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「リルメリア様!」
ダリア様の面会から戻ってくると、ロバートが焦った様子でこちらに駆けてきた。
「ロバート、どうかしたの?」
「は、はい。アイゼン司祭が、急いで来て欲しいと。神の泉の様子が、おかしいみたいで。」
ロバートの報告を聞いて、私は泉に急ぐ。
私が帰国してから、まだ一度もシロに会えていない。
何度も泉に通ったけれど、シロの姿はどこにもなかった。
シロ...。
どこにいるの?
綺麗に剪定された並木道を抜け、私は泉の入り口まで駆ける。泉に続く石畳の前では、レーグ様とアイゼン司祭が待機していた。
「レーグ様!」
「急に呼び出してすまない。泉から常に感じていた神力が、弱まっているようだ。」
「何かあったのかもしれませんね。私、行ってきます。」
「頼む。何かあれば、直ぐに呼べ。この程度の神力なら、私でも近付ける。」
「はい。」
私は泉に向かって、石畳に一歩を踏み出した。
確かに、シロの力が弱い。
いつもなら、この石畳を境に空気がガラリと変わるのに。
そこから私は、泉まで一気に駆けた。
「シロ!シロ!どこですか?返事をして下さい!」
泉の中をゆっくり進みながら、大声でシロに呼びかける。
いつもは温かい泉の中が、今日はとても冷たい。
私は、少しでも温もりを感じる方へ足を向けた。
光が差し込む場所は、仄かに温かい。ここは、シロの力がはっきりと感じられた。
「リルメリアちゃん...。」
光の中から、微かにシロの声が聞こえた。
「シロ!大丈夫ですか!?」
「うん。世界のヤツが、リルメリアちゃんから僕に標的を変えてきたんだ。直接僕をこの世界から排除しようとしてるんだよ。」
「それ、大変なことなんじゃ...。」
「うん。ちょっと、まずいかも。今は何とか抵抗しているところ。でもこのままだと、リルメリアちゃんとも話せなくなっちゃう。」
この世界にシロがいなくなれば、いずれ世界は滅んでしまう。
何か、方法はないの?
「私、シロのために何か出来ませんか?」
「ありがとう、リルメリアちゃん。でもリルメリアちゃんがいる内側からは、世界を止めることは出来ないんだ。リルメリアちゃん自体が、この世界の一部でもあるからね。大丈夫、僕が必ず、何とかする。絶対に、この世界を諦めたりなんてしない。」
「シロ...。」
シロの声が、力が、どんどん小さくなっていく。
このままじゃ、本当に...。
私、何も出来ないの?
なんて私は、役立たずなの。
ウィルも助けられない。
何か...、何かないの?




