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お気に入り小説3

貴方なんて地獄に落ちろ。女の敵、○○るがいいと言って、女癖の悪い婚約者と婚約解消しました。

作者: ユミヨシ

大好き。たまらなく貴方の事が好き。貴方のその空色の瞳を見つめる度に、優しく語り掛けられるたびに心がときめいて。


会えば会う程、思いは募るばかり。


あと、もう少しで結婚式っ。


本当に楽しみ。早く一緒に暮らしたいわ。





ベッドで目覚めたレティーシアは首を傾げて、身を起こした。


あああっ…何?誰への想い?生々しい夢。あの空色の瞳の人は誰?


13歳のレティーシアには婚約者はまだいない。

想いを寄せる男性もおらず、夢の中に浮かんだその空色の瞳の男性に覚えはないのだ。

彼の事を思い出すと、胸に愛しさがこみ上げる。


会いたい。彼に会いたい……



翌日にも夢を見た。


空色の瞳の男性と共に森の中を歩いている夢。


男性はレティーシアの手を取りながら、優しく語り掛けてくる。


「マリア。君に話があるんだ」


「なんでしょう?」


マリアなんて名前ではないわ。わたくし。でも、夢の中のわたくしはマリアと呼ばれて答えている。


胸がときめいて。

ああ、アルト様の声って本当に素敵。髪もキラキラ輝いて。顔もとても綺麗で。

空色の瞳の彼はアルト様って言うのね。


「私に婚約の話が持ち上がっていてね。相手は公爵家。歳は2つ下のお嬢様で。私は彼女と結婚したい。結婚すれば、私を婿養子にしてくれるということだから」


「ええっ?私と結婚してくれるのではないの?」


胸が痛い。どういう事?アルト様とは口づけもして。

将来の約束もしたわ。

アルト様はレットス伯爵家の次男。

私は平民の娘。

身分違いの恋。それでも結婚したいと言ってくれて。


私はとても幸せで。

結婚式の日を楽しみにしていたのに。


「そもそも、結婚するって言えば、その身体を好きにさせてくれると思ったのにな。マリアって、身持ちが固いんだから」


急にアルト様の雰囲気が変わったような気がして……


「私、結婚するまで綺麗な身体でいなさいってお母様から」


「煩い。まぁいい。恋人ごっこ楽しかったよ。もうお前には飽きたしな。そうだな。平民、一人殺そうが私は貴族だから罪にはならない。最後に楽しんでやるから感謝するんだな」


「え???嘘でしょう。いやっ……嘘でしょう嘘でしょうっ。アルト様。嘘でしょうっ」


アルトが近づいて来る。


優しかった大好きだった空色の瞳が。

怖いっ……


逃げなくては。


めちゃくちゃに森の中を走った。


アルトが追いかけてくる。

捕まったら殺される。さんざん凌辱された後に殺されて……


いやっーーー死にたくない。


行きついた先は崖だった。


断崖絶壁の、逃げ場はない。


アルトが近づいて来る。


「マリア。私の事を愛しているんだろう?だから、私といい事をしよう。その後に、あの世に送ってやるよ」


怖いっ……


私はアルト様が本当に大好きだったの。

綺麗なお花を貰えた時は嬉しかった。

可愛いと言われた時は嬉しかった。


口づけしてくれた時、胸がときめいた。


でも、私……


「アルト様。大好き……大好きなまま……私……」


後ろ向きで崖から身を投げた。


アルト様……大好きだから……






涙が止まらない。


夢の中のわたくし、いえ、マリアは崖から身を投げた。

恐らくマリアは亡くなったのだわ。


それにしてもアルトという男、なんて酷い男なのでしょう。


マリアはアルトの事をとても好きだった。

結婚式を楽しみにしていたのに、アルトはあっさりと捨てて、殺そうとしただなんて。


夢にしてはあまりにも生々しくて。


レティーシアは頭を抱えるのであった。




その夢を見て、3年後。レティーシア、15歳の時に、忘れもしない夢の男。

アルト・レットス伯爵令息との婚約話が持ち上がった。


アルト17歳。レティーシア15歳である。


初めてアルトと会った時に、空色の瞳に、金の髪の整った美しい容姿に。

そしてアルト・レットスと言う名前に、あまりにも夢と同じ男で驚いた。


アルトはにこやかにレティーシアに挨拶をした。


「アルト・レットスです。レットス伯爵家の次男です。お見知りおきを」


レティーシアの両親、ブルテリク公爵夫妻は顔合わせの席で。


「おおっ。なんという好青年」


「本当に。学業も優秀だと伺っておりますわ。うちの娘にぴったりの……娘の婿に。我が公爵家の婿入りに相応しい」


アルトの両親、レットス伯爵夫妻も、


「アルトの事をそのように言って下さり、有難い事です」


「本当に。有難うございます」


レティーシアは夢を思い出す。


マリアはこの男に捨てられて殺されそうになり、崖から身を投げた。

崖から身を……


あれは夢のはず。でも、夢と全く同じ男性が現れるなんてどういう事?


アルトは跪きレティーシアの手の甲に口づけを落として、


「お美しい、レティーシア様。私は貴方様と婚約を結べて嬉しい限りです。どうかアルトと呼んで親しくお付き合いをお願い致します」


レティーシアを見上げて微笑んだ。


なんとまぁその顔の美しい事。


思わず胸が高鳴ってしまう。


両家の話し合いにより、アルトとの婚約は結ばれてしまった。



しかし、夢の事がある。


執事のベルドを呼んで、


「ベルド。お願い。お父様の仕事で忙しいと思うのだけれども、アルト・レットス伯爵令息、アルト様の事を調べて欲しいの」


ベルドは25歳の黒髪の有能な執事だ。

長くブルテリク家の仕えていた先代執事が連れてきた親戚の息子だと言う。


「お嬢様。かしこまりました。レットス伯爵令息の事。お調べ致します」


あまりにも薄気味悪かった、3年前の夢。


アルトに付き合っていた女性はいなかっただろうか?

その女性はマリアという名では?

追い詰められて崖から飛び降りて命を落とした女性はマリアではないのか?



2日後、ブルテリク公爵である父と、そして母、レティーシアの前でベルドは報告をしてきた。


「レットス伯爵子息、アルト様は色々な女性と付き合いがあります。特に道具屋のマリアと言う女性とは結婚の約束をしていたと、そのマリアは今、行方不明です」


レティーシアは驚いた。


マリアという女性は実在した。

そして行方不明。


アルト様が殺したの?いえ、あれは夢、夢なのよ。本当かどうか解らない。

証拠もない?


ブルテリク公爵は、ベルドに向かって、


「マリアとアルトとの間に何があったのか。もっと色々と調べてみてくれ」


「かしこまりました」


レティーシアに向かって、


「まぁ独身の男が女と遊ぶのは仕方がないことだが、マリアという女が行方不明なのが気にかかる。平民の女が行方不明なのは、たとえ、アルトが何かやったとしたとしても伯爵家と平民じゃ、罪に問われないが」



父の考え方に、レティーシアは確かにと思う。

貴族が平民一人殺したって、罪にはならない。この王国の法律では。


それでも、マリアの心が、恐怖が……悲しみがレティーシアを苦しめる。


このまま、婚約を結んでいていいの?




アルトは優しかった。

よくレティーシアに会いに来て、素敵な場所にデートに連れて行き、楽しい話題を提供してくれて。


会えば会う程、アルトに惹かれていく。


「レティーシア様」


「アルト様」


「その、レティーシア様ではなく、レティーシアと呼んでいいかな。私達は夫婦になるんだし。私は伯爵家の息子だし、アルトと呼んで欲しい」


「ええ、アルトっ」


「レティーシア。好きだ。本当に愛している」


「わたくしもよ」


胸が高鳴る。


そう、あれは夢。アルトという名前も顔も全て偶然よ。

マリアだって偶然なんだから。


そう信じたい。


そう信じたかったけれども。


いつも、仕事以外で話をしない、ベルドに廊下で声をかけられた。


「お嬢様。私はアルト様を調べました。複数の女性達といまだ付き合っており、中には身体の関係を持っている女性もおります。旦那様にお知らせしましたが、独身時代の女遊びは大目に見ろと……確かにこの王国の貴族は愛人を持つことも許されておりますし、独身の男性が女性と遊ぶのは、経験だと許される風潮ではありますが、お嬢様はよろしいのですか?私はお嬢様が不幸になると思えて仕方ありません。どうか、お考え直しを。お嬢様から旦那様と奥様に婚約の解消をお願いしたら如何でしょうか」


驚いた。こんなに真剣に自分の事で話をする彼を見たのは初めてだった。


眼鏡をかけていて黒髪で、冷たい印象のベルド。

仕事はとても真面目で。


そんな彼が自分を心配してくれる。


嬉しかったけれども、わたくしはアルトの事を愛しているのよ。


ベルドはレティーシアに向かって、


「そもそも、マリアと言う女性は行方不明のまま見つかってはおりません。邪魔な平民なら平気で始末するような夫で、お嬢様はよろしいのですか?」


「貴族としては邪魔な平民を始末するのは当然でしょう。でも……」


ベルドは更に畳みかけてくる。


「お嬢様。一度、アルト様がどういう生活をしているか、この目でこっそり、見てみたらいかがでしょう」


「そうね。貴方がそういうなら、見てもいいわね」



ベルドの提案に乗ることにした。


アルトは女性遊びが派手で、色々な女性と遊んで、身体の関係もあるという。

そんな女性と会っているというので、ベルドと共にアルトと女性が入って行った宿の部屋の隣で聞き耳を立てることにした。


ベルドが差し出した筒のような物は壁の向こうの声が聞こえると言う。

公爵令嬢として盗み聞き、おそらく二人がいちゃついているああいう声とかも聞こえてくるとは思うけれども……


壁に筒を当てて聞き耳を二人で立てていると、


アルトの声がした。


「リーナ。ああ、会いたかったよ」


「アルト様ぁ。私もーーー私もっ」


「さぁその豊満な身体を楽しませておくれ」


「勿論ですわぁーー」



二人でイチャイチャイチャイチャ、聞くのも恥ずかしい声が聞こえてくる。

レティーシアは真っ赤になった。

傍にベルドがいるっていうのも気恥ずかしい。


でも、愛するアルト様が。いかに独身時代の男の遊びが許容されているとはいえ。

他の国なら婚約破棄ものだわ。



しばらくしてコトが終わったのか、アルトが相手の女性に、


「やはりリーナはいいなぁ。まったく、今、婚約しているお嬢様って、お堅くてな」


「お堅いの??」


「ああ、結婚したらお前を愛人の一人に迎えてやるよ。他にも愛人に迎えたい子がいるんだ」


「嬉しいーー。愛人でもなんでもいいわぁ。贅沢させてくれるんでしょう」


「勿論。お前は本当に聞き分けがいいな。結婚を迫ってこないだけいい女だ」


「結婚を迫ってきた女がいたのぉ?」


「まぁ、私程、いい男なら当然いるだろう?」


「アルト様、素敵っ」




アルトへの想いが冷めた。

レティーシアは思った。


やはり結婚相手は自分一人を愛してくれる男でなくては嫌だ。

それに……


あの夢は正夢だろう。

あの男が追い詰めて殺した証拠は掴めないとは思う。

それでも、マリアは生きてはいないのだ。


だから、せめてマリアの骨だけでも拾って、ご両親の元へ返してやりたい。


マリアの恋心は、自分の恋心と一緒だ。


アルトにわたくしも恋をした。

彼はとても魅力的で、素敵だから。


マリアはアルトに追い詰められて殺されたのだ。


ベルドが背後から抱きしめてきた。


「お嬢様。私はお嬢様の事が心配で心配で」


「え?ここって連れ込み宿よね。離しなさい。ベルド。わたくしはやることがあります」


「失礼しましたっ。なんて無礼なことを。お許し下さい」


ベルドはとても優秀な執事だけど……何だか危なかったわ。





アルトと婚約解消した。

他国なら慰謝料とか婚約破棄とかできたのだけれども、この王国は女遊びは許されているから仕方がない。


アルトから苦情が来た。


「レティーシア。君は私の事を愛しているのではなかったのか?」


「わたくしは確かに貴方の事を愛していたわ。でも、わたくしの夫はわたくしだけを愛してくれる人がいいの。お父様もお母様もわたくしの気持ちを解って下さったわ。貴方は結婚したら愛人を沢山持つつもりでしょう?わたくし、耐えられませんの」


「それなら、愛人は持たない。君だけを愛すると誓おう」


「マリアの骨が見つかったわ」


「マリア?なんのことだ?」


「崖の下から見つかったのよ。貴方が結婚の約束をしていた女性の骨よ」


「ああ、平民の女か。貴族が平民の女の一人や二人。どうこうしたって罪にはならないだろう?あの女、結婚したがっていたんだ。追いかけたら勝手に崖から飛び降りた。平民なんだから、別にどうだってかまわないだろう」


思いっきりアルトの頬を平手打ちした。


「マリアは貴方の事を愛していたのよ。貴方に会えるのを楽しみにしていた。愛する気持ちは貴族の平民も女なら皆、一緒よ。わたくしは公爵令嬢失格かもしれない。でも、マリアが気の毒で仕方がない。貴方なんて地獄に落ちろ。女の敵、モゲるがいい」


あら、とんでもない事を言ってしまったような。

モゲるがいいってどこの事かしら。オホホホホ。


アルトとは婚約解消になりましたわ。


見つかったマリアの骨はご両親の元へお届けいたしました。

マリアのご両親は泣いて感謝して下さいましたわ。

貴族がそのような事を普通しませんから。


アルトの事を罰する法律もこの王国ではありませんし、わたくしと関係なければもう、過去の人……


あんな男でもとてもわたくしにとって優しくて、失恋して胸が痛いのが辛いのですけれども。


次の結婚相手を探さないとですわ。


え?ちょっとベルドったら、実は大公様から預かった隠し子ですって?え?わたくしと結婚を望んでいるってっ……


心の準備が出来ていませんわ。


ベルドが迫って来ているんですけれども。


「どうか、お嬢様。私は貴族ですし、大公家の血を引いております。旦那様も奥様も私の熱意に押され、了解して下さいました。ずっと胸に秘めていました。お嬢様への想い。どうか私と結婚して下さい。私なら領地経営もしっかりとお手伝い出来ますし、何をやらせても有能で、おまけに自分ではなんですが、眼鏡を取ったらイイ男である自信もあります。どうかどうかお嬢様……」


仕方がないので、ベルドで手を打っておきましょうかしら……



アルトはその後、あまりにも素行は悪いので、レットス伯爵自ら、辺境騎士団へ頼み込んで、彼を鍛えてくれと送り出した。

その道中、馬車が崖から転落した。


同乗していた御者は崖から伸びて居た木に引っかかり何故か助かったが、アルトは崖の下で馬車ごと、押しつぶされるようにして亡くなった。


その報告を聞いたレティーシアは、


「マリアの悲しみの心がアルトを殺したのかしら……」


再び、マリアの冥福を祈った。



レティーシアはそれ以降、アルトの事を思い出すこともなく、しつこいくらいに、ベルドに溺愛され、5人の子を次々と生んだ。

公爵領は発展し、ブルテリク公爵家の人々は子孫繁栄し、幸せに暮らしたと言われている。



ムキムキ辺境騎士団員達は、女の怨霊に途中で盗られたと泣いております(笑)せっかくの美男子だったのに……

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[一言] う~~~ん。どうせなら騎士団で蹂躙されて心身ともにボロボロにされてから自死して欲しかった。 面白かったです。
[一言] 辺境騎士団だと平民に近い身分の騎士も多いでしょうから、平民女性を弄んで死に追いやるようなカスはさそかし「かわいがって」もらえただろうに残念だなー(棒) ある意味これもマリアの愛だったのかしら…
[一言] 騎士団のアイドルになってもげちゃえば完璧だったのにw
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