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第十三話

 たくさん、かなと一緒に泣いた。

 帰りたいという想い。

 泣いている時は、帰りたい以外にも色々な感情が湧き出てきてた。

 暗い気持ちのものばかり。

 どろどろのぐちゃぐちゃした思い。

 そのなかに、かなを憎む気持ちもあった。

 でも、それ以上にかなは一緒に泣いてくれた。

 それが嬉しかった。

 一人じゃない気がした。


 

 生きていける気がした。





「どうも、ご迷惑をおかけしました」

 そう言って私は、リディルとフーガに頭を下げた。かなも一緒に頭を下げた。

 リディルはにっこりと微笑み、フーガは無表情だった。

「すっきり……したかい?」

「はい。お蔭様で」

 この世界に来て、初めて心がすっきりしている気がする。

 清清しい気分だ。



「かな、ごめんね。泣いちゃったりして」

 私がかなのほうを向いてそう言うと、かなは首を振って言った。

「ううん。あきちゃんが泣いてくれたから、私も思いっきり泣けたの。一緒に泣いてくれてありがとう」

「それ、私の台詞だよ」

 笑いあう。かなも泣きたかったんだ。

「……すっきりしたね」

「……うん」

 赤色に染まる空を見ながら、泣きながら繋いだ手をそろりと離した。

 とても、幻想的で綺麗で、この景色だけで少しはこの世界に愛着が持てそうな気もしてくるから不思議だ。



 ふと、お城がある方向とは反対の方向を見てみた。

 ずっとお城の方向ばかり見ていたが、後ろは見ていなかった。


「線……?」 

 お城と反対の方向には、石畳が続き、坂を下った先には森になり、その先はさらに険しそうな山がたっていた。その山の頂から、空へと伸びる線みたいなのが見えた。

 線は雲に隠れて、どこで途切れているのかわからなかった。

「あの線のように見えるのはね、『神代の塔』だよ」

「神代の塔?」

 私の見ている方向、こぼした疑問にここに案内してくれたリディルが答えた。

「そう、『神代の塔』。私たち人間がこの世界に生まれる前に、神が命を創る時、世界を見渡すために作ったとされている塔だよ。あの塔に女神がいらっしゃるって話だよ」

 自然とかなやフーガの目線も、『神代の塔』と呼ばれる、ここからじゃ線にしか見えないものに注がれる。

 あの場所に行けば、女神に合えるかもしれないと……?



「あの、明後日の『聖帝の祭日』は『神代の塔』で行われるのですか?」

「そういえば、色々なことの説明がまだだったね。『聖帝の祭日』はスニクス国建国祝いの日なんだよ。だから、国をあげての祭りだから、スニクス国で行うんだ。それに……」

 私のほうを見ながら説明をしていたリディルは、視線を『神代の塔』へと移した。

「残念だけど、近寄ることはできないんだ。女神イシュタリア様のお力で『神代の塔』周辺は何者も立ち入ることが出来ないんだよ」

 独り言のように呟いた後、かなと私のほうをリディルは見た。

 その表情はどこか哀愁が漂っている気がした。

 こう、失礼な話だけどリディルって女神に恋でもしてるのかな?





「夕食の後にでも、『神銀の乙女』についての説明を聞く気はないかな?」

 リディルは今日、『神銀の乙女』について説明をする為に会いに来た。

 でも、私たちの様子を見て、気晴らしにここに連れて来てくれた。

 夕食の後ででも説明をしてくれるというならば、聞くのがいいはず。

 自分自身、心の整理がついたのかはわからないけれども、すっきりはしているから少しは前向きに考えられそうだし。

「説明……。聞きたいです。かなも……それでいい?」

「うん。リディルさん、お願いします」

 とりあえず、最低限確認をかなにする。

 かなは頷き、丁寧にリディルにお願いをする。

 リディルはさっきの哀愁の漂う表情はどこへやら、満面の笑顔答えた。

「承りました。それじゃ、まずはお城に戻らないとね」



 馬に跨り(乗馬は手伝って貰いました)、来た道を帰る途中ふと疑問になった。

「ところで……どうしてかなと私が、ここにいることを知っていたんですか?」

 この世界で最初に着いた場所。石造りの祭壇。その方向を見ながらリディルたちに問いかけた。

 先を行っていたリディルの愛馬ルーちゃんの足が止まる。

 同じようにフーガの愛馬シロちゃんの足も止まる。馬の歩みを止め、皆で祭壇を見る。



 何故、タイミングよくあの場に居合わせたのか?

 いくらかなが『神銀の乙女』といえども、どこに現れるかわからないんじゃないのだろうか?

 話から察すると、かなはこの世界の誰かに召喚されたと考えるべきだ。

 そして、それが誰なのか。

 推測の域を出ないが。

 『神銀の乙女』は神の御使いとされている、そしてかなはその『神銀の乙女』の証である銀の瞳を手に入れた。この世界に来て。

 もし、魔法などがあるとしても、髪や目の色を変えれるなら選民意識的なものはないだろう。

 ならば、そんなことができるのは……と考えると、件の女神イシュタリアじゃないか思う。

 かなを召喚したのは女神じゃないのだろうかと。

 推測だが、当たってるんじゃないのだろうか。

 過去の文書にも、返還の術は女神の力だけしか見つかってないらしいし。



「今日の謁見で、カナエ様以外の『神銀の乙女』に会いましたよね。彼女たちが女神から承った神託で、この祭壇に現れると出てたんですよ。だから、お迎えにあがりました」



 女神。

 女神が、かながこの世界に現れる場所を告げた……。

 やっぱり、女神が犯人か!?



「それじゃあ、タイミングが良かったのは偶然……だったんですね」

「ええ、本当に良かった。少しでも遅かったらと考えると……」

「恐ろしすぎますね」

 あまり思い出したくないことです。

 かなも思い出したのか、少し顔色が悪い。

「でも、今は私たちがいますから安心してくださいね」

 かなの様子を察したのか、リディルが慰めとも取れる発言をする。女性を陥落させそうな笑顔で。

 あんな笑顔を間近くで見たら、誰だって赤面するだろう。かなも赤面してます。





 私たちは城へと帰ってった。





 『神銀の乙女』かな。

 その、かなが現れる場所を告げた女神。

 ……女神様ねぇ……実感わかないですよ。

 でも、会ったら一発ぶん殴りたい気がするが、女神ってことは女性だろうから……殴ったまずいよね?



異世界系のは世界構造を考えるのが楽しいですね。

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