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気を少しでも抜いたら叫び出してしまいそうな心を理性で押さえ込み、私はアルバス様のエスコートで、ニセン王宮の端、寂れた離宮へ向かっていた。
アルバス様の腕を掴んでいる自分の手が、やたらと熱い。ちゃんと真っ直ぐ歩けているのかも怪しい。
だって仕方ないじゃない!
あんな!あんな!あんな、切ない愛を囁かれて平然としていられるメンタルなんて持ち合わせていないわ!
激しい心臓の鼓動で、おかしくなってしまいそう。
「リルメリア嬢。」
「は、はい!」
突然、名前を呼ばれて、声が裏返ってしまった。
「ククッ、大丈夫だよ。気持ちを返して欲しい訳ではないから。しかし、嬉しいな。やっと貴女に意識してもらえた。」
少しだけ寄せられた顔には、嬉しそうに歪められた瞳があった。
「さあ、着いた。貴女の華麗な勝利宣言を楽しみにしているよ。」
私は赤くなった顔を隠して、アルバス様の背を追った。
「アルバス殿下!我らをこんな場所に連れてきて何のつもりですか!?」
「そうですよ!お茶すら出さないなんて、なんて非常識な国なの!」
「お父様、お母様、おやめ下さい!私は殿下のお力になるために、ここまで来たのです!殿下、私頑張ってお仕事をお手伝い致しますわ!ですからどうか私をお側に置いて下さい。」
アルバス様の影からディナータ侯爵達の様子を窺う。
この寂れた離宮は、彼らのお気に召さなかったようだ。
私が呼び寄せたとはいえ、ディナータ侯爵家は、ニセン王国と敵対していたバレントの王族を支持していたのだから、ここで歓迎される訳がない。
まあ、お茶菓子一つ出さなくていいと言ったのは私なのだけど。
どうやら彼らの怒りもピークのようだし、私もそろそろ行きましょうか。
私はドア近くで待機していたライとローズを呼び寄せた。
「お久しぶりですね、ディナータ侯爵。あら?顔色が悪いですよ。お疲れなのかしら?」
「あ、貴女は...。」
突然の私の登場に、怒りに震えていた侯爵の肩が一瞬止まる。私の存在に全く気付いていなかったらしい。
私はそんな侯爵に挑発を続けた。
「まあ、お座りになって?歓迎はしませんけどね。どうしてもと言うなら、お茶ぐらいは出しますが。」
「結構だ!」
顔を真っ赤にした侯爵達が、古びたソファに座る。
すると、音もなく現れたニセン王国の侍従が、私とアルバス様用に優美な椅子を用意する。
アルバス様のエスコートで、私は優雅にそこへ腰を下ろした。
「聖女殿、いったいどういうつもりですか?貴女が我が領地を奪い取るとは。」
侯爵は声を震わせながら、私を睨みつける。
「奪い取ったとは酷いわね。私は正規ルートで買い取ったわよ?だからもう、あそこは私の土地。そうでしょう、アルバス様?」
「その通りです、聖女様。」
アルバス様が私に対し、恭しく頭を下げる。
「だ、そうよ?」
アルバス様の返答に、私は大満足の微笑みを浮かべた。




