*ウィルフレイ視点 2
「ウィルフレイ君、約束は覚えているよね?」
「もちろん覚えていますよ、アルト子爵。」
「良かった。私はね、リルメリアが幸せなら何でもいいんだよ。だから忘れないでね。」
僕は子爵に見送られ、子爵家の屋敷を出た。
思い出すのはあの日、アルト子爵家を初めて訪問した日だ。
リルメリアに会う前、僕は子爵に呼び止められた。
「久しぶりだね、ウィルフレイ君。お兄さん達も元気でいるのかな?」
「はい、兄達は寮生活ですので今はあまり会えませんが、こまめに便りを送ってくれています。」
何気ない挨拶がわりの会話に、所々探りを入れられているのを感じる。
下位貴族とはいえ、国内最大の商会を持つ子爵に今の僕が太刀打ち出来るはずがない。
けれど、リルメリアと同じ色の瞳がどことなく安心感をもたらしてくれた。
「ちゃんと節度ある行動をしてね。」
子爵が唐突に話題を変えた。これが本題らしい。
「どういう意味でしょう。」
「だからね。リルメリアが君を気に入ってるのは分かってるんだ。楽しそうに手紙の遣り取りをしていたよ。でもね、まだ早いからね。」
「僕はリルの側にいたいと思っています。」
「それは君とリルメリア次第かな。アルト家は政略的な意味での他家との繋がりは必要ないからね。」
アルト子爵が不敵に笑う。まるでここまで登ってこいとでも言うように。
馬車の窓から見える景色を眺めながら、僕は以前の子爵との会話を思い出していた。
でも、あの日出会った宝石を僕はもう手放すことは出来ない。
「誰よりも側にいたい。」
僕は輝き出した空の星に彼女との未来を願った。




