第二十九話
よもや…ここまで体が年を取っているとは…。
日頃の運動って大切ですね。
一作日にした馬での遠乗り。あれの筋肉痛が来ました!
来て欲しくはなかったんだけどなぁ…。
歩けないほどでもなので、サティにお願いしてこの世界の湿布みたいなものを処方してもらいました。
流石に、今日は『聖帝の祭日』のため城中の人が朝からずっとてんてこ舞いの様子。それに、この程度なら魔法に頼らずに治すのが普通らしいので。
まあ、筋肉痛は私たちの世界でも湿布などを貼って凌ぐのが普通だし問題はない。
もし、問題があるとしたら今日は一日痛みのせいで走れそうにないということ。
うん。まあ、問題はないだろう。
かなは・・・普段休みの日にスポーツクラブとかに行ってたらしく、筋肉痛にはなってないそうで。
羨ましい。
薬を処方してもらい、朝食も済ませ、衣服も女神にお会いする上で失礼のないような上質なこの国の正装のようなものに着替え、後は女神との会合の時間を待つだけになった。
女神との会合の場所は、城の一番上に位置するゲームなどに出てきそうな神殿のような荘厳な雰囲気の広間だった。天井近くのステンドガラスがとても綺麗です。
とは言えども、さすがに厳粛な雰囲気に雑談をするのは気が引けて、黙っているとじわじわと緊張が登ってくる感じだった。
かなも少し強張った表情だった。きっと、かなも緊張しているんだろう。
何事も無く、平穏無事に家に返して貰えれば良いのだが・・・そうはならないだろう。
昨日の講義で勉強した通りに、巡礼の旅みたいなのをしないといけないのだろう。多分。
広間には私とかなの他に、『神銀の乙女』が四人『神銀の騎士』が六人、スニクス国の騎士の多分将軍あたりの人が三人に王子エルサレムが居た。
この場に全員が集まったのだろう、エリーディーン女王が広間に入って来ると小声で交わされていた会話は無くなり、広間は沈黙に包まれた。
広間の最奥にある少し変わった十字架のようなオブジェクトの前で、女王が『聖帝の祭日』の口上を述べ、締めくくりに女神への感謝の言葉を言った。
最後の女神への感謝の言葉には、私とかな以外の全員が復唱した。
復唱が終わると、女王の手から光の玉が生まれた。
光の玉は天井に向かって浮上し、天井を突き抜けて私たちの視界から消えていった。
少しして鐘の音がガランゴロンと響いてきた。
きっと、この鐘の音が祭りの始まりなのだろう。
鐘が響き終わると、女王とリディルとフーガ、クラウ以外は広間から出て行き、私とかなを含める6人が広間に残った。
私とかなが所在なさ気にしていると、リディルがいつもの笑顔で教えてくれた。
「今から、待望の女神イシュタリア様と会合になります」
うう…緊張します…。どうなるんだか…。
「…ところで、どうして他の人達は出ていかれたんですか?」
かながリディルに質問をした。
確かに、女神との会合なら他の『神銀の乙女』や『神銀の騎士』が残ってもいいはず。
だが、この場には『神銀の騎士』であるリディルとフーガ、クラウの三人だけしか残らなかった。また、王子も広間から出て行ったし…。
「『神銀の乙女』も『神銀の騎士』も女神との会合に立ち会うことは許されてないのですよ。女神が直接国王に命令を下したその時にだけ、会合の場に立ち会える」
そう言ったリディルの表情はなにかこう、憂いを帯びてるとでも言うような感じだった。
…でも女神から神託が降りるとか…なんとか言ってませんでした?
私とかながリディルの説明に不思議そうに首を傾げていると、女王が教えてくれた。
「国王とは女神からの命令を賜る者。『神銀の乙女』は女神の声を聴く者。『神銀の騎士』は女神の剣となり盾となる者」
「じゃあ、それ以外の人は?」
今の説明でつい、疑問になったことを聞いてしまった。
一瞬だけ女王は目を大きく開いたように、でも直ぐ微笑を浮かべた。
「民は女神の手足となりこの世界を潤す者」
「・・・そう・・・なんですか」
私はそれを聞いて、何も言えなくなった。
何も言えなくなり、視線自然と下を向いた。
…なんでだろか、私って穿った見方をし過ぎなのかな…。
女王はこんなに誇らしく、女神のことを教えてくれる。
リディルだって…女神に関しては全てが真剣だし。
クラウもフーガも、サティやマリーンも…皆女神を敬愛しているような感じだし。
話だけを聞いてると、女神は良い神にしか聞こえない。
まあ、寧ろかなと私を召喚した神が邪神様とか考えるのが、どうかしてるのかもしれない…。
…多分、邪神だと思って女神を悪者にしたかっただけなんだろう・・・私は。
なんて、浅ましい人間・・・なんだろか、私は。
私は内心だけで苦笑する。
顔に出てなければいいのだが。
「どうしたの?」とか聞かれたところで、答えられるはずもないから…。
「御見えになられた」
フーガが十字架のようなオブジェクトの方を向いて言った後、オブジェクトに向かって騎士の礼をとった。
リディルもクラウも同じように騎士の礼を。
女王は頭を下げる会釈に留まった。
私もかなもどうすればいいのか解らず、棒立ちしていた。
「待たせてしまいましたね、エリーディーンも騎士たちも面をあげて頂戴」
ふんわりとした、というような表現が合いそうな綺麗な声が聞こえてきた。
綺麗な声は、直接頭に響いてるような錯覚を起こすような声だった。
オブジェクトが光ったのか、眩い光が広間を照らした。
かなも私もそれを直接見てしまったせいで、暫く目が霞んだ。
視界が元に戻った頃、オブジェクトの前にホログラム映像のような半透明の女性の姿があった。
私は唖然とその女性を見ていた。
女性は半透明だけど、その色彩はよく解った。
形容すべき色は銀色。
彼女が女神イシュタリアなのだろう。
「あながたカナエですね」
半透明の女性はふわりとかなの直ぐ目の前まで近寄ってきた。
幽霊と言ったら失礼だけれども、でも彼女は宙に浮いているようだった。
目の前まで来た女性を、かなはずっと見ていた。
その様子はどこか変だった。
唖然としているように見ているわけじゃない。
かなのその表情がなんなのか、かなが発した一言で理解した。
「お母さん…?」
かなは、女神だと思われる半透明の女性を見ながら、そう呟いた。
かなは「お母さん」と呟いた。
でも、かなのお母さんは・・・。
かなのお母さんはかなが専門学生になった年に亡くなった。
私も通夜には参加したし、その後のかなやかなの父親の様子もみている。
なのに、かなは今、目の前の女性に向かって「お母さん」と言ったのだ。
かなの目の前に居る半透明の女性は、かなのお母さんに似てなどいないのに。
やっとで女神様が出てきました。主人公、緊張のあまりマイナス思考に突入です。
自分に言い訳をしながら、精神的なものの安定をはかる子ですね。
拙い文章で長くなると思いますが、宜しければお付き合い下さい!