7-18
「アーレント王国の王都を、結界で覆い尽くして頂きたい。貴女がたには、ただそれだけ協力願いたい。」
先程まで瞳に籠っていた熱を消し去ったウィルは、無表情で私を見つめる。
「それは、王都を捨てるということですか?」
私の質問に、ウィルは黙って頷いた。
「今、国をも越えて民に被害を出している魔力枯渇は、アーレント王国の王都が発生源です。王都を強力な結界で封印してしまえば、問題は解決するはずです。」
「貴方は、原因を知っているのか?」
レーグ様がソファに深く座り直して、首を傾げる。
「はい、王太子殿下が倒れる前に、教えてくださいました。元凶が王都にあります。」
「そうか。それは全てを知った上での判断なのだな?」
「はい。」
二人の会話に、私は疑問を持った。
原因を知っているウィルはともかく、なぜレーグ様はこれで納得出来るの?
私が疑問を口にしようとした時、フワリと膝に温かな体温を感じた。
「それはムリぃー。結界程度で封印なんて出来ないよぉー。やるなら空間ごと切り取るぐらいしないと!」
「シロ!」
「リルメリアちゃん!最近、僕のことすぐ置いてくー!メッだよ!」
シロが、前足で私の鼻を押した。
一瞬、シロのあまりの可愛さに意識が蕩けそうになったけれど、首を振って自我を保つ。
でも、ちょっと危なかった。
シロのフワフワなお腹に、顔を埋めるところだった。
「シロ、貴方は何か知っているのか?」
「うん。リルメリアちゃんには話したんだけど、あの国の下にはダンジョンがあるんだよぉー。」
「ダンジョン?」
レーグ様もウィルも、訝しげにシロを見ている。
「あ、あの、ダンジョンは、神の力が介在した世界のシステムみたいなものだそうです!ね、シロ?」
異世界人を聖人や聖女として呼び寄せている事とか、世界が終焉に進んでいる事なんて、さすがに話せない。
私はシロを押し退けて、詳しい事を暈しながら説明した。
「あのダンジョンはねぇー。神の力を使った装置の中で、無駄の無い最高傑作なの。リルメリアちゃんでも、簡単には止められないよぉー?」
「では、今回のことはダンジョンの暴走なのですか?」
「ダンジョンは完璧なんだってば!暴走なんてしないよぉー!どうせ、どっかの誰かが、しょうもない事でもしたんでしょー。違う、使者君?」
シロが自慢の長い尻尾を揺らしながら、前足をウィルに向けた。
私もそれにつられてウィルを見る。
「何を知っているのですか、使者様?」
「それは...。それは、リルには関係のない事です。王都を封印出来ないのでしたら、結界は長く保たせる必要はありません。その間に我々が元凶を排除します。それで問題は解決するはずです。」
私には関係ないか。
私を突き放したくせに、今更求めてきて。それなのに、結局は拒否する。
本当にウィルが理解出来ない。
私は肘掛けにもたれて、目元を手で覆った。
「リル、私は君に、傷付いて欲しくないんだ。」
何を今更...。
私の耳に届いた言葉が、皮肉にも私の決心を固めた。




