第1話 追放された
15歳の誕生日、嬉しい思い出になるはずが最悪な思い出になった。
「あぁ!ノアール!それは火の精霊ではないか。使役出来たという事は『精霊姫』になれるだろう!」
「嬉しいですわ、お父様!これからよろしくね、レオン」
「オレ様の主になるんだ、しっかりしてくれよな」
「えぇ!お姉様よりも立派な精霊姫になって見せますわ!」
お父様と精霊を交えて仲良く実の妹、ノアールが談笑している中、私、メアリー・グレーノルシアは精霊の信託を受けた噴水をただ見つめていた。サラサラと流れる美しい水。これらは水の精霊達が生み出しているのだ。ほんのりと暖かい風を吹かせるのも風の精霊達。地を押し固め大地を作ったのは地の精霊達。寒い時期に暖かくしてくれる炎も火の精霊達が作り出した物だ。この国では精霊は信仰の対象であり、昔から伝わる伝承もあってか国民はみな、精霊に強く執着している。精霊を使役出来なかった者は『無能』と見なされ、追放されるくらいには…だ。
「……ノアールは精霊を使役出来たと言うのに、メアリー、貴方は出来なかったようですね。残念です、私の娘でありながら『無能』とは」
コツコツ…と規則正しく並べられた石のタイルの上を歩きながら冷たく放たれた声にメアリーは振り返る、そこにはメアリーの母であるカリナ・グレーノルシアが立っていた。普段以上にキツく細められた瞳は娘を見る母親の瞳では無かった。この娘は自身の娘では無くただの無能だと思っている事が瞳から丸わかりなのだ。メアリーはカリナの顔を一瞥しただけですぐに視線を下に移した。それを見たのかはぁ…と深い溜息を吐いて吐き捨てるように言った。
「……まさか、無能だとは思いませんでしたよ、精々隣国で生き抜く事ですね。メアリー・グレーノルシア。貴方を無能として隣国へ追放します」
「……分かりました、すぐ準備し出発いたします」
そう言って部屋を出て行くメアリーにノアールが悪役のように口角をあげたのを◯◯は見逃さなかった。
1週間後、軽く荷物を纏めてからメアリーは母国を出発した。馬車に乗り、隣国と母国を繋ぐ深い森の入口へと辿り着くとメアリーは何も言わずに森の中を歩き続ける。時には辺りを見渡すように青々と葉を生やした木々を見つめ、ほんのりと暖かい風を頬に感じながら歩いていく。どれだけ歩いただろうか、少し休憩でもしようかと思った時、ぴょんと何かが背後から飛び出てきた。
「ああー!!もう、ほんとイライラするぜ、なんだ、アイツら。燃えカスにしてやろうかと思ったじゃねぇか……」
「……クリス、燃やすのは駄目だからね?」
「は?何でだよ、あんなの燃やしても良いだろーが!」
ガリガリと頭を書きながら苛立ちを隠せていない様子でメアリーを見つめる燃え盛る炎のように赤い髪を短髪で切り揃え、太陽のように光る黄金色の瞳を持つ火の一大精霊であるクリスはジタバタと暴れながら苛立ちの籠った声で言った。
「あそこでメアリーが許可を出してりゃ、俺が燃えカスにしてやったのによ……惜しい事したぜ……」
「あのね、クリス。あそこでクリスに出てこられて困るのは私なのよ…?」
メアリーの言葉にやはりクリスは納得が言っていない様子でメアリーの周りをウロウロウロウロしていた。
……そう、言い忘れてしまったがメアリーは既に四大精霊を使役出来ていたため、先程の信託には精霊が応じなかったのだ。だが、その事を知らないノアール達はメアリーを追放したのだった。