、赤い色が良くないってのも極端だなぁ。



 私が絵本を読んで、何気なく絵本を撫でていると周りがわっと沸いた。

 顔を上げて周りを見回すと、沢山の人が席に座ってステージの方を期待の眼差しで見ていた。

 私もステージの方に視線を向けた。

 ステージの上には、一人の人が立っていた。

主人公が読んでいる絵本の内容を挟みました。

最初、全部平仮名にしようかと思い、途中まで書いてみましたが、読みにくかったので漢字変換もすることにしました。

でも、一応子供向けの絵本なので、小学一年生向けくらいの文字しか使われてないとだけ。

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