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第四話

「どう? 面白かったでしょ、あきちゃん。伊勢君すっごい格好良かったでしょ!」

 そう言って、笑うかな。

 かなの部屋にある折り畳み式のテーブルの上には、空っぽになったお酒の缶。おつまみも食べ終わって、開いた袋が三つほどある。

 私はかなの部屋にある、大きめサイズのくまのぬいぐるみをクッション代わりに抱いている。

「うん。やっぱり、演技力すごいねー。格好良かったよね」

「でしょー」

 かなはとても嬉しそうに、相槌をうつ。

 明日は、かなと一緒に街に出て靴を買うんだ。

 今履いている靴もだいぶくたびれてきたし、歩きやすい靴も欲しいし。

 それから……。






 薄っすら瞼をあけると、薄暗かった。

 やわらかい橙色の光が、揺らめいている。


 夜中に、起きちゃったのかな。

 明日は早めに出る予定なのにな。


 起き上がろうと体を動かした瞬間、右腕に激痛が走った。


「っ~~~~~!!」

 痛みに涙が浮かぶ。


 なんで、痛いのんだろうか?


 そう思い、記憶をたどってみる。

 そして、思い至る。

 化け物に噛まれたのだと。


「夢落ちじゃないのか……」

 痛みを我慢しながら、指先を動かしてみる。

 動くようだし、まあ、しばらく支障があるけど治ると思いたい。


「そういえば、かなは?」

 右腕に負担をかけないように、左腕の力だけで起き上がる。


 起き上がって、自分が居るところが何処なのかを考える。


 私はどうも医療関係のような部屋に居るようだ。

 ベッドも壁紙も、清潔感あふれる白みたいだ。

 外は夜なのか、部屋は暗く少し離れたところにある、机の上の燭台の蝋燭の炎が揺れている。

 ベッドを見たとき、ちょうど私の手があった場所にかなが寝ていた。

 椅子に座り、ベッドにもたれかかるようにして寝ていた。


 ああ、心配をかけたんだ。

 そりゃそうか。

 ……心配かけてるのに、なんだか嬉しいぞ、こら。


 なんて不謹慎なことを思いながら、もう一度考える。

 化け物に噛まれた後のことが、思い出せない。


「どうやって助かったんだろ?」

 独り言は勝手に零れた。

「それは私たちが助けたからだよ」

 部屋の窓のほうから、人の声が聞こえた。声からすれば男性のようだった。


 ってか、居るなら起きたとき言え! 独り言って聞かれると恥ずかしいのに! と、心の中で悪態をついてみる。


 窓の外は夜。半月が見える。

 でも、半月にしてはえらく明るい気がする……?

 男性は窓際の机の上にあった燭台を片手に、こちらへと近づいてきた。




「指は動くかい?」

「ええ、まあ、一応動きます」

「そうか。腕が喰いちぎられなくて良かったね」

「……あははは、そうですね」

 男性はなんでもないように、言ってくる。私は愛想笑いで答えてみた。

 そんな、恐ろしいこと想像もしたくないし。


 彼は私が寝ていたベッドの近くにある机の上に、燭台を置いた。

「失礼するよ」

 そう言って男性は立ったまま私の手を、というか手首を取り、脈を計る。

「脈も落ち着いてるみたいだし、もう大丈夫みたいだね」

「あ、はい。……あの、かなは大丈夫なんでしょうか?」

 何も聞かないより、何か知ってそうな人に聞く。当たり前のこと。


「もちろん、彼女は無事だよ。泣き疲れて寝ているだけだね」

 蝋燭に照らされた男性の顔は、目鼻立ちが凄く整っている美人さんでした。

 シャンプーのCMに出れそうなほど、さらさらの綺麗な金髪。日本人だと染めないといけないのに。暗がりに見える、美人さんの髪は染めたような気がしない。

 暗いから、はっきりとしたことはわからないが、男性の目の色が銀色のように見えた。


 うむ、べだすぎるが眼福です。


「あの、良かったら全部説明して欲しいんですけど、構いませんか?」

 この質問に、男性は少し驚いたようだった。

 驚いたのは一瞬で、すぐ穏やかそうな笑顔になった。

 きっと、この笑顔で何人もの女性を虜にしてそうだなーとか、私は頭の隅で思ったり。

「構わないよ」


「ああ、その前に」

 私は再度部屋を見回す。確か、横にもう二組ほどベッドがあったはずだし。

「かなをベッドに運んで頂けますか? このままだと、明日きついだろうから」

「これはこれは、失礼を」

 そう言うと男性はかなを軽々と抱え、隣のベッドに寝かせてくれた。

 きちんと毛布もかけてくれていた。どこか手馴れてる気がしないでもない。

 かなの頬には、うっすらと泣いた痕が残っていた。

 なんだか、すごく申し訳ない気持ちになると同時に、嬉しさもこみあげてきた。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」

 そう言うと男性は、先ほどまでかなが座っていた椅子に腰掛ける。


「そうだね。まずは自己紹介から。私はリディル・リグルド・エステリカ、宜しく」

 女性を虜にしそうな笑顔で、椅子に座ったまま彼は自己紹介をした。

「私は、高木 明音です、宜しくお願いします」

 なんとなく、日本人の性なのか、自己紹介をするとき私は軽く会釈をした。

「カナエ様から聞いていた名前と同じだね」

 自己紹介をして貰っておいてですが、覚えにくい名前ってのが感想だった。


「えっと……」

 はい、一回であの長ったらしい名前を覚えきれませんでした。

「リディルでいいよ」

「リディルさん。カナエ様って……かなのことですか?」

 満面の笑顔でリディルは答える。呼び方に迷っていると勘違いしてくれた。

 ああ、助かった。

 リディルさんは凄い美人さんだし、物腰も柔らかだから確実に人気がある人なんだろうなとか思った。いや、絶対そうだ。きっと、モテモテだ。



「そうだよ。カミタケ・カナエ様。そうだね。まずはそこのあたりからの説明がいいかな」

「そうですね。あの時、えっと……リディルさん……たち? が助けてくれたんですよね。ありがとうございます。……でも、何故あそこまでタイミングよく、あの場に居合わせたのか教えてください」


 いや、あまりにも都合良すぎて、気になります。

 でも、何度も人の名前を間違えそうになって、ごめんなさい。

 怒らないでください。

 美人さんが怒ると恐いって、聞きます。

 滅多に怒らないかなも、怒ると凄い怖いし……。



「私たちはカナエ様、『神銀しんぎんの乙女』を迎えにあの場所に向かっていたんですよ。間に合ったようで、本当によかった」






 ああ、嫌な単語を聞いた。

 光が、TVから強烈な光があふれる前に聞こえた単語。


 『神銀しんぎんの乙女』


 かなが『神銀しんぎんの乙女』


 だから、助かった。

 だから、今ここに居る。

 だから、かなの部屋に居ない。

 夢ならどうか醒めてください。


 ああ、でも右腕がこれだけ痛むんだ。

 現実なんだ。

 認めたくない、現実なんだ。



 うあああ。現実逃避したい!!

主人公が大分こわれ・・・こんな素っ頓狂な性格です。嫌わないでやってください。ぼけ突っ込み、乗り突っ込みするだけです!

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