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周りを覆う光が消え始め、体に重力が戻ってくる。視界が鮮明になるのと同時に、私の足が地面に付いた。
するとすぐに、騒めく声が耳に届く。
視線を上げた先には、久しぶりに見たアーレント王国の重鎮が揃っていた。
「リルメリア嬢、この度の来訪、心より感謝致します。そして、アーレント王国の不始末に巻き込んで、すまない。本当に申し訳ない。」
列の先頭に並んでいたアルバス様が、両膝を突いて深々と頭を下げる。地面に突いた彼の膝が、土で汚れてしまっていた。
アルバス様に続いて、アーレント王国の重鎮達も膝を突いていく。
でも、納得していない人も多いみたいね。
貴族のくせに感情を隠しきれないなんて。
「謝罪は結構です。アーレント王国からは、如何なる謝罪も受け取りません。でも...。」
私はアルバス様の前に屈む。
「友達の頼みなら頑張ります。報酬は奮発して下さいね。」
アルバス様の見開かれた深い海の瞳と目が合う。私はにっこり笑って彼の手を取った。
「そうだね。貴女はそういう人だ。ありがとう。」
アルバス様が、私の肩までになった髪先に触れた。
「髪を切ってしまったのかい?あんなに綺麗な髪だったのに。」
「ふふ、これ、アルト商会の新製品です!髪の色や長さが、自由に変えられるのですよ。アルバス様もぜひ!おすすめです!」
私は軽くなった髪を掻き上げて、耳に付けたイヤリングを見せた。
「ククッ、そうか。それは、お忍びに丁度良いな。隠れて、貴女に会いに行ける。」
耳元で囁かれたアルバス様の甘い一言が、一瞬、私の体の自由を奪った。
「こっちだよぉー!」
シロは鼻をヒクヒクさせて、アーレント王国の王宮内を進む。
私達はその後ろを、言われるままに着いて行った。
揺れる真っ白な尻尾が可愛い!
チラチラと私との距離を確認するシロを見ていると、顔がニヤケそうになった。
しばらく私達は、シロの後をゆっくりとついて歩いた。
そして辿り着いたのは、王族専用のプライベートエリアだった。
「神獣は、何を追っているんだい?」
「シロは、ここに流れる神の力を探っているようです。この先にきっと、入り口があるのでしょう。」
「そうか。」
何かを考え込むように、アルバス様は黙ってしまった。
普段であれば、決して入ることが出来ない王族専用の空間へ、シロは構わず進んで行く。
そして、いくつかの部屋を通り過ぎると、薄暗い部屋に入った。
その広く長い部屋の壁には、歴代の王族の肖像画が掛けられている。入り口付近にはアルバス様の肖像画もあった。
「はいはい!あったよぉー!ココだよぉー!」
数々の肖像画に目を取られていた隙に、シロは随分と先に行ってしまっていたらしい。
私は早足に、シロの下へ向かった。
シロは部屋の終わり、大きな肖像画の前にいた。
私はその肖像画に目を奪われる。
ブロンドの髪と快晴の空の瞳を持つ男性が、胸を張ってこちらを見下ろしていた。
20代半ば頃の絵だろうか。
その目を引く美しい姿に、ウィルの面影が重なった。




