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「陞爵が決まったのですか⁈」
「ああ、面倒だけどね。こればっかりは私でも断れないし。」
「あら、貴方の頑張りが認められたって事でしょう?私のことも放ったらかしな程、仕事しているのですから当たり前なのではないですか?」
「ごめんね、愛しのセラフィ。今の仕事が終われば落ち着くから2人で旅行でも行こう。」
イチャつき始めた両親を横目に、私は王印の押された手紙を眺める。
国花を箔押しされた国王陛下からの手紙は素手で持つのは怖かった。
「お父様!侯爵って書かれてあるのですが⁈」
「そうなんだよ。私はアルト侯爵になるらしいよ。困ったね。」
お父様は本気で迷惑そうに、手紙を摘み上げた。
「でも、ルードル領をくれるんだってさ。あそこは魔物は出るけど、資源が豊富だからレイズが喜んでたよ。」
ルードル領は前領主が爵位を剥奪され、王室預りになっていた。
あの地は2年程前、第3騎士団の団長となったルード卿と共に広域結界魔道具を設置し、大規模な魔物対策を行った。
それにしても侯爵か。確かにめんどくさい。
社交界デビューしたての私には、まだ友達といえる繋がりは少ない。
そんな私がいきなり上位貴族の仲間入りをするのだ。
洗礼を受ける嫌な予感しかしない。
私の部屋の机に積み上げられた招待状の山を思い出して溜息が出た。
「今度の王宮夜会で正式に陞爵されるのよね?新しいドレスを用意しなくちゃね。リル、ウィルフレイ君呼んでいらっしゃいね。」
「チッ」
相変わらずお父様はウィルがお気に召さないようだ。
「リル、おめでとう。」
「ええっと、何かあったかしら?」
「もう、リルったら。侯爵令嬢になるのでしょう?まあ、複雑なリルの気持ちも分かりますが。」
今はティーナと2人、学院の中庭でお茶を楽しんでいる。
「正直、あまり嬉しくはないわね。煩わしいことも増えるし。」
「リルも無事に社交界デビューしたことですし、お姉さんの私がお友達を紹介してあげますわ!」
手を合わせて微笑むティーナは、今や社交界の花だ。まだ17歳とは思えない妖艶さを持つ美女。
けれど、相変わらず面倒見は良くクラスのリーダー的存在だ。
「ありがとう、ティーナ。頼りにしてます。」
「ええ!任せてくださいな。」
「そう言えば、最近はどうですの?」
「それが...」
最近私を悩ませている人物の顔が浮かぶ。
私がカップに口を付けると、こちらに近付く足音が聞こえた。




