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「そんな事させない。」
「お前...。」
「この子達を犠牲にはしない。だからエリンは渡さない。」
私はエリンを背中に庇いながら、男爵を睨みつけた。
男爵のこめかみには、はっきりと青筋が浮かぶ。
そこへ、のんびりとした王妃の声が入り込んだ。
「犠牲?貴方、おかしな事を言うのね。この国を長年守ってきたのは私なのよ?そんな私を支えてくれるこの花を守る事は、何よりも名誉な事じゃない。それを犠牲だなんて。悲しいわ。」
「オーレリー王妃様、この花は、サンクティーは誰も幸せにはしません。尊い命を犠牲にするだけです。」
「そんな事ないわよ?この美しい花は、貧しい平民だった私をこの国の王妃にしてくれたの。今も私に無限の魔力を与えてくれているわ。」
王妃が両手を上げると、それに応えるように、周囲の魔力が集まる。
花園が意思を持つように、王妃に力を与えていた。
「ふふ、凄いでしょう?私はこの力で魔物から民を守っているの。だから貴方達も、誇りを持って花園の礎になって。大丈夫!怖くなんてないわよ!」
「お断りします!私もこの子達も、貴女のための生贄ではありません。」
王妃は、夢見る少女のように子供達に犠牲を強いる。
そんな王妃に、私はどうしようもない程怒りが湧いた。
もう本当に我慢の限界。
私は、首に掛けてある魔道具のペンダントを強く握りしめる。
そこへやっと、待ちに待った合図が来た。
もう怒りに耐える必要はない。
嬉しさのあまり、私の口角が上がった。
直ぐに私は、自らに掛けていた魔力抑制を外す。
一気に体から溢れ出した魔力が、私の容姿変化の魔法を溶かしていった。
「だ、誰!?」
「初めまして。私はリルメリア。ティリウス聖王国で聖女をしています。どうぞよろしく。」
一様にみんなが息を呑む中、私はドレスを着ているかのような仕草で挨拶をする。
私の魔力に当てられたグレゴール男爵が、ガクリと腰を抜かした。
王妃のスカートに縋り付く姿は不様だ。
「そう。それで、聖女がアズバンド王国に何の用かしら?ああ、もしかしてアマンディア王女?あの子の我儘には、私もうんざりしていたの。聖王国に連れて行って自由に処罰してくれて構わないわよ?そんな事のために、わざわざ孤児のふりをして乗り込んできたの?ふふ、聖女ってドブネズミみたいね。」
逸早く正気に戻った王妃が、右手の扇を私に向ける。そこには、はっきりと感じられる敵意が込められていた。
「オーレリー王妃様、分かっているでしょう?私は、サンクティーを消しに来たの。根こそぎ全てね。」
「な!?」
「この花は世界にあってはいけないの。」
「そんなこと...そんなこと許さない!」
怒りを露わにした王妃が、私に向かって魔力を放った。




