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「リル、本当に行くの?」
シロが消え、光がなくなった空間に、ウィルが魔道具の灯りを灯した。
「うん。」
「それは...、私がダリア様を止めると言っても?」
「うん。」
「リル...。ダリア様のあの姿は、私の罪の形でもあるんだ。彼女を止めなきゃいけないのは、私なんだ。」
ウィルが両目に手を当て、力無く俯いてしまった。
「ウィル、もし貴方がダリア様を止めたとしても、世界はまた私を排除しようとするはずよ。」
世界はきっと、変化を拒み続ける。そして、神アランティウスの帰還を待つのだろう。
それは、世界と聖女達の永遠の戦いを意味する。
それを終わらせる手掛かりが、もしダリア様にあるのなら...。
私とダリア様が出会った意味も、また違うものになる。
「私はもう、失いたくないの。私のように全てを失ってしまう経験をリルメリアにさせたくないの。」
「リル...、君は、何を言って...。」
その時、天井が激しく揺れる。亀裂が入った場所から、ガラガラと岩が崩れ落ちてきた。
私達は、壁沿いに安全な場所を目指す。
あっ...、この魔力は...。
壁に触れた手から、蛇のように這い回る魔力を感じた。
「ウィル、気付かれたみたい。ダリア様の魔力が、近付いてくるわ。」
「ここで見つかるのはまずい。このまま走り抜けよう。行くよ、リル!」
「うん!」
先の通路に入ると、私達は走り出した。
私はウィルの後ろで、彼の背を追う。
「リル、私はそれでも、君には戦って欲しくない。傷付いて欲しくない。これは、私の我儘だ。だから私は、ダリア様と本気で戦うよ。」
前を走るウィルの顔は、見えない。
今、ウィルがどんな表情で話しているのか、私には分からない。
私はただ、この狭い通路を全力で走り抜けた。
少しの間走ると、足元が慣らされた道に変わったことに気付いた。
けれど、灯りはウィルが持つ魔道具だけのため、周りを確認するほどの光源はない。
でも、間違いない。
空気が変わった。
枯れかけていた体力が、元に戻ったのを感じた。
「ダンジョンに、戻った?」
「うん。そうだね。どうやらダンジョン内の全てが、ダリア様の魔力に掌握された訳ではないらしい。」
私は立ち止まると、体内の魔力を探った。
うん、魔力の減りもない。
体に違和感もない。
大丈夫。
「リル、この先に何かある。行ってみよう。」
ウィルが差し出した手を握り、先へ進むと光が見えた。
「みぃーつけた!」




