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「そ、そんな事出来るわけないでしょ!貴方を置いて行くなんて!」
私は激しく首を振って拒絶する。
「リル。このままじゃ、間違いなく全員死ぬ。私達だけでは、今のダリア様に勝てない。だから、リルにはこの状況を外に知らせてほしいんだ。」
「それなら、私が残る!世界が排除したがっているのは私だもの。私が囮になるわ!」
私のために、誰かが犠牲になるなんて絶対に嫌!そんな事になるぐらいなら、私が...。
「バカな事を言うな!」
ウィルが、私の両肩を掴んで怒鳴り声を上げた。
「君を失わないために、私は全てを賭けたんだ。リルは、諦める事ばかり考えていた私が、初めて欲しいと手を伸ばした存在なんだよ。だから絶対に、君は死なせない。」
ウィルが、胸元から懐かしい小瓶を取り出した。それは幼い頃、初めてウィルにあげた回復薬だった。
それ、まだ持っていたの?
お守りのつもりであげた試作段階の回復薬。
今のものよりずっと効果は薄いものなのに。
長い年月を経て、小瓶に結んであった白いリボンは、燻んだ黄色に変色していた。
ウィルは小瓶の蓋を開け、中身を一気に呷る。
そして顔を寄せると、私の口に自身の唇を重ねた。
「...んっ。」
こじ開けられた唇から、清涼感のある液体が喉に落ちる。
すると直ぐに、私の体から痛みが消えていった。
「ダンジョンの効果はもうない。ルーイ先生を見つけて、早くここを出るんだ。先生とリルなら、転移魔法を外まで繋げるはず。」
ウィルは、二本目の小瓶を私の手に押し付けた。
「ウィル、私は、まだ...。」
「あ!見つけた!」
弾むような声が聞こえて、私の肩がビクリと跳ねた。
「良かった!あれで死なれちゃつまらないもの!ウィルフレイ様にも私が活躍する所、いっぱい見て欲しかったのよ!」
まるでゲームでも楽しむかのように、上機嫌ではしゃぐダリア様の背には、血のような真っ赤な羽が、空に向かって広がっていた。
「ぐっ、逃げて、下さい。メリア、お嬢様。」
微かに聞こえた呻き声に、私の視線が自然と下がる。そこには、折り重なるように二つの影が転がっていた。
「ライ!デル!やめて、ダリア様!」
ダリア様に掴まれたライは、頭から血を流してグッタリとしている。
助けに行こうと駆け出した私の腕を、ウィルが強く掴んだ。
「フフ、この男の目、私とお揃いで嫌だったの。殺す前に、抉り出そうと思って!見たい?」
「そんな事、絶対にさせないわ。」
私はウィルの腕を払って、聖弓に浄化の矢を番えた。




