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2-56

「貴女がアルト商会の開発者⁈」

リングドン家本邸のサロンに、子爵から私の紹介を受けたルード卿の第一声が響き渡った。


「はい。もちろん全てを私が作ったわけではありませんが、発案と内部構造の構築は主に私が担当しています。」


ここまでびっくりされたのは初めてだった。私みたいな子供が商会で重要な仕事をしていたら驚くのは当たり前なのかな。


「改めて、初めまして。アルト子爵家長女リルメリア・アルトです。よろしくお願い致します。」


「あ、ああ。大変失礼しました。セルゲイ・ルードと申します。今回の任務では貴女に大変助けられました。騎士を代表して感謝申し上げます。」

切り替えの早かったルード卿は立ち上がって深々と頭を下げた。



「ディレイルも久しぶりだな。」


「はい。」

ルード卿とデルの態度は部屋に入った時からずっと他人行儀だった。目すらまともに合っていないと思う。

けれど、父親と関わりたくないデルとは違い、ルード卿はどこかデルを気にしているように見えた。

この親子の関係を少しだけでも改善することはできないのだろうか。

私は目の前に座るルード卿に視線を移す。

ルード卿はデルが大人になった姿そのものだった。唯一違うのは瞳の色だけ。


ルード卿の騎士然とした姿に見惚れていると、隣に座るウィルが私の手を握った。


「リル?」

私は不思議に思ってウィルを見る。するとなぜか笑顔を向けられた。たまにウィルの行動が分からない。


「こほん。では話を進めようか。」

子爵の一言でようやくウィルは私から視線を移した。


「我がリングドン家は回復薬を始めとした魔法薬及び医療魔道具の開発をアルト家主導の元、共同で行うことになりました。それに際し、専属薬師のディレイル・ルードをアルト商会へ移籍させます。」


「子爵、それはどういう事ですか?ディレイルは騎士団に入団させることを伝えたはずです。」


「俺はそんな事望んでねえよ!」


「ディレイル!」

ルード卿とデルは一歩も引かずに睨み合う。


「ルード卿、アルト商会は今後医療の常識を変えていきます。ルード卿も見たはずです。この薬が貴方の大切な仲間を守ったところを。」


「しかし、それはディレイルでなくてもいいはずです。リングドン家には優秀な薬師は沢山いるでしょう。」


「はい。ですが、この回復薬を作れるのはデルだけです。」

私はテーブルにデルが作った回復薬を置いた。


「これをディレイルが?」


「はい、デルは回復薬を短期間で作れるようになりました。これは彼の才能です。今後彼の作ったものが沢山の命を救うでしょう。貴方はそれでもデルの望む道を阻みますか?」


ルード卿は一瞬目を見開いてデルを見た。


「父さん、俺はこの道で人の役に立ちたいんだ。母さんのように何も出来ずに死んでいく人をなくしたいんだよ。」


デルの心からの願いに、ルード卿は両目に手を当てて黙り込む。


「分かった。お前は私とは違うんだな。」

まるで自分に言い聞かせるような乾いた声が私の耳にも届いた。


「失望させてごめん。」

真っ直ぐに父親を見つめるデルに対し、ルード卿はデルに視線を送ることはなかった。




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