表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/60

第三十九話

「バンチョウ! おかえりなさい。準備はほぼ整ってます。後は時間が来るのを待つだけですよ」

 木箱のような荷物を両手で抱え、運んでいた中年位の柔和そうな男性が、ヴァンに話しかけた。

「ただいま。忙しい時に悪かったな。ちゃんとタニアを連れて帰ってきた。怪我とかもないようだ」

「そうですか、それは良かった。彼女に何かあれば、今日の予定が大幅に変更になりますからね」

 安堵したような笑顔で、男性はタニアに「おかえり」と言った。タニアも少しだけすまなさそうな表情をした後、笑顔で「ただいま」と返していた。

「ところで、そちらの方は?」

 タニアの横に居た私に、男性は首を傾げた。

「あ、あの、こんにちは」

 私は頭を軽く下げる会釈をしながら、男性に向かって挨拶をした。

「ああ、彼女はタニアの恩人だ」

「タニアの……。そうですか。タニアを助けていただき、ありがとうございます。キャラバン一同、貴方を歓迎致します。どうぞ、ごゆっくり楽しんでいってください」

 男性は少しだけ驚いたような表情をした後、凄く優しそうな笑顔で歓迎すると言ってくれた。

 男性は荷物を持ったままだったため、握手などはしなかったが、気持ちはよく伝わってきた気がする。

「あの、宜しくお願いします」

 なんだかよく解らない返事をしたと、私は後で思った。

「さて、俺は部屋に戻る。何かあれば呼べ」

「わかりました。タニアは急いで衣装合わせをしてきてくれ」

 ヴァンはそう言うと、さっさとテントの方へと歩いて行った。

 荷物を持った男性も、タニアに支持を出すと、挨拶をしてどこかへ行ってしまった。



「それじゃあ、私も自分の仕事がありますので。アキネさん。もし、宜しければ私の仕事が終わった後になりますが、食事でもご一緒にいかがでしょうか?」

 美女に、ってかタニアに夜の食事のお誘いを受けました!

 美女からの食事のお誘い……。もし私が男性なら、小躍りするくらい嬉しいだろうな。でも私は女性、私はノーマル。でも、食事のお誘いは魅力的。

 とはいえども、まだ決定できる段階というわけじゃない。

 何故なら私は迷子だ!

「あ、えーっと……。その、嬉しいんだけど、はっきりとした返事ができないや。連れを探さないと」

「それなら大丈夫です。ちょっと公私混同してしまいますが、私たちの仕事が役に立ちます。下手に人混みで探すよりも、ここで待ってください。私たちが手伝いますから。どうか少しでも、恩返しををさせて下さい。貴方の力になりたいんです」

 こうまで言われては、断るすべもない。好意から言ってくれているようだし。

「その……じゃあ、お願いします」

「はい! 任せてください!」

 タニアは女性でも絆されそうな、とても綺麗な笑顔で嬉しそうに返事をした。

 別に、私はノーマルなんだけど、ちょっと……頬が、熱くなった気がする。



「でも、アキネさんにも見てもらいたいから、私と一緒に来るとバレちゃうし、他の場所も忙しいだろうし……」

 タニアは何かを考えながら、ぶつぶつと呟いていた。

「そうだ! バンチョウのところで待ってもらえば」

 何かを思いついたようだ。少し大きな声で、一人で納得したように言った。

 タニアは衣装合わせに行かなければいけないはず。男性に急いでとも、言われてた気がする。行かなくていいのかな……? タニアさーん……?

「アキネさん。バンチョウのところで、時間になるまで待って頂いても良いですか!」

 タニアは迫りながら言ってきた。その迫力は、聞いていながら拒否させない勢いがあった。

 迫力に負けました……。

 まあ、どうするか決まってないから別にいいのですけど。

「あ、は、はい。わかりました」

「じゃあ、バンチョウの部屋に案内します。こっちです」

 そう言いながら、タニアは私の手を引っ張りながら歩き始めた。

 タニアに引かれるまま歩いて行くと、広場の隅の方にある三階建ての木造の家に入った。





 三階建ての木造の家。TVなどで出てくるログハウスのような建物。広場から見える外見より奥行きがあるのか、中は思ったよりも広かった。

 どうやらこの建物は宿屋のようで、一階は酒場兼食堂のようになっていた。

 入口の正面に酒場のカウンターがあり、そこには髭を蓄えた五十くらいのがたいの良い男性が立っていた。男性は仕込みをしているのか、カウンターと奥の厨房を頻繁に行ったり来たりしていた。

 男性は宿に入ってきた私たちを見ると、にっこりと笑顔を作った。

「おかえり、タニアさん。時間に間に合ったようで、本当によかったよ」

「ただいま。ご心配をお掛けしました。バンチョウは部屋に?」

 にこやかにタニアは、男性と受け答えをする。

 なんだろう、今酒場のオヤジと世間話をする。みたいなコマンドを選択した気分だ。いや、RPGじゃないんだけどね。

 酒場のオヤジ、思ったより愛嬌のある笑顔だ。黙ってると厳つい感じがするんだけどねぇ。髭のせい?

「ああ。先程上がっていった。多分まで居るだろう」

「ありがとう」

 タニアと話していた男性、もとい酒場のオヤジと私の視線があった。

 私と視線があったオヤジは、再度にっこりと笑顔を振りまいた。

「お客さんかい?」

「え……っと、その……」

 酒場のオヤジのお客=泊まり客、ないしは食客。

 残念。私はどちらにも今は該当しない。用事もないのに入ってきたのかって、怒られたりしないよね?

「キャラバンのお客様よ。今からバンチョウのところに案内する予定なの。よかったら、何かお勧めの飲み物でも、後で持って行ってくれると助かるんだけど」

 美人さん(タニア)に微笑みながら言われたら、男なら誰でも言うことを聞きそうだなぁ。

「そうかい、キャラバンのお客様か。分かった、とっておきのを後で持って行こう。お嬢さん、ゆっくりしていってくれ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 うーん。オヤジってば、愛嬌のある笑顔だ。

 しかし、私ってば……二十超えてるんだけど、お嬢さんって……。

「それじゃあ」

 そう言って、タニアは私を連れて三階へと階段を上がって行った。



 


 コンコンッ


「誰だ?」

「タニアです。アキネさんもご一緒です。入っても良いですか?」

 丁寧なノックをした後、部屋の中からヴァンの声が聞こえてきた。

 部屋の中で歩くような音がした後、ガチャリとヴァンが中からドアを開いた。

「どうしたんだ? まあ、立ち話もなんだ、入れ」

 そう言って、ヴァンはタニアと私を部屋へと招き入れた。



 部屋の中は八畳くらいありそうな部屋で、窓から広場を一望できた。また、広場のステージ台がとても良く見える位置だった。

「それで、どうしたんだ?」

 ヴァンは部屋の中央にある丸テーブルとセットの椅子に腰をかけ、私とタニアを見た。

 丸テーブルの上には事務処理でもしていたのか、書類のような紙が何枚かに羽ペンとインクボトル。ファイルのようなものまで、机の上に置いてあった。

「時間まで、ここでアキネさんに時間を潰して頂こうかと思って。他の人達は忙しいだろうし、私と一緒だったら、何をするか分かっちゃうから。驚いてもらいたくて」

「アキネに見て貰いたい、ということか?」

 ヴァンの質問にタニアはとても嬉しそうな笑顔で、「はい」と答えた。

「……わかった。まあ、見ての通り何も無い部屋だが、寛いでくれ」

 ヴァンがそう言って、私に笑いかけたような気がする。

 気がするというのは、ヴァンが部屋の中なのにまだサングラスをかけているからだ。

 サングラスかけたまま、事務処理とかできないでしょうに……。外したくない理由でもあるのかな?

「それじゃあ、アキネさん。また後で。楽しみにしていて下さいね」

 ヴァンと話がついたタニアは私に向き直り、挨拶をすると部屋から出ていってしまった。

 衣装合わせがあるんだっけ。

 遅くなったって、怒られなければいいんだけど……。


 

 タニアが部屋から出ていって、ヴァンと二人部屋に残された。

 気づけば、部屋にヴァンと二人っきりか。

 よくよく考えると、男性と部屋に二人っきりって、あまりないシチュエーションです。

 私たちの居た世界じゃ、私は男友達とは大体三人ないしは四人などで居て、二人っきりで居るということはなかったし。ましてや、部屋に男性と二人っきりって……何気に私、そんなの初めてじゃない!?

 ってか、何話せばいいんだろうか。さっぱりです。

 私たちの居た世界じゃ、友達の話やゲームの話、世情の話など色々共通の話題があったけど、私この世界のこと何も知らないから、共通の話題とか思い浮かばないや……。

「……二人っきりだな」

 ヴァンが椅子に座ったまま、ポツリと呟いた。

 部屋には私とヴァンの二人だけだから、よく聞こえた。

「まあ、座れ。タニアの恩人に何もしやしない。安心しろ」

 立ったままで近づかない私に、ヴァンは苦笑いをするかのように言った。

「あ、はい」

 私は言われるまま、ヴァンと対面の椅子に腰掛けた。


 

 サングラスをかけたままのヴァン。

 手には先程まで見ていただろう書類を持っているが、目を通すような仕草はなく、じっと正面に座った私を見ている。

 って、何で私をじっと見るんですか?!

「あの、何か……?」

 自分から真正面に座っておきながら、自分はヴァンをジロジロ観察していながら、自分が観察されているようなのは落ち着かない。なんとも理不尽です。私。

 落ち着かないので、つい言葉に出しちゃいました。

 ヴァンはそれがわかったのか、口の端を少し上げて、笑ったような気がする。

「いや、実は少し楽しみだったんだ」

 楽しそうな声音のヴァン。機嫌が良さそうですね。

「何がですか?」

「アキネ、あんたと話をするのがだ」

「……はぁ? 私と話をするのが……ですか?」

「そうだ」

 ヴァンの言葉が理解できずに、私は呆けた返事しか返せなかった。

 私の呆けたような返事に、ヴァンは楽しそうに答えた。



 ヴァンは答えた後、会ってからずっとかけていたサングラスを外した。

ヴァンとタニアちゃんが出ずっぱりです。そのくせヒロインだろうかなちゃんがずっと出てません……。主人公はヒーローの予定。多分。

ところで、白い生き物は何処で出てくるんだろう。出てから、あまり目立ってないぜ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ