7-11
最近の教会内は、どこか落ち着きがないように思う。吉報も凶報も私には届いていないし、直近で開催される行事もないのに。
何かが起こったのか、それとも何かの前触れなのか。
漠然とした不安が、私の中に渦巻いていた。
「ねえ、最近何か変わった報告は来ていない?」
薬の在庫を確認しに来た私は、調薬室で仕事をしているデルとアリアに声を掛けた。
「そうですねえ。ちょっと変な症例の噂はありましたよ?ですよね、ディレイルさん?」
「ああ、なんでも、急激な魔力枯渇に陥る人が複数確認されたらしい。」
アリアとデルが薬作りの手を止め、伏せていた顔をこちらに向けた。
「そんな報告、魔法士ギルドからは来ていないわ。」
「いや、魔力枯渇を起こしたのは、魔法士じゃなくて、比較的魔力の低い市民らしいんだ。まあ、噂程度にしか上がって来てはいないんだがな。丁度、俺達も調べてみるか相談してたところなんだ。」
噂程度なら、偶然の可能性もある。でも何だろう。釈然としない。
「レーグ様とノルンがずっと不在なのよ。お父様に相談してみようかしら。」
コンコン
「メリアお嬢様、アイゼン司祭がお見えですが、いかが致しますか?」
「ありがとう、お通しして。」
ライがドアを開けると、アイゼン司祭とその側付きの神官が入ってきた。
「こちらでしたか、聖女様。」
「アイゼン司祭、どうかしましたか?」
私の前では、いつもニコニコしているアイゼン司祭が、思い詰めた表情で立っていた。
「正直、聖女様にお話しするのは尚早かと迷っておりましたが、あまり猶予がない気がしましてな。老耄の勘は、意外と当たるのでございますよ。」
「それは、最近、頻繁に出入りしている司祭達のこと?」
この頃やけに、中央教会の政務部では、見覚えのない司祭や上級神官を目にしていた。
「気付いておられましたか。実は彼らは、赴任先の報告に来ているのでございます。まずはこちらを。」
アイゼン司祭の後ろに控えていた神官が、木箱から沢山の手紙を取り出した。
私はその一枚を手に取ると、裏返して封蝋を確認する。そこには懐かしい家紋が押されていた。そしてそれは、他の手紙も同じだった。
「アーレント王国の貴族やその周辺国からのものですね。」
「はい。」
神妙な面持ちで、アイゼン司祭が語り始める。
「三ヶ月程前になります。アーレントの小さな地方教会から伝手を頼って奇妙な手紙が届いたと、ニセンの教会に赴任している司祭から連絡があったのです。」
その手紙をアイゼン司祭は、私に見せてくれた。
「小さな村で一人また一人と、村人が魔力枯渇で倒れていったそうです。初めは、伝染病を疑ったと。しかし、数日経つと何事もなく、皆が回復していったそうなのです。」
私は、先程聞いたアリアとデルの話を思い出した。近くにいた二人も同様に、息を呑んでいた。




