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第三話

若干グロテスクな表現があります。ご注意下さい。

 かな様子に私は驚いた。


 大きな変化ではない。

 でも、驚くような変化。


 ぶっちゃけありえないでしょ?


 かなも私も日本人だし、かなの両親も私の両親もまぎれもなく日本人だ。

 そんなかなの目の色が変わっていた。


 日本人にはありえない色に。

 かながカラーコンタクトを買ったという話も、使っているという話も聞いていない。

 何より、瞼の裏を指すほどの光が溢れ気絶する前のかなは、こげ茶の瞳だったし。


 そのこげ茶の瞳が銀色に変化していた。


「か、かな……? その目、どうしたの?」

「え? 何? 目が……何?」

「えっと、鏡、鏡は」


 もちろん、周りを見回してもかなの部屋じゃないので鏡などない。

「でも……鏡になるようなものはなさそうだし……」

 石造りの祭壇は雨風にさらされてるせいか、ところどころに苔や草が生えていて、鏡になるようなものは見当たらなかった。


 見回していて、祭壇の周りにある茂みがふと目に入った。気のせいかもしれないが、その茂みが動いているような気がした。

「ねえ、かな」

「なに? あきちゃん。鏡、見つかったの?」

 動いたような気がする茂みに注意を払いながら、さっと回りも警戒してみる。素人の私が解るかは甚だ疑問だが、警戒しないよりはいいかと言う程度に。


 ああ、べただけど、とても嫌な予感。

 問題は、この後もべたな展開に期待するしかないのですが。

 世の中そう、上手くいくといいんだけど、とか思ってみる。


「あそこ……何か……居そうじゃない?」

「え?」

 そう言って、私が指差している茂みをかなが見る。


 ガサッ


 どうか、小さい子猫とかでありますように。


「な、何か……いるね……あきちゃん」

「うん……こ、子猫かな……?」

「だ、だったらいいよね……?」


 ああ、神様。どうか、子猫をお願いします。

 どうか、子猫でお願いします。

 化物以外をお願いします。


 ガササッ


「「 !! 」」


 かなと身を寄せ合い、茂みから出てくるだろう何かに恐怖を抱く。

 恐怖を抱きながら見ていた先から出てきたのは、子猫っぽい小さな可愛い生き物だった。



「ぇ……? 子猫?」

「うわ、可愛い~」

 ちょっと猫よりかは耳が長く、兎ほど長くもない程度の耳。

 あまり、猫に詳しくはないけど、こんな種類の猫はTVでも見たことがない気がする。


「あきちゃん、子猫、可愛いよー」

 そう言いながら、かなは子猫を触りに行こうとしていた。


 気づいてしまった。


 それが子猫みたいでも、子猫ではないこと。


 子猫から少し視線を上にあげた先。茂みの奥に先ほどまでいなかった、子猫を凶暴にしたような、大型犬くらいのサイズの生き物がそこに居た。


「かな! 駄目!!」

 叫ぶと同時に、大型犬サイズの生き物が動いた気がした。


 漫画や小説でゆっくりに見えるというのは、こういうことだろうか?

 かなに襲いかかってくる大型犬サイズの生き物の動きが、スローモーションのように見える。


 無我夢中で、私はかなの手を力の限り引っ張る。

 かなは呆然として、よろける様に私に引っ張られるままに、後退りした。


 神様、神様、神様。

 助けてください。

 私たちを、助けてください。

 かなを、助けてください。

 神様!!



 何も考えられなかった。

 ただ、引き寄せたかなを守るように腕に抱きこんだ。


 スローモーションのように見える。

 大型犬サイズの凶暴な生き物の、鋭利な牙。大きな顎。

 それが私たちに向かって、開かれる。


 恐いんだから、目を閉じればよかった。

 そうすれば、見なくてすんだのに。


 自分の腕に噛み付かれたところを。

 見なくてすんだのに。

 怖いのは嫌い。 

 痛いのは、もっと嫌い。


「いやああああああ! あきちゃん!!」


 かなの叫び声がした。

 引いたら喰い千切られる。

 私は反射的に、化け物に体当たりをかましていた。

 化け物は予想外の反撃に、噛み付いた腕を離してしまった。


 牙が外れると、勢い良く血が吹き出る。

 ぼたぼたと零れる。

 体当たりをしたときに崩れた体勢を立て直し、化け物を見ると。


 化け物は首がなく、首があった場所からぼたぼたとどす黒い血を辺りに撒き散らしていた。


「なんとか間に合ったようだな」


 そんな声が後ろから聞こえた気がする。

 噛み付かれた腕からは、血がどくどく流れ出る。

 徐々に私の腕の下に、血溜まりができ始めていた。


「あきちゃん! あきちゃん!!」

 かなは泣き声のような、叫び声をあげている。


 でも、それすら耳に届かない。

 あまりに痛いと、痛いと認識することすら困難なんだろう。

 頭が真っ白で、何も考えられない。


 後ろから声をかけてきた人物が近づいてくる。

 でも、視界に入っても何もわからない。


「あきちゃんを! あきちゃを助けて!! 助けてください!!」

 かなが化け物を倒したであろう人物に向かって、泣き叫ぶ。

 かなは、血をぼたぼた流す私に触れていいのか解らず、駆け寄っても手を出せずにいた。


 直ぐ近くで、かなが泣いている。叫んでいるのに。

 私は何も答えられない。考えられないでいる。


「これは……腕を。すぐに止血を」

 化け物を倒したであろう人物は、男性のようだった。



 助かったの……?

 ああ、もう……大丈夫なんだ……?



 そう思った瞬間、世界が暗転した。

 地面が無くなったような、浮遊感。

 暗転していく世界の中で、かなの声だけが響く。

 かなの、悲痛な叫びが響く。

 




 神様、神様、神様。

 助けてくれてありがとう。

 でも、もっと早く助けてください。



 


 暗転した世界で私は、神様に抗議する夢を見ていた。

ちょっとスプラッタ。

主人公が百合になりかけ。でもノーマルです。

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