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2-43

 使用人に連れてこられた部屋は倉庫として使われている建物の屋根裏部屋だった。


「俺たちだってあんたに頭にきてんだからな。」


「リリー様の薬草を持っていくなんて。あれは村の子供達の流行病の薬に使うものなんだぞ。」


「子爵様が帰って来たら、おまえらなんかさっさと追い出されればいいんだ。」


使用人達は乱暴にドアを閉めると、外側から鍵を掛けた。




「さて、どうしようかな。」

私は窓に近づいて外を確認する。

ここは最も森に近い東側の倉庫で、窓から見渡す限り人の気配は無い。



「このままここから脱出出来るけど。」

 この部屋唯一の窓は私でも簡単に開けることが出来た。

魔法を使えば難なくこの窓から外に出ることは出来る。でも、このまま外に出て薬草の誤解を解いたとしても、所長側に有耶無耶にされて終わってしまう気がする。それにリリーさんの思惑も分かっていない。


そもそも私は今回のことを穏便に解決する気は無い。アルト家に喧嘩を売ったのだ。必ず後悔してもらう。




「ふふ。こんなに早く役に立つなんて。」

 私は左足首のアンクレットを外した。

アンクレットには花の蕾の形を模した小さな魔鉱石が付いていて、黒の中に光が混じった複雑な色彩を放っていた。

私はアンクレットにゆっくりと魔力を流す。

魔鉱石の蕾が魔力に反応して大輪の花を咲かせた。

私の手のひらいっぱいに広がる花弁にはいくつもの名称が書かれている。私がその一つに触れると花から光の粒子が現れ、やがてそれは便箋とペンに姿を変えた。


「じゃじゃーん。」

私は花から出て来た便箋とペンを満足げに掲げる。

この場に誰もいないのが少し悲しい。


 この魔道具は、アルト商会魔道具部門で、まだ秘匿にされている魔道具の一つだ。

亜空間魔法を魔道具化し、物を自由に出し入れ出来る。

初めはポシェット型を提案したけれど、可愛くないとレイズに大反対され、今の型になった。ポシェットに手を入れて亜空間の中を探っている姿が間抜けだったらしい。

お父様に厳重管理を厳命されている魔道具だったけれど、今回は内緒で持ってきていた。他領に滞在する為の持ち物は思った以上に多かったため、馬車での移動には役に立った。



 あの日、私は妖精に攫われ、ただ助けを待つ事しか出来なかった。ウィルが助けに来てくれなければ今も森から帰れていたか分からない。

あの時に私は何事も備えが必要だと学んだ。

備えが無ければ、立ち向かうことも出来ないと。

それから私はこの魔道具を常に身に付けることにした。いつ何があっても良いように。

こんなに早く使うことになるとは、私も予想外だったけれど。


 私はまず先程出した便箋とペンでリーン先生とヘンリーに手紙を書いた。

私の状況と今後について書いた手紙を風魔法で2人へ送る。



「さて、まずはこの部屋から始めようかな。」

私がいるこの屋根裏部屋は物は殆どなくただ広い空間が広がっているだけだった。


「これなら色々置けそう。」

私はこの部屋を住み心地のいい空間に変えることに決めた。


子爵が帰って来るまで7日間、所長達には少しずつ後悔してもらいましょう。


私は今から始まる籠城戦に勝利の笑みを浮かべた。






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