第三十八話
ヴァンが先頭に立ち、表通りを目指して歩き始めた。
私とタニアは、ヴァンの後ろに続いて歩いた。
タニアは行き止まりの場所から移動する前に、ヴァンに渡された帽子を被った。
ヴァンが渡した帽子には明るい茶色のつけ毛が付いていた。タニアは赤い綺麗な髪を帽子の中に全て入れた。そうすると、帽子のつけ毛が自毛のように見えた。
どうして髪の毛を全部入れるのか聞くと、目立つからとタニアは笑いながら答えてくれた。
タニアにさっき何がそんなに嬉しかったのか聞こうとしたら、前を歩くヴァンに話しかけられた。
「アキネ。それとも、タカギと呼んだほうがいいか? こっちほうでは珍しい名前だな。どこから来たんだ? それと、連れってのはどんな奴なんだ?」
「明音で構いません。高木は苗字……家名なので。連れは……」
説明をしながら、出来る限りフィンのことを思い出す。
フィン……フィンなんだっけ……。名前ははっきりは思い出せないけれど、家名はサティの息子だからラシーヌ。フィンなんとか・ラシーヌ。
髪の毛の色が、サティよりちょっとだけ濃い夏の青空のような青い髪。フーガよりかは淡い色合いだった気がする。肌はサティと同じ、健康そうな小麦色。目は見慣れた黒色だった気がする。
身長は、クラウより高くて今眼の前に居るヴァンと同じくらいかな? この世界の男性って、身長高い人多いね。というか、周りが低かっただけなのかな?
格好は兵士より随分立派な鎧を着ていたから、騎士とかそんなとこだろうか? 確か、ア……なんとかって将軍の部下。
サティ自慢の息子さん。
人懐っこい笑顔をするけど、多分二十前後じゃないかと思う。
「名前が……フィン。二十前後の青髪の男性で、背丈はヴァンさんと同じくらいかな。騎士なんだと思います。立派そうな鎧を着てたし。……それと、私はフィンさんとお城から来ました」
どこまで言っていいのかよく解らなかったが、まあこれくらいなら大丈夫でしょ。
フィンと合流できなければ城への道を教えてもらって、一人でもなんとか戻れるようにしないと。
もっとも、城下町から城までの道に魔物とか居なければなんだけどね。
「呼び捨てでいい。アキネは城から来たのか。じゃあ、城勤めをしているのか?」
ヴァンの質問に、私は首を横に振った。城勤めをしているわけではないから。
「……連れは騎士だと思う、か。アキネは貴族なのか?」
貴族でもないので、再び首を横に振って否定した。
ヴァンは私が首を振って否定すると、歩くのを止めて考えるように立ち止まって、首を少し傾げた。
前を歩いていたヴァンが止まったので、私もタニアも足を止めることになった。
振り返ったヴァンは、私を見ながら質問を続けた。
「貴族でも、城勤めでもない者がお城から来たと言う。アキネ……あんた一体何者なんだ?」
ヴァンの質問に、今度は私が首を傾げる番となった。
サングラスで目は隠れて見えないが、ヴァンから威圧感のようなものを感じた。
何者かと問われてもどう答えればいいのか、よく解らない。
異世界から来たと言って、信じてもらえるのやら……。
しかし、それ以外に説明の仕様がない。
もしこれが、かなだったら『神銀の乙女』ということで信じてもらえたかもしれない。
でも、私は『神銀の乙女』でもなければ、異世界に来てしまった理由もわからない状態。
それに、「異世界から来ました」なんて勝手に言っても良い事なのだろうか……?
かなも私もこちらの世界に来て、ずっと護衛を付けられている。護衛を付けるというからには何かしら危険があるということだ。
危険といえば、この世界に来たばかりの時に危害を加えてきた凶暴な生物。魔物。
魔物の驚異からの護衛と考えるならば、城の中でまで護衛を付ける意味が解らない。城を外敵から守るために、兵士達が警護をしているはずだから。だとすると、魔物以外の驚異からの護衛と考えることが出来る。
魔物以外からの驚異。それは人から危害を加えられるかもしれないということなんだろう。
でも、私もかなもこの世界に来たのはつい先日前。そんな短期間で恨みを買ったりした覚えはない。
だとすると過去の事例があるということから、異世界から来たから危険なのか、『神銀の乙女』だから危険なのか。そもそも何故危険なのか、それすらも今はまだ解らない。
もし、異世界から来たから危険ならば私もかなも危険となる。
そして、私はその護衛としての同行者であるフィンと、今は逸れている。
この状況で、今知り合ったばかりの人に私の事情を話しても問題ない事なのか、解らない。
どうするべきか……。
「あの……えっと……その……」
何と言えばいいか解らず、私の視線はヴァンを直視できずにさ迷った。
誤魔化すにしても話題を逸らすにしても、いい言葉が思い浮かばず、「あの」や「その」といった言葉しか私の口からは出てこなかった。
そんな状態の私を見かねたのか、ヴァンが私の肩に手を置いて言ってきた。
「悪かった。知り合ったばかりの相手には、言えないことだってあるよな。この話はこれでお終いだ」
ヴァンはそう言うと、口の端をにっと釣り上げるようにして笑った。
その笑顔に釣られるように、私は安堵した。
答えても良いのかどうかも解らない事を聞かれると、困る。
タニアもだけど、ヴァンも良い人そうだし。
できる事なら、つかなくていい嘘はつきたくはない。
何処をどう行ったのか記憶できないくらい、複雑に入り組んだ裏路地を何度も曲がり、やっとで表通りへと出た。
「よく、道を覚えられますね……」
私は前を歩いているヴァンの後ろ姿に向かって呟いた。
「まあ、何度か来たことあるからな。ここから人が多くなるから、逸れるなよ」
確かにヴァンの言う通り、表通りは裏通りと比べると圧倒的に人が多い。表通りは広く、たくさんの人が行き交っている。
人混みに紛れると逸れてしまいそうな、人の多さだ。
少しだけ私が人の多さに圧倒されていると、横にいるタニアが私の手を握ってきた。
タニアを見ると、慈しむような優しい笑顔で、まるで大丈夫ですよと言っているようだった。
人混みの中を掻き分けるようにヴァンが前を進み、タニアが手を繋いで一緒に歩いていく。
大通りの左右を露店が立ち並び、暫く歩いて行くと広場のような場所に出た。
そこは何かのステージのように、舞台となる段が設けてあった。
広場の左右には、大きめのテントのようなものが数個ほど建っていた。
「ようこそ、俺達のキャラバンへ。アキネ、心より歓迎する。楽しんで行ってくれ」
ヴァンは広場を前に、振り返ると笑顔で言った。
難産な上に、進んでない気がする。本当はもう少し先を書きたかったのに……。
しかも、予定より少し遅れての投稿。いかんですね。
次こそは早く更新出来るよう頑張りたい!
ついでに、タニアはノーマルです。