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第十八話

クラウにエスコートされるかなを追いかけるて、着いた先は大きな両開きの扉。

「『神銀の乙女』カナエ様をお連れ致しました!」

大きな両開きの扉の前に着いたクラウは、エスコートしていたかなの手を少しの間離した後、離した手を胸に当て大きな声で扉に向かって言った。というか、叫んだ。

声が浸透した後、扉がゴゴゴって音を立てながら開いていくような錯覚に陥った。

実際はギィという程度の音だけでしたが。

扉が開くと、再びクラウはかなをエスコートする体勢に入り、かなの手を取る。


部屋は・・・部屋というより、大広間というべきか。

開かれた扉の先はとても広く、中央にお決まりの長ったらしい机。その上には豪華そうな食事。

かなはかなり戸惑い気味で、それでもクラウに手を取られているので促されるまま広間へと入っていった。

広間の中に居るのは、女王と王子、それからリディルやフーガ。謁見のときに見たかな以外の『神銀の乙女』たちだった。ついでにメイドさんたちも。

皆がみんな、私とかなが着ている様な飾りや彩りの抑えられた質素な洋服だった。そうは言っても、女王様の洋服とかは見た目にも生地はとても上質のように見えました。



「カナエ様、どうぞ今夜はお好きなものをお食べください」

女王がかなに向かって、良く通る声でしゃべる。

かなはエスコートしているクラウを見上げる。まるで、恋人同士みたいに。

クラウはにっこりと笑顔でかなの座る椅子を引き、そこにかなを座らせる。そして、クラウはかなのためにちょこっとずつ色々な食べ物を皿に取ってくる。

私はそれを、開いた扉から広間に入れないまま廊下で見ていた。



広間に入る勇気が出なかった。

私はあそこに行っても、きっといい顔はされないだろう。

かなと私とでは立場が違うから・・・。

かなはこの世界に望まれて、求められて、今この世界居る。

私は・・・自分で言うのも虚しくなるが、立場で言うならかなのおまけなんじゃないんだろうか?

さらに悪く考えるなら、不穏分子。

いかん、暗い方向にばかり考えてしまう・・・。


私が広間に入れずに、廊下で立ち往生している間に中では楽しそうな談笑の声が聞こえてきた。

その声の中に、かなの声も混じっていることに私の足はその場を去らせた。





「はぁ。何やってるんだろ・・・私」

お腹は食事を要求するように、くるくると鳴く。

自分がどこをどう歩いたのか解らないが、どこかの中庭に出たようです。

ここに辿り着くまでの間、誰にも会わなかったのは良いことなんだか、悪いことなんだか。多分、前者。

誰かに会っても、自分をなんて説明すれば良いかもわからないし、あの場所に連れて行かれるのも嫌だった。今は・・・なんとなく一人になりたくなった。

きっとこの世界で私の居ていい場所は、あるとしたらかなの隣なんだろうと思う。

流石に、後ろってのは嫌だな・・・。



「この世界にも星があるんだ・・・。星座とかもあるのかな・・・?」

中庭にあるベンチに腰をかけて、空をぼけっと見上げてみる。

あの場所から立ち去って、半時くらいは過ぎたかもしれない。かなは・・・心配してくれてるのかな?

心配してくれてるなら嬉しいなぁ・・・。

ってか、心配させてるかもって思うなら戻ればいいのに。お腹もすいてるんだし・・・。

戻らないとと思うが、戻りたくない。

何より、戻り道を知らない。

早まったかなぁ。

これ以上ここに居ても何もならなし、何よりここで寝るってのは控えたい。絶対風邪を引く。

さて、どうしようか・・・。


「ここに居たのか」

夜空ばかり見ていた私は、声のするほうを見た。

中庭の噴水を挟んで正面に見える廊下に、フーガだろう人が立っていた。

暗がりといえ、廊下には所々明かりがある。どんな原理で点いているのかは解らないが、足元がおぼつかなくならない程度には明るい。

とはいえども、現代っ子な私。尚且つゲームとか好きで、そこまで目が良い訳ではないし。

暗がりに見える体格や自分としゃべったことのある人物、そう考えるとフーガが妥当な気がした。

しかし、吃驚した。


中庭のベンチに腰掛けていた私の近くまで、呼びかけた人物はは近寄ってきた。

予想の通り、フーガでした。

一度声をかけた後は、無言で近づいてくるから、その雰囲気に圧されます。

「さ、探してたんですか・・・?」

「ああ。カナエ様がご心配なさっている。王やリディルも心配していた。クラウには言い聞かせておく。君も護衛の対象なんだ」

フーガにしては珍しく饒舌です。

『フーガにしては』って言うほど彼のことを知っているわけではないけれども、今日一日の経験から彼が比較的口数の少ない人だとは思う。



「そう・・・ですね。勝手に出歩いてすみません」

私も護衛の対象。クラウには言い聞かせておくということは、彼の中で私は対象外だったんだろう。

勝手に出歩く、しかも何の言伝もなしに目的地もわからないままふらふらと出歩いた護衛対象。

怒られるんだろうな・・・私。

「いや。こちらもすまなかった」

素直に謝罪を述べてくるフーガに、私は面食らってしまった。てっきり怒られるかと。

「え、いえ。こちらこそ、本当にすみません」



沈黙が流れる。

幸いなのは、お腹の虫が鳴かないこと。

こんな静かな状態で鳴かれた日には、穴を掘って入りたくなる。

「戻ろう」

フーガがそう言った。

ここは、戻るべきなんだろう、自分自身もそう思う。

でも、私の口は反乱した。


「嫌です」


言った私自身も、驚いた。

言われたフーガも、目に見えるほど驚いた表情をしている。

ああ、無表情が簡単に崩れた。これにも驚きですね。


私とフーガの間に、沈黙の時間が流れる。

無言の圧迫に、私はフーガから視線を外す。

フーガの視線は外されていない。視線が痛い。


かなのもとに戻りたくないわけでは、ない。

でも、今は行きたくない。


私は・・・かなが好きだけど。

今会うと、きっとくだらない八つ当たりをしそうで怖い。

かなを傷つけたいわけじゃない。

自分でもどうしたいのか、わからない。

主人公逃亡。それ以前に、護衛が彼女らを真面目に護衛していない。なんて職務怠慢だ!


感想など頂けると、参考になります。これからも、頑張っていきます。

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