1-5
突如現れた天使のような男の子。晴天の空を映し取った瞳が印象的で、少し癖毛のブロンドがどこか幼く可愛らしい。
「あの、お困りのようだったので。」
天使様は優しい方のようだ。私はその言葉に甘えることにした。
「ありがとうございます。この子達をすぐに教会へ連れて行きたいんです。」
天使様は自らが連れた従者に一言二言話すと、私達を馬車へと促した。
ぐったりとした少女を私の護衛が抱き上げ馬車に乗せる。男の子も戸惑いながら、それに続いた。
天使様の馬車は華美ではないけれど、乗り心地が良い。天使様の服装からも貴族で間違いないと思う。
あまり詮索しないよう、私は横で眠る女の子に目を向けた。
「自己紹介が遅れましたが、僕はリングドン子爵家三男のウィルフレイ・リングドンです。」
向かいに座った天使様が丁寧に自己紹介をしてくれた。
「私はアルト子爵家の長女リルメリア・アルトです。リングドン様、この度は助けていただきありがとうございました。本当に助かりました。」
天使様はやっぱり貴族だった。
リングドン子爵領はアルト子爵領に近い領地で、確か山岳地帯が多く良質な薬草の産地だったはずだ。我が家の商会とも取引があり、私はリングドン子爵様にご挨拶したことがあった。でも私達は初対面。
魔法にばかりのめり込んでいた私は、実はまだお茶会デビューを終えていない。成人前なので夜会には参加できないが、リトルレディとしてお茶会には参加できる。
ただ何となく先送りにしてきたため、私には同年代の貴族のお友達がいない。そろそろ本格的に考えなきゃ。
「先程、我が家専属の薬師を教会に向かわせました。近くの店を任せているので、すぐに駆けつけてくれるでしょう。」
あの時、従者に薬師を連れてくるよう指示を出してくれていたらしい。
「リングドン子爵子息様に心よりの感謝を。」
私は深く感謝を伝えた。
「いえいえ、役に立てる事があっただけです!」
慌てている姿が可愛らしい。
「ゴホッゴホッ...」
喉に詰まるような激しい咳が聞こえた。
私は隣で眠る少女の様子を確認すると、相変わらず荒い呼吸を繰り返している。あまり状態は良くなさそうだ。急がないと。
そんな中、心配そうに妹を抱きしめている男の子は簡単に自己紹介をしてくれた。
兄はライ、妹はアリアだと名乗った。15歳と7歳の兄妹で、教会の孤児院で暮らしている。アリアは、数日前に咳をし始めて、あっという間に高熱で寝込んでしまったそうだ。
話し終えたライは、アリアを抱きしめて黙り込む。その姿が痛々しかった。
私もリングドン様に簡単な経緯を説明していると、程なくして馬車は教会へと到着した。