*アルバス視点2
歩き慣れた王宮の廊下が、ここ数年でどんよりと暗く、そして澱んできている気がする。
少し前までは、温もりと華やかな空気に包まれていたというのに。
理由は彼女が教えてくれた。
神の加護の消失。
もうすぐ希望が消える。
しかし、ただ見ているだけで終わらせはしない。
金の装飾が施された巨大な扉の前で、私は一度足を止める。
ニセン王国から帰国後、私はすぐに陛下へ謁見を申し込んだ。しかし、それが伝わっているはずの近衛騎士に、扉を開ける気配がない。
「何をしている。開けろ。」
「そ、それが、突然、王女殿下がいらっしゃいまして。どういたしましょうか?」
ダリアが?
聖女ではないと否定された日から、ダリアはずっと私室に引き篭もっていた。そして、シルヴァンフォード公爵を継いだ彼に会いたいと騒いでいた。
その狂気じみた暴れ方に、多くの側仕えが辞めている。
ダリアは、どんなに周りが諌めても、俯いて泣くだけ。たまにやる気を見せても、彼女に対する否定的な言葉が聞こえれば、すぐに城へ逃げ帰っていた。
やる気の無い王女に、力の無い聖火。
人々は段々とダリアへの期待を捨て、増える魔物被害に不満を募らせていった。
そんなダリアが陛下に謁見?
私は謁見室の大きな扉を少しだけ開け、魔法で音を拾う。
「お父様!王妃様が酷いんです!あんな意地悪な人が、お義母様なんてイヤッ!みんな、みんな、私を虐めるんです!私が認められなかったから...。お父様、お願いです!私をシルヴァンフォード領へ行かせて下さい!ウィルフレイ様なら、彼なら私を大事にしてくれます!それならきっと聖火もまた扱えるようになります!昨日の練習だってウィルフレイ様の事を考えたら、いっぱい聖火を出せたんですよ!」
「ダリア、その件は何度も話しただろう。シルヴァンフォード公爵からは、ダリアとの婚姻をはっきりと断られている。」
「だったら!お父様が命令して下さい!王様の命令なら、公爵になった彼でも断れないでしょ!」
「ダリア様、既に陛下は、公爵に対して勅命に近い書簡をお出しになっているのですよ。ですが、資金援助の打ち切りを持ち出され、きっぱりと断られてしまったのです。」
「宰相の言う通りだ。今、シルヴァンフォードに資金援助を切られれば、魔物対策の費用も危うくなる。諦めろ。シルヴァンフォードにお前を娶る気は無い。」
「嘘、嘘よ、嘘!リルメリアは、もういないのよ!あの女は逃げ出したの!なのに、なのに、どうして...。どうしてなのよ!」
「落ち着け、ダリア!ああ、なんと見苦しい娘だ。」
「うるさい!そんな事言っていいの、お父様?私が聖火を出さなければ、この国はもっと酷い事になるのよ?ねえ、宰相もそう思うでしょ?」
ダリアの薄ら寒い脅し文句に耐えかね、私は扉を大きく開けた。




