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アーレント王国へ浄化の花カタルシスを送ってから数ヶ月が経った。
アルバス様からの報告では、順調にその数を増やし、魔物から人々を守っているそうだ。
これからは、各領主と協力してカタルシスを守り育てていくことになる。
聖火に代わる浄化の花は、アーレントの国民に無事、受け入れられたようだ。
私はアルバス様からの報告書を戻し、温かな日差しが入り込む窓辺へ顔を向ける。
「ねえ、シロ。」
「んー?なあに、リルメリアちゃん?」
日当たりの良いソファに、寝そべっていたシロが、のそりと頭を上げた。
「アーレント王国の下には、ダンジョンがあるのですよね?それは壊せないのですか?」
ダンジョンを壊してしまえば、魔物は生まれなくなるかもしれない。
もしそうなら、今後、聖火や花に頼る必要も無くなる。
「でもぉー、それだと、あの国が森に覆われちゃうよぉー?」
「森?」
「うん。この世界は不変だから、生態系って変わらないんだよぉー。だから森はずっと森だし、川や湖が枯れることはないのぉー。」
え?
じゃあ、ダンジョンの本当の役割って...。
「ダンジョンは森の生命力を吸って、魔物へ変換してるんだよぉー。それでね、魔物が死ぬと、その魔力が大地の表面に積もって、豊かな土地になるんだぁー。良いシステムでしょ?」
新しい国や領地を作り出すために、異世界人が考案したシステムか。
でも、どうして魔物を?
「リルメリアちゃんは、その国に行かなくていいのぉー?カタルシスあげたんでしょー?リルメリアちゃんの作った花が沢山咲いてる所、僕も見たいなぁー。あと、ダンジョンにも行ってみたい!」
シロは、ウルウルと目に涙を溜めて、おねだりのポーズを取る。
最近、これでお菓子を貰えることを知ったシロは、色んな人にやっている。
神様なのに。
「私、アーレント王国には行きたくないのですよ。知っているでしょう?」
「でもダンジョンあるよぉー?あそこのダンジョンは、最大級なんだよ!凄いんだよ!」
そもそも、ダンジョンって何?
「え?リルメリアちゃん、ダンジョン知らないの!?迷宮を攻略して、ボスを倒していくダンジョンだよ!?宝箱とか不思議部屋とか、ロマンが詰まったあのダンジョンを知らないの!?」
「え!?それって、ゲームとかに出てくるダンジョンですか?」
「そうそう!あっ!ダンジョン作った子、リルメリアちゃんと同郷だ!リルメリアちゃんが持ってる聖剣使って、本人も遊んでたよぉー。楽しそうだったなぁー。まあ、今は冒険者ギルドが廃れちゃって、ダンジョンも忘れられちゃったんだけどねぇー。残念。」
聖剣か。
私は、ネックレス型に変えた亜空間魔道具に手を当てる。
今、聖剣はこの中だ。
私の意思を汲み取ってくれる聖剣のおかげで、素人の私でも驚くほど俊敏に剣を振ることが出来た。
けれど、体力までは増強出来ないため、普段運動不足の私には実戦は向かない。
「練習出来るよぉー?あの中では、絶対死なないから!」
「え?」
「ゲームを忠実に再現したって言ってたぁー。セーブポイントもあるよぉー。」
はい!その人、間違いなく同郷です!
興味を引かれた私の心は、ソワソワと落ち着きを失ってしまった。




