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それから数日経つと、一人また一人と体調不良を訴える子が出てきた。
けれど、グレゴール男爵はその子達に休みを与える事はしなかった。王妃の命令だからと。
「カイン、大丈夫?」
一緒に作業していたカインの様子が、何かおかしい。私は、体を震わせ今にも倒れそうなカインの肩を支える。
「お前、ここから出た方がいい。やっぱりこの花は変だ。」
「カイン、君には何が見えているの?」
不思議な輝きを持つカインの瞳を覗き込むと、その瞳は困惑に揺れていた。
「皆さん、ご機嫌よう。私の大切なお花のお世話、ご苦労様。貴方達のおかげで美しい花園が広がって嬉しいわ。」
突然のオーレリー王妃の登場に、子供達が歓喜に沸く。
「王妃様!私達、王妃様のために、一生懸命頑張りました!」
「ふふ、ありがとう。貴方達をここへ呼んで良かったわ。これからもよろしくね、可愛い子供達!」
「「「はい!」」」
麗しい笑顔を見せる王妃の横で、子供達が嬉しそうに笑っている。
でも私には、その優しい光景がどうにも受け入れ難かった。
「あ、あの、王妃様!」
心配そうにこちらを覗っているカインを余所に、私は王妃の前に躍り出た。
「王妃様!どうか、少しだけでも休みをください。慣れない環境に体調を崩す子が増えています。ですからどうか...。」
「やめなさいよ!」
私の前に、顔色の悪いエリンが立ち塞がる。
「王妃様、申し訳ありません。二度とこの孤児を、王妃様には近付けさせませんから!」
エリンが私の腕を強く掴んで引っ張っていく。
「エリン!待って!僕、まだ王妃様に言いたい事があるの!」
「いい加減にしなさいよ!」
エリンの振り上げた手が、私の頬を打った。
痛っ...。
叩かれた衝撃で、私の目に涙が滲む。
「孤児なんて王妃様の近くにいちゃいけないの!今すぐ、どっかに消えて!あっ...」
再び右手を振り上げたエリンの体が、大きく傾く。
「エリン!」
倒れかけたエリンを、私は何とか受け止めた。
真っ青な顔をしたエリンの体は、氷のように冷たい。私は、意識を失ったエリンをゆっくりと地面に降ろした。
「男爵様、エリンが!医務室へ運ぶのを手伝って下さい!」
私の周りに、エリンを心配した子供達が集まってくる。
「まあ、ふふ、エリンはそのままでいいわ。その子は私のとっても可愛い花になるの。ふふ、素敵でしょう?」
「え?王妃様?何を言って...。」
倒れたエリンを見て嬉しそうに笑う王妃に、子供達が困惑した顔を向ける。
「グレゴール、その子を花の中に寝かせてあげて。きっと良い花が咲くわ。」
王妃の指示を受けた男爵が、動揺する子供達を横目に、エリンへ手を伸ばす。
私は、男爵のその手を力を入れて叩き落とした。




