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第三十四話

「ところで…どうして、私の力になろうと思ったんですか? 私……一昨日貴方に会ったばかりですし、あの時くらいしか話してもないし……協力してくれる理由がわかりません」

 目の前の彼は私の質問に答えてくれる。

 私がこの世界で何をするべきかは、目の前の彼の話を聞いて決めたようなもの。

 目の前の人離れした美貌を持つ彼は、神出鬼没。

 一昨日は話をしている途中で、少し視線を外しただけでその場から消えるようにして居なくなった。

 先程は、誰も居なかった行き止まりとなっている場所に突如現れた。

 それに、こちらの……人の心が解ると言うし。

 私が心の中で思ったことに、そのまま受け答えしているような会話もされてしまったし。

 そんな彼は、私の力になりにきたと言って、二人っきりで話すため私をフィンと逸れさせたらしい。

 街を観光する前に、フィンに術を掛けてもらったから場所は解るはずなのに、フィンは未だに現れないから、何らかの力が働いているのか、術が解けたか。

 その原因を作った犯人が目の前の彼なのかという、その発言には肯定の意を示したし。

 兎に角、目の前の彼は謎過ぎる。


 そんな、目の前の人離れをした美貌を持つ謎過ぎる彼が、私に協力する理由が全然思い当たらない。


 別段、私はずば抜けて可愛いわけでも、綺麗なわけでもない。極々ありふれたような顔だし。かなみたいに『神銀の乙女』などという、役割も力もない。

 何も無い。

 ただの異世界に迷い込んだ一般人。

 そんな、何の力もない特別魅力的でもない私に、なんでこんな高嶺の花のような人物が協力したがるのか。その理由が知りたい。

 ……もっとも、知ったところで何も出来ないだろうけど。

 それでも彼が協力したがる理由が解れば、彼から教えられる情報の信頼度が違う気がする。

 だから、聞いてみた。これを聞く前に、さっき最後の質問とか言っちゃったけど……。


「……そうだね、単純に興味がある。この世界にとって君は異分子だ。かなちゃんはこの世界の女神に呼ばれたから、異分子じゃない。でも、君は違う。異分子となった、たった一人の人間に何か出来るのか。興味が湧いたから、協力してみるのも一興かなって」

 ああ、彼が私に協力するのは暇つぶし……なのか?

 そう思って、彼の真意を探ろうと相手の目を見ていると、先程まで笑顔だった表情が凍てつくような無表情に変化した。

 私はそれを見た瞬間、一瞬だが背筋が凍るような錯覚に陥る。

「こう答えれば、君は満足するのかな?」

 私はその言葉を聞いて、どんな表情をしていたのだろうか?

「……わ、私は……」

 上手く頭が回らず(まあ、元々賢いほうじゃないし)、彼が最後に言った言葉を何度も考えてみた。

 私が考えている間、彼は黙って無表情のまま、そこに立っていた。

 考えるのを待っていてくれるように。


 数分くらい時間が経ったような気がする。

 その間も、彼は黙って私がしゃべりだすのを待っていてくれた。

 

  

「そうかもしれない。私は善意で協力してるって言われるよりも、個人的な思惑で、個人的な利益の上で私に協力しているって……そう言われたほうが、納得出来たんだと思う。そう言われたほうが、安心できたんだろうと思う」

 高嶺の花のような、人離れした美貌の彼が私に好意を持って接するなんて、無い。

 自分を卑下しているわけじゃないけれども、どう考えても目の前の彼が私に惚れるなどという要素が思い浮かばない。

 だから、彼は彼自身の利益のために、私に協力しているんだと言われたほうが、私も遠慮なく彼の力を借りることが出来る。

 もし私が彼を利用するようなことになっても、お互い様だと言い訳が立つからだと思い至った。

「安心していいよ。こっちにも目的があるわけだから。慰めとかじゃないからね」

 彼はそう言って、慈しむような優しい微笑を浮かべた。その笑顔は、私が姉妹とはしゃいでたときの父の笑顔に似ているな、と思った。

 慰めじゃないと言った彼の言葉。それでも、なんだか癒された。




「もうそろそろ……時間かな?」

 彼はそう言いながら、狭い裏路地から空を見上げた。その顔からは先程までの慈しむような微笑は消え失せ、何も感じてないような無表情だった。

 私も彼と同じように空を見上げてみた。

 裏路地から見える空は、心なしかどんよりしているように感じる。例え、青空だったとしても。

 少しだけ眺めた後、彼に視線を戻し聞いてみた。

「さっき大丈夫って言ったけど、何処に行けばフィンと会えるの?」

 話の途中で、彼は何でもないように「大丈夫だよ。ちゃんと会える」と私に言った。きっとあれはフィンと会えると言っていたんだと思う。

 その時は深く突っ込んで聞いたりしなかったけれども、会えると言われても、何処に行けばいいのだか。だって、私ってば迷いこんで裏路地に来ちゃったんだし。戻り道など解らないわけで。

「大丈夫。君は人の好意に甘えればいいんだ」

 彼は時々何が何だかさっぱりなことを言う。……時々ではなく、度々の気もするが。

「……まあ、会えるってことね。会えなかったら、今度会ったとき覚悟しておいてね」

「分かった。覚悟しておこう。それじゃあ」

 そう言って彼は空を見上げていた視線を私に移し、近づいてきた。

 彼は先程立っていた場所よりも、少し距離を詰め、右手を差し出してきた。

 それは握手を求めるような感じだったので、別れの挨拶だろうと思い、私も片手を伸ばした。

 あんまり、握手なんてしたことないけど、とか思いながら。



 この後の彼の行動は、後で思い出しても全く理解し難い行動だった。


 

 彼は私の手を握ると、強めの力で引っ張ってきた。

 私は握手をするだけだろうと全くの無警戒だったため、力に逆らうこともなく引っ張られた方向によろけた。引っ張ったのは彼で、引っ張られた方向も彼の方だった。そのため、倒れ込むような姿勢になった。

 自分の意志よりも早く、体は勝手に反応した。倒れ込んだりする前に、足を一歩だし踏ん張る。手もバランスを取るために反射的に少し上がる。

 彼に倒れ込むことはなく、彼と私の距離がさらに詰まっただけに留まった。

 バランスの崩れた姿勢を戻し、私は少しほっとして思い出したように反論のため、顔を上げた。

「ちょっとな……」

 私はそれ以上言葉を続けることが、出来なかった。


 顔を上げた私の頬に、彼の握手をしていない左手が添えられ、反対の頬に何かが触れた。

 頬に何か触れた側の目には物凄く整った顔が見え、反対の左手が添えられた側の目には緩やかなウェーブを描いた金色の髪が揺れた。

 頬に添えられた左手も、頬に触れた何かも、直ぐに離れていった。それと同時に、抱き合える程近距離になった彼が、私から体を離すように握手していた手を離し一歩後退した。

 握手をするように手を伸ばしてきた時と同じような距離となった、私と彼。

  

 目の前の御仁は何をしやがった。

 今のは何だ……。

 状況的に考えると……頬に……キスをした?


 私は驚愕するような、呆然とするようなきっとなんとも間抜けな表情だったんだと思う。

「そうだよ。これは僕からの祝福だよ」

 彼は、名前も教えてくれない彼はそう言って、どこか面白そうに笑顔を私に向けてきた。

 とたんに頬に、顔に、頭に血が上るようにカッと熱くなった。


 反論したいのに、声は言葉にならず、口をパクパクさせるだけだった。

「それじゃあ、またね」

 驚愕したままの私を置いて、彼は私の横を通って行き止まりの場所から居なくなった。


 



 一人残された私は、混乱していた。



 そりゃそうでしょ。

 人離れしたような美貌を持ってる人がよ、平々凡々な私に、なんで頬にキスなど……。

 別に……ファーストキスがどうこう言うような年代は過ぎたつもりだ(したことはないけど)。だけども、今のは何だ……?

 嬉しいとかや恥ずかしいなどといったそんな感情は一切沸かなかったが、代わりに沸いたものがある。

「してやられた」

 なんだか、凄い敗北感のようなものが沸いた。




 彼のことは今後、セクハラと呼ぶことにするか……?

 怒られそうな気がする。止めておこう。



 私は一人裏路地に残されたまま、深々と溜め息を吐いた。

恋愛…恋愛?金色の人動かしやすいですが、一人称をどうするかかなり迷いました。「僕」も「私」もありだと思うとどっちがいいかなって、迷いますよね。

少し、小説の書き方に習って空白や「…」の使い方を修正してみました。他の各話も修正中です。改稿多くてすみません。

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