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第四十話

 サングラスを外したヴァンの目は、最初に会った頃のリディルを思い出した。

 なんと言うか、人を観察するような目、とでも言うべきか。冷たいような……?

 いや、実際目の前のヴァンは私を観察しているのだろう。

 私がヴァンの発言に対して、どのような反応するのか。

「それで、何で楽しみだったんですか? 私はヴァン、貴方と今日お会いしたばかりでしょう?」

 ヴァンと会ったのは今日が初めてだし、会話したのも今日が初めてだ。

 それに、それほど多くを話したわけではないのに、何故私と話すことが楽しみだったんだろうか?

 全く理解出来ない。

「そうだな。アキネ、あんたと会ったのは今日が初めてだし、話したのも初めてだ。でもな、あんたには興味を抱くには十分な要素がある」

 ヴァンは楽しそうに目を細めた。ヴァンが笑ったことで観察するような視線が無くなったことに、私は少し安堵した。

 ヴァンって笑うと、悪戯を企んでそうな感じに見える。

「聞いてもいいか? サングラスを外した俺はどうだ?」

 ……もしかして、自惚れ屋なのか?

 まあ、見目はそんなに悪くないと思うけど。十人いたら五人くらいには、格好良いと言ってもらえそうな感じだけど。怖いけど格好良いような、そんな感じ。

 サングラスを外したヴァンは、少し切れ長の目に印象的な赤い瞳。バンダナはつけておらず、今まで隠れていた髪の毛が見える。こちらの色も、また赤い色。

 タニアの赤い髪は綺麗で、それこそ綺麗な薔薇などのイメージを抱いたが、ヴァンのは違う気がする。

 ヴァンの赤い髪は、なんだか血のような生々しいイメージを抱いちゃったわけで。多分本人の容姿にも関係してると思うわけで……。ちょっと怖いし。

 でも、観察するように見ていると解ったのだが、ヴァンの瞳の色は綺麗だ。

 瞳の赤い色はなんだか、映像でしか見たことないマグマのような、力強さのようなものを感じる。

 でも、サングラスを取ったヴァンはちょっと……怖いです。格好良いとは思うが。

「……んー、私的には格好良いと思いますけど?」

 男性に面と向かって格好良いと言うのは、ちょっと恥ずかしい。

 気恥ずかしさで、少しヴァンから視線を外し、机の上にある書類の上を彷徨く。

 雰囲気もおちゃらけたようなものじゃないし、ちょっとした失言などでヴァンが機嫌を損ねないかちょっとばかり、ビクビクしてたりもするし。

 少しだけヴァンから外した視線をヴァンに戻すと、吃驚した。

 ヴァンが目を見開いてます。少し切れ長の目を、見開いて……驚いてるのかな?

 もしかして、私、質問の意図を間違えたのか?

「あ、あの……?」

「…………っく、あはははははは」

 ヴァンは吹き出した後、爆笑していた。今度は私が吃驚した。

「格好、良いか……くく……。そんなことを言われるとはな」

「……そんなに笑わなくても……。どんな意味で聞いたのよ?」

 あんな聞き方じゃ、誤解もするでしょう。それなのに、そんなに笑うなんて。

 なんだか、頭に来る。



 ヴァンは少しずつ笑うのを止めていき、悪戯っぽい笑顔で言った。

 目が、笑っていなかったけど。

「赤い色をどう思う?」

 あの、私の質問はスルーですか!?

 不機嫌になられても困るので、仕方ないからヴァンの質問の答えを考える。

「赤い色……ですか。んー……質問の意図がよく解らないですけれど、別に嫌いじゃないです」

「そうか」

 ヴァンは目を閉じて、何かを考えているように無言になった。



 無言だと、間が持たないのになぁ。

 ただでさえ、部屋に男性と二人っきりってので緊張しているのに。

 訳の解らない質問はされるし……。

 もしかして、質問の答えが気に触ったのかな……?

 私は正面で目を閉じているヴァンを、観察するように眺めていた。

 目を閉じてると、怖いって感じはないんだけどなぁ。

 ヴァンの赤い髪も、陽の光を反射してる部分は、タニアの赤い髪みたいに綺麗なんだ……。

 じっと観察するように眺めていたら、ヴァンが目を開けた。眺めていた私の視線と、目を開いたヴァンの視線が交差した。

 その目は、射ぬくように鋭い気がした。

「一度した質問を、もう一度させてもらう。アキネ、あんた何者だ?」

「…………」

 またその質問ですか。

 答え難いというか、答えて良いか解らない質問は困るんだけどなぁ。

 答えてから、お縄を頂戴致しますとか言われた日には……多分逃げきれそうにないしなぁ。

 困った。

 いや、別に悪いことしてないけどさ。

「黙りか。まあ、いい。なあアキネ、あんた本当にこの世界の人間か?」

「…………っ!」

 ポーカーフェイスとか、自信ない。というか、きっと今顔に出てる。

 多分、私驚いたような表情をしてそうだ。どうしよう。答えなくてもバレそうだ。

「もしあんたが『神銀の乙女』ってのなら、話は早いんだがな。でも、あんたは違うようだ。それなのに、赤い色を嫌うでもなし、厭うでもない。寧ろ、赤い髪を綺麗だと言う。格好良いとも言ったな。城勤めの人間に赤い色を纏った奴は居たか?」

 ヴァンに言われ思い返してみるが、城で赤い色を纏っている人を見たことがない。

 城の調度品も、絨毯なども何もかも、赤い色の単色は見ていない。

 玉座の間でも、絨毯の色は赤ではなかった。

「見てないだろう。そりゃそうだ。赤い色は忌み色だからだ。この世界に住んでる奴は、小さな頃からそれを教えられながら育つ。赤い色を嫌いじゃないと言う人間なんてのは、異常なんだよ」

 ヴァンの視線が痛い。鋭い視線は、警戒の色が濃い。

 私の発言は「異常」らしい。そんなこと、リディルも女王もマリーンも教えてくれなかった。

 それはきっと、当たり前過ぎることだからだ。

 当たり前過ぎて、教え忘れていた事。

 赤い髪をしたヴァンが、赤い色は忌み色だと教えてくれる。

「…………っ」

 異世界から来たと話しても良いことなのか、解らない。

 でも、きっとバレている。

 ヴァンが確信を持っていないのは、私が『神銀の乙女』じゃないから。

 女王が言っていた、『神銀の乙女』以外がこの世界に来たことなど過去に一人も居ないと。

「あんたの行動を見てたら、記憶喪失って感じでもないようだしな。そうなると、この世界の人間じゃないんじゃないか、と思うんだが……。でも、あんたは『神銀の乙女』じゃない。だから、確信が持てない。なあ、アキネ。あんたはこの世界の人間か?」

 ヴァンは鋭い視線のまま、再度聞いてきた。

 怖い。

 ヴァンが怖い。

 ヴァンに怒りをぶつけられているようで、凄く心が痛い。

 目頭が熱い。気を引き締めないと、泣いてしまいそうになる。

 つい、唇を噛み締めてしまった。ちょっと痛い。

 


「悪い。怯えさせるつもりはなかったんだが……」

 前髪を掻き上げながら、ヴァンは窓の外を見るように顔を横に向けた。

 ヴァンの怒りを含んだかのような鋭い視線が無くなり、気が緩む。

「あんたが、タニアの髪の色を綺麗だって言ってくれた……。あの言葉、俺も嬉しかったんだ」

 ヴァンは立ち上がって、私の方に近づいてきた。

 ヴァンが怖い。私のその気持が、椅子に座ったまま逃げるようにヴァンから体を少し離す。

 椅子の端のほうまで、私の体が寄る。

 私の横まで来たヴァンが、屈んで下から見上げるような状態になった。

 こんな風に男性に下から見上げられるのは、初めてかもしれない。

「アキネ、あんたに危害は加えない。誓っても良い。俺は、ただあんたが何者なのか知りたい」

 見上げてくる視線は、鋭くはない。

 タニアの視線に、似てるような気がする。嬉しそうな笑顔で、私を夜の食事に誘ってくれた時の視線に、似ている気がする。

「……ヴァン……の言う通りよ。私は『神銀の乙女』なんかじゃないし、この世界の人間でもない。……でも、その事を言っても良いのか解らないの。もう、バレてると思うから言うけど」

 泣きそうな状態で気が緩んだからか、言い出してから涙が零れ始めた。声も震えてるし。

 屈んでいるヴァンが心配そうな表情になる。

「私はかなとこの世界に来たの。かなはこの世界に来て、瞳の色が銀色に変わったわ。かなが『神銀の乙女』だって、周りは言ってるし。女神もかなを呼んだって言ってたわ。……私は何でこの世界に来たのか、女神も解らないって言ってた。……護衛を、つけられているって事を考えたら、違う世界の人間だって言って良い事なのか解らなかったから」

 ぐずぐすと鼻を鳴らしながら、横で屈んでいるヴァンに説明をした。ヴァンは心配そうな表情のまま、静かに聞いていた。



 私は、この世界に来てからの事をヴァンに話した。

 かなとの関係も、女神に教えられたことも。

 でも何故か、あの金色の人の話だけはしなかった。しないほうが良いと思ったから。

 夜の城の庭園で会ったときの、あの時の声が聞こえるような気がした。

 だから、ヴァンには話さなかった。

 きっと、誰かに話すにしても、もっとこの世界の事を知った後だろう。





 大体を話し終えた頃には、私の涙も止まって、ヴァンも心配そうな表情をすることもなくなった。

「大変……だったんだな。なのに、タニアを助けてくれたんだな」

「だって……あれはっ!」

「アキネ、あんたは優しいな」

 ヴァンの宥めるような優しそうな視線に、優しいと言ってくれた言葉に、頬が熱くなる。

 あれは見捨てられなかったからだし、成り行きといえばそうなるし……。面と向かって優しいとか言われたら、照れるじゃないか。

「……わ、私は、話しましたよ。今度はヴァン。貴方がどうしてそんなに、私のことを知りたかったのか教えて下さい。私だけ話すなんて不公平だ」

 そう言った私の顔を見て、ヴァンは至極楽しそうに、悪戯を思いついたような笑顔で言った。

「アキネ、あんたが気に入ったから……じゃ、答にならないか?」

「気に入った……ですか? 私がタニアを助けたから?」

 それ以外、この人に気に入られるような事をした覚えがないし……。

 ヴァンは立ち上がって、私の頭をポンポンと軽く叩いた後、ちょっとだけ撫でた。

「まあ、それ以外にもあるさ。この話はまた今度な。そろそろ時間だ」

 ヴァンが言い終わると同じくらいのタイミングで、ドアがノックされた。

やっとで赤色の説明が出来たー。小動物がでないけどね……なかなか。

なかなかヒロインのかなちゃんの元に戻ってくれないです。主人公。


40話になりました!引き続き頑張っていきます!


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