*ウィルフレイ視点 4
厳重な警備の中、僕達はノードル領へ出発した。
ノードル領は我がリングドン領と同じくフィラネル山脈に隣接し、そこから流れ出る豊富な水源に恵まれた自然豊かな領地だ。しかし、妖精の加護がない為、度々魔物の被害を出していた。
先代ノードル領主と父の代までは、お互いの領地を助け合ってきたが、先代領主が亡くなるとぱったりと交流も無くなった。
今回父が僕を同行させたのは、次代を担う僕達兄弟の1人にノードル領との今後の関係を考えさせるためだろう。
今回の仕事を無事に終わらせ、少しでも早くリルの下へ帰る為に、僕は自分に課せられた問題に集中することにした。
領主館に着くと、領主のノードル男爵とその家族が僕達を出迎えた。
父よりも少し若い男爵はまるでこれから夜会にでも行くかのように着飾っている。
「遥々こちらまでお越しいただきありがとうございます。」
「お父様、折角ですし、子爵様達を晩餐にご招待しましょうよ。」
男爵の挨拶を遮って令嬢が僕の方へ近付いて来た。
「私はマーガレット。貴方お名前は?晩餐まで私とお話しましょ?」
令嬢が僕の腕を掴もうとしたのをサラリと躱し、距離を取る。
「ノードル男爵、我々は一刻も早く国王陛下より派遣された騎士団に物資を届けねばならない。晩餐ではなく、指揮官の下へ案内してもらいたい。」
父が挨拶もせず、威圧的に話を進めた。父は完全に男爵を切り捨てる決意を固めたのだろう。僕も今後この男爵が領主である限り友好的な交流を持つつもりはない。呆気なくも、僕の仕事の一つが終わってしまった。
唖然としている領主家族を放置して僕達は馬車へと戻った。
父が秘書官達と今後の打ち合わせをしているのを横目に、僕はリルから預かった回復薬を確認していた。
これはリルから託された僕への信頼の証だ。
彼女はいつも誰かの為にその才能を惜しげもなく奮う。
その度に僕はこの笑顔の下で、必死に嫉妬の感情を隠してきた。
リルの全てが僕のものであって欲しいのに。
以前の僕は何に対しても執着なんて見せなかった。
それ程、彼女の側は穏やかで刺激的で心地が良い。
僕は回復薬の瓶を一撫でしてからゆっくりと箱の蓋を閉じた。
「ウィル、そろそろ出発するぞ。」
「ノードル男爵を待たなくていいのですか?」
「あれは時間の無駄だ。」
僕も父の意見に賛成だ。これ以上仕事の邪魔もされたくない。
「お待ちください。リングドン子爵様。」
出発しようとした矢先、初老の執事が声を掛けてきた。
「お久しぶりでございます、子爵様。この度のご支援誠にありがとうございます。」
「久しぶりだ、リドリー。先代の葬儀以来だな。まだここにいたのか。あれを見限るなら早い方がいい。リングドン家はお前を歓迎するぞ。」
父が珍しく認めた相手に僕は軽く視線を送る。その執事の背筋を伸ばした立ち姿は年齢を感じさせず、纏う空気は研ぎ澄まされていた。
「お気遣いありがとうございます。ですが、最後まで見届けると決めておりますので。」
「そうか。」
無表情な父が僕にはどこか残念そうに見えた。
「子爵様、若様。魔法騎士様方はここから馬車で半日程行った所にある別荘に滞在されています。今から出発されると到着は深夜を過ぎるでしょう。今、この領地は決して安全ではございません。離れをご用意致しましたので、朝までそちらで過ごされてはいかがでしょうか。」
「そうか。ならば、その言葉に甘えるとしよう。」
溜め息を吐きたくなるのを堪えて、僕は父に従った。




