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「浄化の花、カタルシスを提供しましょう。但し、お渡しするのは花と栽培方法だけです。実際の育成はそちらで行って下さい。」
「今、世界を魔物の脅威から救っている花だね?」
「その通りです。見返りとして元レブロン公爵領にある魔鉱山の権利を要求します。あの領は王家預かりになっていますよね?」
「我が国の最大魔鉱山だよ?それをリルメリア嬢は欲するんだね?ディナータ領のように。」
「はい。出来ますか、アルバス様?」
「分かった、必ず...、必ず陛下に了承させるよ。」
アルバス様は難しい顔をした後、しっかりと頷いた。
「少しアーレントの話をしてもいいかな?」
おずおずと話を切り出したアルバス様に、私は黙って頷く。
「魔物の国内出没域が変わってきているんだ。最近は辺境だけでなく、内地でも目撃されるようになった。しかも聖火は殆ど効果がない。討伐隊を組んで数を減らしてはいるが、大型の魔物まで現れるようになってしまった。」
アルバス様が語ったアーレント王国の現状は、ルーイ先生とした予想の通りだった。
アーレント王国がある場所には、魔物を生み出すダンジョンがあるのだとシロは言っていた。
もし、聖火がダンジョンの蓋の役割を果たしていたのなら、今後益々魔物が増えることになる。
私はアルバス様に、聖火が有限だった事実を話した。
「そうか。何となく、そのような気はしていたんだ。私達は神の加護を見誤ってしまったようだね。」
「このまま何もしなければ、魔物はアーレント王国を消し去るでしょう。アルバス様、今の王家に、国を守る力と覚悟はありますか?」
「胸が痛くなる質問だね。はっきり言って難しいだろう。王家はこんな状況になっても、自分の利益しか考えていない貴族を抑えきれないのだから。」
でも、と言って、しっかり顔を上げたアルバス様の瞳には覚悟があった。
「私は最後まで民の盾になるつもりだ。幸い兄上も目を覚ましてくれた。我が子の未来を守りたいとね。だから抗ってみせるさ。」
憂いもなく笑ったアルバス様の笑顔が、とても眩しかった。
「では、それでもどうにもならなくなった時は、呼んで下さい。友人としてなら力になります。でも、報酬は要求しますからね!アルト商会の出張料金は高いのでお覚悟を。」
「ククッ、それは心強い。背後は見なくて済みそうだ。ありがとう、リルメリア嬢。最後に細やかな願いを聞いてもらっていいかい?」
願い??
スッと席を立ったアルバス様を、私は不思議に思って見上げる。するとすぐに、彼の両腕が私の背中に回った。
「愛しているよ、貴女を。貴女だけを、心から。」
熱い腕の中で囁かれた言葉は、あまりにも切実で、そして切なかった。
けれど、あっさりと温もりは離れていった。
「これ以上は、周りが怖いからね。」
苦笑いを浮かべるアルバス様の視線が、ドアの方を向いていた。
「でも、知っていて欲しかったんだ。私の気持ちを、貴女に。」
そう言って笑ったアルバス様の笑顔は、アルグリア学院時代のままだった。




