*レディアス(アーレント王国王太子)視点 1
「レディアス、アルバスから話は聞いたな?」
「はい、陛下。」
ここ数日で、陛下は大分お窶れになった。
無理もない、あんな話を聞かされたのだから。
聖女様から告知された聖火の消失。
それは、この国の終焉と同意義でもあった。
このままでは、陛下か私が、この国の最後の王となるのだろう。
「レディアス、余は、聖女の提案を受け入れる。今はそれ以外に道は無い。」
「では、魔鉱山を聖女様に献上なさるのですね?」
「ああ、魔鉱山は惜しいが、仕方ない...。今は...。」
頭を抱えた陛下の肩が震えている。
我が国最大の魔鉱山を失うのは、確かに痛手だ。しかし、この国が助かるには、もうそれ以外に道はない。
私は、我が子に美しく安全なアーレント王国を託したい。
あの子が、幸せに生きていける国を残してあげたいのだ。
「英断でございます、陛下。今後の雑務は私が引き継ぎますので、陛下は少しお休み下さい。王妃殿下と湖畔の離宮にでも、行かれてはどうでしょう?最近は、お二人の仲を心配する者も多くいます。」
「そうだな...、すまない。お前には、苦労を掛ける。」
「いえ、私も罪を犯した愚か者ですから。」
自分の情けなさに、乾いた笑いが出る。
願わくば、いつか聖女様に謝罪がしたい。
凡庸な私の、矮小な野心の懺悔と共に。
それから私は、アルバスと共に聖女様の希望に沿うよう奔走した。
途中、小煩い貴族も湧いたが、アルバスが容赦なく蹴散らした。
アルバスは、私とは違い優秀な男だ。アルバスの方が、きっと私より良い王になるだろう。しかし、アルバスは聖女様の側にいることを選んだ。ならば、兄として応援しよう。
今度こそ、私に出来る正しい事を。
無事に魔鉱山の譲渡書を完成させ、アルバスを聖女様の下へ送り出した。
これからは、もっと忙しくなる。
私は決意を新たに、民からの嘆願書に目を通していた。そこへ、暫く無かった陛下の呼び出しを受ける。
陛下は結局、王妃殿下と共に過ごすことはしなかった。決定的な亀裂が、お二人に入ってしまったのだろう。
私は手を止め、陛下の下へ向かった。
久しぶりに入った陛下の私室。幼少期以来、足を踏み入れていなかった父親の私室は、記憶とあまり変わっていない。
けれど、あの頃と比べてどこか寒々しい。
「レディアス、付いて来なさい。」
無表情の陛下が、私室の先を示す。
私は無言で陛下に続いた。
歴代の王やその子供の肖像画が並ぶ長い回路を越えると、突き当たりに初代国王の一際大きな肖像画が見えてきた。
この回路は、初代国王の血族のみが入ることを許された場所。私が来たのは、いつ振りか。
「レディアス、これは歴代の王にのみ、伝えられてきたものだ。」
そう言った陛下は、初代の肖像画に触れる。
陛下の王印が刻まれた指輪が、星の瞬きのように光り始めた。




