第十一話
サティに見立ててもらった、乗馬に問題なさそうな動き易い洋服へと着替えた。
模様がモンゴルとかの民族衣装みたいなジャンパースカートに、下にズボン。腰のところをベルトでとめて。私が普段着ている服に比べると、少し飾り気の多い感じではある。
飾り気といっても刺繍だから、アクセサリーがジャラジャラと鳴ったりはしない。
まあ、着心地としては動き易い感じ。
見立ての上手なサティも凄かったのですが、かなはとても良く似合って可愛かった。
流石私の親友です。可愛いんだよ。
着替えが終わり、南の厩へと案内される。
再度認識した。
この建物、一人だと絶対迷う。
建物の外、少し離れたところに厩はあった(そりゃそうだ)。
厩に案内される最中にサティから聞いた話では、この世界には御伽噺に出てくるようなドラゴンとかユニコーンなどのモンスターも存在するらしい。その中でも、騎獣用は少なく高価と聞いた。
このスニクス国にも少数だが居るとのこと。
ドラゴンとかユニコーンが居るのか、誰かに同伴して乗せてもらいたいかも……。
厩に近づくと、独特の動物の臭いがした。
思っていたよりも厩はでかく、立派でした。
その厩の大きな扉の前に、リディルとフーガに白毛の馬と黒毛の馬がいた。
「カナエ様、アキネさん。待っていたよ」
笑顔のリディルと、感情の読み取れない(これが無表情ってやつか?)フーガ。
「お待たせしました。宜しくお願いします、リディルさん、フーガさん」
「宜しくお願いします」
かなは礼儀正しく挨拶をしたので、私もそれに習う。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
リディルは丁寧に返してくれたが、フーガは頭を下げる一礼だけだった。
喋るのが嫌いなのだろうか……。寡黙な奴め。
「その洋服も、とても良くお似合いですよ」
リディルは律儀に褒めてました。どうだ、かなは可愛いだろう!
「この子は私の愛馬で、ルーといいます。女の子なので、優しくしてあげてくださいね」
そう言って、リディルは黒毛の馬を紹介した。
馬はどことなく誇らしげ(?)にブルルと鼻息を吐いた。
この馬ってば、主人のリディルが言ってること理解してるんだろうか。
もしそうだとすると、頭の良い子だろう。
「こっちの子はフーガの愛馬で、シロです。この子も女の子です」
今度は白毛の馬の紹介だった。
白毛の馬だから『シロ』って、ネーミングセンスのかけらもねええ!
覚え易くていいけど。
「シロ・・・ですか。二頭とも大きな馬ですね」
「いい馬だ」
「!」
かながおっかなびっくり馬に近づいていると、フーガがいきなりぼそっと言った。
無表情に見えるのだけど……なんだかこっちも若干誇らしげに言ってる気がする。
喋ったことに吃驚するという、大変失礼な真似をして申し訳ありません、と私は心の中で謝罪をする。
馬など触ったこともないので、一応聞いてみる。この間のこともあるので。
「か、噛んだりはしませんか……?」
「悪戯などしなければ、大丈夫ですよ。好意的に接してあげれば馬もわかってくれますからね」
まあ、好意的だから触ってみたいわけで。
黒毛の馬ルーちゃんもわかってくれたみたいで、大人しく触らせてくれました。
しかし、この世界の馬って自分たちの居た世界の馬とあまり変わりないようだ。
「さて、慣れてきたようだし、乗ってみるかい?」
リディルがいつもの笑顔で聞いてくる。その顔には乗れって書いてある気がする。
「はい。お願いします」
リディルの黒毛の馬ルーちゃんにはかなが、フーガの白毛の馬シロちゃんに私が乗ることになった。
手伝ってもらって、何とか乗馬することができました。
訓練しないと一人で乗るのは難しい。
だが問題はこの後だ。良く筋肉痛になるって聞くし……。
「私やフーガがきちんと支えますので、安心して下さいね」
ルーちゃんに先に乗っていたかなの後ろに、リディルが乗った。
ひらりという表現が似合いそうな、上手な乗りっぷりです。
かなにリディル。なんというか眼福度アップです。
「乗るぞ」
いきなり後ろから声をかけられて、吃驚しました。
フーガが一応程度に、乗る前に声をかけてきました。
「あ、はい」
こっちも上手に乗馬しました。さすが騎士です。
どちらも二人乗りで準備が完了した。
乗ってるだけなら、なんとかなりそうです。
でも、これで移動なんだよなー。
バランスとるのに普段使わない筋肉を使いそうなので、明日はきっと筋肉痛。
そういえば、寝起き以降あまり右腕が痛まない。
普通なら、もっと痛むだろうに……。
これはどういうことか?
ぽっからぱっからと、ゆっくり私たちを乗せた二頭の馬たちは歩き出した。
厩から少し歩くと、整備された城内の通路にでた。
その通路沿いに行くと、お城の正面玄関のような場所に出てきた。
その先に通じるのは城門。
その城門の近くで衛兵みたいな人に一言断ってから、城の外へと出た。
城は森を切り開いて建てたようで、城の周辺は森に囲まれており、城から続く道は森を切り開いて石畳で整備されていた。
自分たちの居た街はどちらかといえば都会で、公園ですら森林の独特の匂いは薄かった。
少しだけ周りを見る余裕ができたのか、それとも現実逃避なだけなのかはわからないが、森林独特の匂いを感じることができた。
しばらく行くと、整備された石畳の街道と整備されていない道の二つに分かれていた。
先行していたリディルは整備されてない道へと進む。
フーガが操る私の乗っているシロちゃんも後へと続く。
厩から、城。城から整備されてない道へと。ここまで、フーガと私は無言だった。
リディルとかなは時々何かを話している様子ではあったが、こっちまでは聞こえなかった。
特に何かを話すことがあるわけでもないし、フーガの様子からも喋るのが嫌いなようだし、無理に話しかけることも無いだろうというのが結論。
というのは建前で、あまり、その、男性とここまで密着したことないわけで……。
心頭滅却すれば火もまた凉、じゃないけど。あまり、考えないようにしているわけです。
だから、話しかけたりもしない。
一人で考えているとネガティブな思想になりそうなので、元の世界に戻れるかどうかというのも考えていない。周りに流れる風景ばかりを見て現実逃避をしているわけで。
でも、それはそれで楽しい。
やっぱり見慣れない景色というのは楽しいものだ。
流れる雲も、漂っている空気の感じもそんなに大差があるような気がしない。
漫画などによっては、異世界に飛ばされて精霊などの存在を感じることが出来るようになったりするとかあるけど、そんな特殊なことなんて一切無い感じだし。
まあ、右腕が痛まないのを除けば特に何も変化は無い。
かなの瞳の色以外は。
でも、どうしてかななんだろう?
どうして、私も一緒に来てしまったんだろう?
まあ、考えたって始まらないし、後ろ向きにしかならないからここで考えるのをやめよう。うん。
「君は、何故冷静だ?」
いきなり、フーガに話しかけられた。
「え?」
随分と間抜けな返事だとは思った。
まあ、仕方ない。何も考えたくなくて、風景を見てたし。
私はバランス取るのに必死。
という心の中で建前を立てて、後ろなど振り向けないわけで。
この状態でも、ドキドキしてるわけで。失礼ですが、後ろなど振り向きません。
だから、前を向いたまま、後ろに乗るフーガと私の会話が始まった。
しかし、冷静? 私がか? んな、馬鹿な。
脳内では突っ込みやらボケやら、仰天しすぎてついていけないだけです。
「冷静なんかじゃないです」
「君は、カナエ様みたいに帰りたいとは言わないのか?」
そんなに私は他の人から見て、帰りたくないような感じに見えるのか?
「帰りたいですよ。ただ、言葉に出してないだけです」
「そうか」
フーガと私の会話はそれで終わった。
うむ、やはり寡黙な人との会話は続きません。
元々私も話術が上手なわけでもないので、当然といえば当然。
まあ、ずっと後ろから話しかけられるのも、勘弁だけど。
ある意味、助かった。
それっきり、フーガから話しかけてくることはなかった。
整備されていない道から三十分か一時間かくらいして、眼前の森が開けた。
それまで、ずっと森を切り開いた道(街道よりは小さいけれども馬車が通れそうな大きさだろう)だった。森林浴と言えば聞こえがいいが、いい加減森ばかりの風景に飽きかけていたときだった。
森が開けた先、道の続いている方向には、この世界で唯一見覚えのある場所。
あまり、思い出したくも無い痛い記憶しかない場所。
この世界に来て、最初に来た場所。
石造りの祭壇。
あそこが、リディルの取って置きの場所?
あの場所に連れて来るって……。
本当に元気付けたいのだろうか? それとも、嫌がらせだろうか?
リディルさんのあふぉんだらー。
私の心の阿保な罵倒など、口に出さないので意味は無い。
心を読まれたりするわけじゃないだろうし……。
されたらされたで、すっごい嫌だな。今思いっきり罵倒しまくってるわけだし。
そんな私などさておき、馬の歩みは止まらない。
先行するリディルの馬は、そのまま祭壇へと続く道を進んでいった。
馬です。馬の体のつくりはバランスよくて綺麗だと思います。
どうも、主人公はかなを褒められると嬉しいらしい。自分などおいといて。
でも、褒められると人の子なので喜びます。でも、それ以上に恥ずかしがります。