7-13
私が大量の報告書に目を通し終えた頃、レーグ様とノルンが、長い視察から戻ってきた。
私はすぐに二人を捕まえると、有無を言わさず執務室へ連行した。
「何だ、やっと気付いたのか。思いの外、遅かったな。」
「リルメリア様なら、すぐに首を突っ込んでくるかなって思ってましたが、今回は意外と大人しかったですね。」
ちょっと、私、酷い言われよう...。
心配してくれてたんじゃないの?
私の口角が機嫌と一緒に、一気に下がった。
「それで!お二人は今までどちらに?」
私は腕を組んで、二人を睨む。
「「アーレントだ(です)。」」
「は?」
ピッタリと揃った二人の返答に、私は口をポカンと開けてしまった。
「今まで私達、変装してアーレントに潜入してたんですよ!中々味わえないスリルでした!」
ノルンはともかく、レーグ様が変装!?
イヤイヤ、絶対に無理でしょう!隠せないでしょう、この神的造形美は。
私は疑いの目を、レーグ様に向けた。
「アルト商会の協力を得たからな。私もバレずに潜入出来たぞ?アーレントの状況も大体把握したしな。」
「そうですか!では、早速私にも、最初から、説明をお願いします!」
私は不機嫌のまま、二人に向き合った。
そんな私に、レーグ様は肩を竦めると、徐に話を始めた。
「調査のきっかけは、貴女も知っている通り、アーレントの片田舎からの報告だ。しかし、調べてみると、全ては王都から始まっていた事が分かった。アーレントの王都民から始まり、少しずつ近隣に広がっていったようだ。」
「王都ですか。原因は分かったのですか?」
「いや、原因までは分からん。症状が出た王都の民は、比較的貧しい者や孤児だ。そのためか、王都ではあまり騒がれていなかった。それが原因究明が遅れている理由だな。だが、王都も地方も少しずつ発症者は増えている。地方領主の中には、危機感を抱いている者も少なくない。」
「いずれ、この国にも発症者が出る可能性がありますね。アルバス様から連絡はありましたか?」
「今の所はないな。あれだけまめに貴女に会いに来ていたからな。どうした?寂しいのか?」
「もう!レーグ様、ふざけないで下さい!と、とにかく、対策を考えましょう!」
気持ちを切り替えて、私は積み上がった報告書をもう一度手に取った。
「リルメリア様、もし、ご自身であの国を確かめたいのであれば、私達は協力しますからね。」
ノルンのおずおずと窺うような言葉が、私の耳に届いたのとほぼ同時に、後ろから力強く抱きしめられた。
「ノルン司祭、メリアお嬢様はアーレント王国には行きませんよ。余計な事を言わないで下さい。」
殺気が籠ったライの声が、この場の空気を凍てつかせる。
「ライ、落ち着いて。アーレント王国に行く時は、自分の意志で行くから大丈夫よ。ありがとう、心配してくれて。ノルンも気遣ってくれてありがとう。」
「行くのですか、お嬢様?」
私を抱き留めたまま、ライが心配そうに顔を覗き込んできた。
「うーん、どうかな。今はまだ、分からない。」
私は穏やかな風が入り込む窓の外へ、視線を向けた。




