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オーレリー王妃に案内された先は、王宮から少し離れた場所にある離宮だった。
離宮内は、人の気配が感じられないものの、大理石の床は綺麗に磨かれ、塵一つ落ちていない。
廊下のカーテンは全て高級なベルベットが使われ、それを纏めるタッセルには宝石が輝いていた。
使われた形跡のないこの壮麗な離宮は、妖美な王妃のように、どこか不思議な場所に感じられた。
そんな離宮を歩く子供達は、緊張しつつも浮き足だっている。興味を惹かれる物があるのか、忙しなく頭が動いていた。
私は、嬉しそうな子供達の後ろを大人しくついて行く。
王妃に手招きされてガラス扉を通ると、軽い違和感を感じた。
どうやら結界内に入ったようだ。
瞬時に変わった空気に、私は気を引き締めた。
「さあ、ここよ。貴方達には、この子達のお世話をお願いしたいの。」
王妃が最後の扉を開けると、そこには真っ白な花園が広がっていた。
「「わあ...綺麗。」」
子供達が口をポカンと開けて呆けている。
「この花はね。とっても繊細で、選ばれた子達しか、お世話が出来ないの。だから貴方達にお願いしたいのよ。大切な花だから、しっかりお世話してね。」
「「はい!」」
「ふふ、頼もしいわ!じゃあグレゴール、後はお願いするわ。」
王妃は愛おしそうに花を一撫ですると、クルリと背を向けて帰っていった。
その後、グレゴール男爵から花の世話の仕方を説明されて、私達は与えられた離宮の部屋へと分かれた。
「おい、お前!あんまり目立つ行動は取るなよ!」
「え?あ、はい。」
同室になった茶色の髪の少年が、部屋のソファに寝転びながら私を見ている。
この子は、ここに集められた子供達の中で一番小さい子だ。鼻の頭にソバカスが散っていて可愛らしい。
「お前なあ。どんだけ田舎から来たんだよ。王都では孤児が嫌われてるの知らねえの?」
「僕、あんまり王都の事、知らなくて。」
私は、呆れた顔でこちらを見ている少年の隣に座った。
「やっぱり。あのな、王妃様は孤児院の慰問中に孤児に襲われてんだよ。そん時の怪我が原因で、子供を授かれなくなったって噂があんの。だから孤児は嫌われてんだよ。お前、アイツらに目を付けられんなよ。」
「えっと、僕を心配してくれるんだね。ありがとう。」
この少年は、ぶっきら棒ながらも優しい子なのだろう。私のお礼に耳を赤くして照れていた。
「ふふ、僕はリド。君は?」
「カイン。」
そっぽを向いてしまったカインは、そのまま黙って寝たふりをしている。まるで懐かない猫みたい。
私は笑い顔を隠して、荷物の整理に戻った。




