*ウィルフレイ視点 9
僕達は応接室へと戻り、ルード卿から現状の説明を受けていた。
先程、治療に立ち会っていた3人の騎士達もルード卿の側に控えている。
彼らは副隊長と補佐官だった。この状況に困惑している様子だったが、ここで起きた事は口外しないよう約束させた。
「核持ちの魔物ですか?」
「はい、ここから少し行くと、小さな集落があります。そこの住人を避難させていた小隊が遭遇しました。先程の騎士もこの小隊に所属していた者です。」
核持ちの魔物
魔物の中には、魔鉱石に似た核と呼ばれる魔力回路を持つ者がいる。その魔物は、魔法士のように強力な魔法を使って人を襲う。性格も非常に凶暴だ。
そして、その魔物の核は新たな魔物を産み出すことが出来る。そのため、各地の領主は核持ちの魔物を見つけ次第、速やかに討伐しなければならない。
「戻ってきた者の情報から、核持ちは木の魔物プランドだと分かりました。毒魔法で周囲に毒を撒き散らしているため、今は近付くことが出来ません。」
プランド自体は決して強い魔物ではない。ルード卿程の魔法騎士なら問題なく倒せる。それが出来ないという事は、それだけ核持ちの魔物の毒が強力なのだろう。
「結界魔法を扱える魔法士は?」
「今、各方面に要請していますが、どれだけかかるか。」
「隊長やっぱり、大規模な火炎魔法で燃やし尽くしちまう方がいいんじゃないですかね?」
副隊長のルドルフ卿が、地図に記されたプランドの周りを円を描くように指でなぞる。
「ルドルフ、それは最終手段だ。その方法はリスクが高すぎる。最悪の場合は他領も巻き込んだ山火事だぞ。」
「でも、今も魔物は増えてるんすよ。そもそもそんな都合良くこの近くに闇魔法使える魔法士なんていると思ってます?」
ルドルフ卿の言い分も理解出来る。魔物の増加はその領地の危機に繋がる。けれどその方法で、フィラネル山脈にまで火が移れば、リングドン領にも被害が及ぶ。流石にそれをただ見ている事は出来ない。
「もし毒の影響を受けなければ、ルード卿1人で核持ちの魔物を倒すことは出来ますか?」
僕の問いかけにルード卿は力強く頷いた。
「必ず倒します。」
「でしたら先程渡したペンダントをお使い下さい。」
ルード卿が机に置かれたペンダントを手に取った。
「これは?」
「それはアルトの叡智の結晶、結界魔道具です。」
「「「は?」」」
ルード卿と騎士達の声が重なった。
「ちょっと待ってくれ!結界⁈こんなのが⁈」
「ルドルフ落ち着け。」
ルドルフ卿がルード卿の手の中のペンダントを覗き込む。その体勢は若干ルード卿を押し退けている気がする。
彼らの動揺に気にも留めず、僕は説明を続けた。
「その魔道具は使用者の体表を覆う形で結界を発動させます。あらゆるものを防ぎますが、魔物の攻撃にどこまで耐えられるかはまだ未知数なので、そこは気を付けて下さい。」
「持続時間は?」
「使用者の魔力量によります。魔法騎士なら1日程度は維持出来るそうです。」
「マジかよ。チビッコ、これは1つしかないのか?」
おい。騎士ならもう少し礼儀を学んでくれ。
僕はルドルフ卿の質問を綺麗に無視した。
「ああ、これなら問題ありません。この魔道具は素晴らしい。」
感嘆の声と共に清涼な魔力が部屋に流れた。
ルード卿の周りには結界が張られ、所々空間が歪んでいるように見える。
「夜明けと共に核持ちの討伐を行う。ルドルフは各小隊に通達。」
ルード卿の号令が広い応接室に響く。
「はい。」
ルドルフ卿は俊敏な動きで部屋から出ていった。
「ウィルフレイ君、君はどうしますか?」
ペンダントを首に掛けたルード卿は不敵な笑みで僕に問い掛ける。
「もちろん、行きます。」
父が僕の肩を優しく叩いた。




